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【第20話】戦うクラフター。ロイドの真の力

炎と黒煙が立ち込める武器・防具エリアに、ロイドとカイルが駆けつけた。


会場のあちこちで展示ブースが破壊され、逃げ惑う人々の悲鳴が響き渡っている。


「こっちだ、慌てずに出口へ向かえ!」


カイルが大声を張り上げ、逃げ遅れた客たちを安全な方向へと誘導する。


ロイドも周囲の状況を冷静に見極めながら、瓦礫の下敷きになりかけていた商人を引きずり出した。


大半の客の避難が完了しかけたその時、煙の向こうから二つの人影がゆっくりと現れた。


一人は長剣を構えたソーサナイト(魔導騎士)、もう一人は杖を持ったマジックキャスター(魔導師)だ。


二人の暗殺者は、逃げる人々には目もくれず、真っ直ぐにロイドたちを見据えていた。


「おい、ビンゴだ。こいつ、リストの標的に載ってたやつだ」


ソーサナイトが剣先をロイドに向け、殺気を放つ。


どうやら無差別テロではなく、明確な目的を持った襲撃らしい。



「先生は客の避難にあたってくれ!」



カイルがロイドの前に進み出た。


今日は休日で品評会を見て回るだけだったため、カイルは愛用の魔力伝導鋼の大盾を学園寮に置いてきてしまっていた。


カイルは咄嗟に、近くの展示ブースに立てかけられていた鋼鉄の大盾を引っ張り出し、両手でしっかりと構える。



「クラフターの先生は、前衛のオレが守る!」



カイルの気迫に、マジックキャスターが鼻で笑った。



「はっ、制服を着たガキが。展示品の盾で何かを守れるとでも?まずは小手調べだ、ファイヤー・ボール!」



ボボボボボォッ!!



マジックキャスターの杖の先から、灼熱の火球が連続して放たれた。


同時にソーサナイトが地面を蹴り、火球の死角から神速の突きを繰り出す。


カイルは重心を落とし、展示品の盾で火球を受け止める。


カイルの特異体質である絶対魔力耐性は、外部からの魔法攻撃を全て弾き返す。


しかし、その際に発生する凄まじい魔力の圧力は、カイルの肉体と盾との間に滞留してしまう。


普段の魔力伝導鋼の盾ならば、その圧力を難なく受け流すことができる。


だが今手にしているのは、展示品の試作シールドだ。


メコッ、という嫌な音と共に、鋼鉄の盾はひしゃげ、ひび割れる。



「くそっ!やっぱりこれだともたねぇ!」



カイルは砕け散る盾を捨て、すぐさま別のブースから真新しい盾を引き抜く。


しかし、そこにソーサナイトの重い剣撃が叩き込まれた。



ガァンッ!



と火花が散り、二枚目の盾もあっけなく真っ二つに叩き割られる。


圧倒的な連携と、専用装備がないことによる防御力の低下。


次々と展示品の盾を交換しながら必死に防戦するカイルだったが、手練れの暗殺者コンビを前に防戦一方となり、ついにバランスを崩して片膝を突いた。



「オレが、ここで止める……!」



丸腰になってもなお立ちはだかろうとするカイルの肩に、ヨレヨレの白衣を着た手がポンと置かれた。



「ここまでよく耐えた、カイル。さすが俺の生徒だ。…あとは俺に任せろ」



いつもの気怠げな、しかしどこか温かみのある声だった。



「教師ってのはなぁ、生徒を守るもんだ」



他の客たちの避難を終わらせたロイドは、カイルの前に出ると、白衣を翻し左右の腰のホルスターから、鋼鉄製のグリップを取り出し、両手に握りしめた。


さらに内ポケットから、指先で直径六センチほどの淡く虹色に輝く、魔力結晶ガラス製のディスクを取り出す。


その表面には、五センチほどの緻密なルーンが刻み込まれていた。


ロイドがディスクをグリップにカチャリとはめ込み、自身の魔力を流し込む。


「シャキンッ!シャキンッ!シャキンッ!」という鋭い金属音と共に、グリップの先端から鋼鉄製の伸縮棒が勢いよく飛び出し、特製のトンファー型マギア『ルーン・ドライヴ』が展開された。


「おいおい、クラフターが前に出てどうする気だ?」


ソーサナイトが嘲笑を浮かべる。


カイルも驚きに目を見張った。


ロイドはクラフターであり、前衛で戦うようなジョブではないはずだ。


「お前個人に恨みはないが、これも仕事なんでな。…アイス・スピア!」


マジックキャスターが放った鋭い氷のつららがロイドに迫った瞬間、カイルの常識は覆された。


ロイドの手元でトンファーが鮮やかな赤い光を帯びる。


装填されたディスクのルーンが起動し、鋼鉄の軸部分に炎の属性がまとわされたのだ。



カキィィンッ!!



ロイドは軽く身をこなし、炎をまとった鋼鉄のトンファーで氷のつららを的確に弾き飛ばした。


氷はトンファーに触れた瞬間に蒸発し、白い蒸気となって消え去る。


「なっ……魔法を打撃で弾いただと!?」


驚愕するマジックキャスターの隙を突き、ソーサナイトが怒声と共にロイドへ斬りかかった。


「どうせまぐれだっ!死ねぇ!」


神速の剣撃がロイドの首筋に迫る。


しかしロイドは表情一つ変えず、手元のグリップを操作してディスクのルーンを切り替えた。


今度はトンファーの鋼鉄の軸が紫色のスパークを放ち、雷の属性を帯びる。


ロイドはクラフターとは思えない滑らかな体術で踏み込み、右のトンファーで剣を完璧に受け流した。


そしてすれ違いざまに、雷をまとった左のトンファーで、強烈な打撃をソーサナイトの脇腹に叩き込む。



バリイィィッ!


