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【第7話】最強の盾は最弱の盾?!絶対魔力耐性の欠陥

放課後。


多くの生徒が行き交い、賑わいを見せる広々とした学園の中庭。


その中庭を突っ切るように、食堂に併設されたカフェへと続く石畳の中央で、険悪な空気が漂っていた。



「おい、底辺クラスの分際で俺たちの道を塞ぐなよ」



「……わざとぶつかってきたのはそっちだろうが」



冷ややかな視線を送る数人のAクラスの生徒たちに対し、孤立した状態で睨み返しているのは、Dクラスの前衛、カイルだった。


代々近衛騎士を輩出する名家の生まれである彼は、体格も良く威圧感があるが、Aクラスのエリートたちは、カイルの襟に付いているDクラスを示すバッジを眺めながら「所詮はDクラス、どうせ魔法もろくに使えない落ちこぼれ」と鼻で笑っている。


「なんだその目は。身の程を教えてやる!」


Dクラスでありながら、カイルの堂々とした態度に苛立ったAクラスの一人が、掌に魔力を集中させた。


「おい、許可された場所以外での魔法は禁止じゃ……」


「大丈夫だ、ちょっと驚かしてやるだけさ」


仲間の制止を軽くあしらい、手加減したウィンド・ショットが放たれた。



「きゃあっ!?」



「危ない!」



驚かす程度とはいえ、周囲には無関係な生徒たちが多数いる。


巻き添えになりかけた彼らを庇うように、カイルは咄嗟に前へ出て腕をクロスさせた。


風の衝撃波が彼の身体に触れた途端、まるで透明な壁に弾かれたように跡形もなく弾け飛んだ。


カイルの持つ特異体質、『絶対魔力耐性』。


あらゆる魔法的干渉を完全に無効化する、盾としては最強の特性だ。


だが、魔法そのものは無効化できても、弾かれた魔法の余波までは消せない。


突風が地面の小石を跳ね上げ、それがカイルの頬を鋭く掠めて飛んでいった。



「痛っ……」



カイルの頬に赤い線が走り、ツーッと一筋の血が流れる。



「ちょっと!、何やってるのよ!」



ちょうど食堂へ向かっていたアルノとミラが、人だかりを掻き分けて駆け寄ってきた。


実習を機にすっかり打ち解けた二人は、この日も行動を共にしていたのだ。


「カイル、頬から血が! 今すぐ治すわ……ヒール!」


ミラが咄嗟に手持ちの太い木杖を振るい、回復魔法をカイルの頬に放つ。


アルノのアタッチメント(出力排熱陣)のおかげで見事に制御された、温かく優しい光の魔法だ。


だが…。



パァンッ!



「えっ……!?」


ミラの放った回復魔法は、カイルの身体に触れる直前で、先ほどの攻撃魔法と全く同じように無慈悲に弾き飛ばされてしまった。


「……悪い、ミラ。オレの体は、味方の魔法も受け付けないんだ」


頬の血を手の甲で拭いながら、カイルは自嘲気味に呟いた。


「騒がしいぞ、なにごとだ!」


氷のように冷たく、よく響く声が中庭を制圧した。


人だかりが割れ、Aクラスの担任であるギルベルトが姿を現す。


長身で神経質そうな顔立ち、冷徹な空気を纏う男だ。


ギルベルトはAクラスの生徒たちに「学園内でむやみに魔法を使うな」と短く注意を与えると、血を流して立ち尽くすカイルを冷ややかに一瞥した。


「敵の攻撃だけでなく、味方の回復すらも拒絶する絶対魔力耐性……。戦場で修復できない盾は、ただの使い捨ての壁だ。味方の支援を受けられない無能は、盾にすらならん」


それは、カイルの最も深く、最も触れられたくない傷をえぐる残酷な宣告だった。


ギルベルトが踵を返して立ち去った後、中庭には重苦しい沈黙と、俯くカイルの姿が残された。



「……あの先生の言う通りだ」



ポツリと、カイルが重い口を開いた。


「オレの実家は代々、王家を護る近衛騎士の家系だ。だが、オレの絶対魔力耐性は強大すぎるあまり、味方の支援魔法すらも弾いてしまう。戦場では、回復も強化も受けられない前衛なんてすぐに行き倒れる。だからオレは、家から見放された欠陥品なんだ」