「ガハァァァッ!」



ソーサナイトは悲鳴を上げて吹き飛び、展示ブースに激突、武具を撒き散らして倒れ込み動かなくなった。


一瞬の出来事に、カイルは口を開けたまま呆然と立ち尽くした。


あのいつも気怠げで眠そうな先生からは想像もつかない、あまりにも洗練された体術と圧倒的な近接格闘能力。


かつて、アルノの父であるヴォルガンと共にAクラスに君臨し続けた男の真の実力が、今カイルの目の前で振るわれていた。


相棒があっという間に倒され、残されたマジックキャスターの顔に焦りの色が浮かぶ。


「ふざけるな!、たかがクラフター風情が!…ウインドカッター!」


男は杖を高く掲げ、ロイドを近付けさせまいと、無数の鋭い風の刃を連続で放った。


ロイドは『ルーン・ドライヴ』のディスクを素早く切り替え、風の障壁を展開して相殺するが、次々と放たれる魔法の弾幕により、あと一歩の距離が詰められない。


「ちっ、弾幕を張られたか。これじゃあ近づけねぇな……」


ロイドが舌打ちをしたその時、背後からカイルの叫び声が響いた。



「オレもいるってことを、忘れるなーっ!」



カイルは近くの装飾品ブースから、デコラティブな青銅の盾を引っ張り出していた。


「先生、合わせてくれ!」


カイルは自身の魔力を、青銅の盾に一気に注ぎ込む。


しかし、戦闘用ではないその盾は、カイルの魔力圧に耐えきれず、一瞬でメキメキとひび割れ始めた。


どうみても長くは持たない、限界まで圧縮することは不可能だ。


ならば、壊れる前に撃ち出すのみ。



「シールド・バァァァッシュ!」



カイルが渾身の力で盾を押し出すと同時に、青銅の盾は粉々に砕け散った。


放たれた衝撃波は、いつもの威力には到底及ばない。


だが、マジックキャスターの足元をピンポイントで打ち抜き、体勢を崩すには十分だった。


「うあっ!?」


突風に足元をすくわれ、マジックキャスターの魔法の詠唱が途切れる。



「上出来だ、カイル!」



その一瞬の隙を、ロイドが見逃すはずがなかった。


ロイドは地面を蹴り、一気にマジックキャスターの懐へと潜り込む。


グリップのディスクを素早く入れ替え、『衝撃』のルーンを起動させた。


「しまっ……!」


男が防御魔法を展開するより早く、ロイドの重い一撃が、男のみぞおちへと深くめり込んだ。



ドズッ!、ドパンッ!!!



ロイドの一撃から一瞬の後、ルーンによる強烈な追撃が起動し、2段階の攻撃が見事に炸裂した。


「ぐっ……がはっ……」


マジックキャスターは白目を剥き、崩れ落ちるようにその場で気を失った。


静寂が戻った武器・防具エリア。


ロイドは手早く、気絶した二人の暗殺者を展示品を囲うロープで縛り上げると、『ルーン・ドライヴ』を腰のホルスターへしまい、いつもの気怠げな表情に戻って首を鳴らした。


カイルは砕けた青銅の盾のグリップを握りしめたまま、呆然とロイドを見つめていた。


「先生……あんた、本当にクラフターなのか?あの動き、そこいらの戦闘職のレベルじゃねえ……」


「言ったろ?昔はチームメンバーと一緒に、よくダンジョンに潜ってたんだ」


ロイドはポケットからよれよれのハンカチを取り出し、額の汗を拭きながら苦笑した。


「俺の昔の仲間は、どいつもこいつも無茶苦茶な奴らばかりでな。そいつらの背中を守るために、必死で立ち回りを覚えただけさ。……まあ、アルノの親父のヴォルガンが一番の馬鹿だったがな」


カイルは息を呑んだ。


アルノの父親であり、王国騎士団長を務める最強の男、ヴォルガン・ラインハルト。


ロイド先生が、かつてAクラスでそのヴォルガンと肩を並べて戦っていたという事実が、カイルの中でようやく現実のものとして結びついた。


「……っと、のんびりしてる場合じゃねえぞ」


ロイドの鋭い声に、カイルはハッと我に返った。


ロイドは縛り上げた暗殺者の懐から、一枚の羊皮紙のメモを抜き出していた。


「こいつら、俺を見て『リストの標的』と言った…。このリストには、俺やマギア協会のホープ……他には将来を有望視されているクラフターたちの名前が書かれているな」


ロイドの表情が、再び険しい教師の顔へと変わる。


「カイル、アルノとシルフィアは未来エリアだったな?」


「…たしかそのはずです」


「まずいな。未来エリアは一番会場が広くて、入り組んだ死角だらけだ。あいつらが狙われたら厄介だぞ」


カイルの顔色が変わる。


様々な死闘をくぐり抜けてきたアルノとシルフィアだが、向こうの会場に何人の暗殺者がいるのかは分からない。


「急ごう、先生!」


カイルは丸腰のまま、脱兎のごとく駆け出した。


「おい、待て!せめて盾くらい持っていけ!」


ロイドは呆れたように叫びながらも、白衣を翻してカイルの背中を追う。


(アルノ、シルフィア、無事でいてくれ!)


カイルは心の中で仲間の無事を強く祈りながら、黒煙の向こう、アルノたちが向かった未来エリアへと一直線に走っていった。


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