自嘲するように笑うカイルの背中を、アルノとミラは黙って見つめていた。


「とりあえず、場所を変えようか。ここじゃ目立つしね」



ーー



アルノの提案で、三人は学園の裏手にある、普段は誰も使わない旧修練場へと移動した。ここなら他の生徒の目に触れることはない。


旧修練場の木陰に腰を下ろしたカイルに、アルノはにっこりと微笑みかけた。


「全部弾いちゃうなら、一箇所だけ魔法を受け入れる『穴』を作ればいいじゃないか」


「穴、だと?」


「そう。カイル、ちょっと胸を張って」


アルノはダミーのグローブを外し、カイルの胸のど真ん中、頑丈な金属製の胸当てに指先を這わせた。



キュインッ!!



微かなキャスト音と共に、アルノの五本の指が、まるでピアノの鍵盤を叩くように軽やかに胸当ての上を滑る。


「えっ……お前、オレの鎧に何をした?」


カイルが目を丸くしている間にも、硬い金属の表面に、うっすらとルーンが浮かび上がる。


アルノが指を離すと、カイルの胸のど真ん中には、直径3センチほどの精緻な模様が一つだけ刻まれていた。


「……おい、これ。どう見てもダーツの的じゃねえか」


「ふふっ、カイル君、君はこれから的になるんだよ」


アルノはちょっと悪そうに笑い、その的をトントンと指でこづいた。


「これは『レシーバー(受信陣)』。カイルの絶対魔力耐性を、この3センチの範囲だけ減衰させて魔法を受け入れるようにする極小のデバフ領域さ。ここを狙えば、回復魔法は通るよ」


「なっ……! デバフ領域って、そんなことできるのか!?」


「本来なら背中や腕の内側、膝裏とか、敵の死角になる場所にいくつか刻んで、戦いながら打ち込めるようにできればいいんだけど、まずは一番当てやすい真正面からテストしよう」


「いやいや、待てよ」


カイルは慌てて突っ込んだ。


「いくら3センチとはいえ、激しく動く戦闘中に、こんな小さな的を狙って魔法を当てられる奴なんて、そうそういるわけないだろう!」



「いるわよ、ここに」



自信に満ちた声が聞こえる方へ振り返れば、15メートルほど離れたところから、ミラがこちらに杖の先を向けている。


ミラはあれ以降、アタッチメント(出力排熱陣)付きの杖をめきめきと使いこなし、今ではAクラスの生徒にもひけをとらない正確性を身に着けていた。


「ワタシが、その的のど真ん中を撃ち抜いてあげる」


ミラの木杖の柄に刻まれた極小ルーンの唐草模様が、エーテルの流れに反応して淡く発光し始める。


アタッチメントによって過剰な魔力が光の粒子となって排出され、杖の先端には極限まで圧縮された回復魔法の光が形作られていく。


その見事な魔力制御は、以前暴発を繰り返していた彼女とは、まるで別人のようだった。


しかし、的となるカイルの顔は完全に引きつっていた。


「お、おいミラ……それは本当に回復魔法だよな? この前の壁みたいに、胸当てごとオレの身体に穴が空いたりしないよな!?」


魔法耐性があるとはいえ、あの大暴発を間近で見ていたカイルにとって、ミラの魔法をわざわざ胸のど真ん中の「弱点」に受けるのは恐怖でしかなかった。


「失礼ね! 今のワタシなら針の穴だって通せるわよ!… たぶん。ちょっとじっとしてて!」


「おまえ今たぶんって言っただろっ!いや、やっぱり怖いって! 待て、待てえええっ!」


「待たないっ!……ヒール・バレット!!」


カイルの情けない悲鳴を置き去りにして、ミラは杖を振り抜いた。



フォンッ!!



空気を押し出す様な音と共に放たれたのは、細く、どこまでも真っ直ぐに伸びる優しい緑色の光だった。

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