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【第17話】秘密の潜入、いざ女子寮へ

一方、女子寮のディアナたちの部屋は、悲惨な状況となっていた。


「ほらミラ、そっちはテレサが支えるだけって言ったでしょ?釘を打つ力加減が強すぎるのよ」


「うるさいわね!頑丈な方がいいでしょ!っていうか、ディアナは口だけなんだから黙ってて。ほら、シルフィアももっとしっかり持ってて!」


「あうぅ、……ミラちゃん、木材が……ミシミシいうてる……」


意外と不器用なシルフィアが震える手で木材を支え、大雑把なミラが強引に叩き、案の定、骨組みが派手な音を立てて崩落する。


ディアナはといえば、部屋の隅の椅子に優雅に腰掛け、お茶を飲みながら高みの見物を決め込んでいた。


「もう、見ていられないわね。テレサ、あっちの棚ももう少し右に動かしてちょうだい」


「はぁ、…ディアナ様も少しは手伝ってください……。あぁ…私がもう2人いれば……」


孤軍奮闘するテレサの足元には、バラバラになった板材と、設計図を無視して出来上がった謎のオブジェが転がっている。



コンコンコン。



そこへ、部屋の扉が控えめにノックされた。


「……失礼します。お手伝いに参りました」


現れたのは、紺色のボブカットを揺らした可憐な少女と、眼鏡をかけた知的な女学生、そして少し背の高いモデル風の美女……。


そして最後の一人は、異様に肩幅が広く、パツパツの制服に身を包んだ巨体の『女性?』だった。


「……ぷっ、……カ、カイル!?その格好、何よそれ!!」


ミラが腹を抱えて爆笑し、シルフィアも口元を押さえて肩を震わせる。


「笑うな!…好きでこんな格好してるわけじゃねえ……」


真っ赤になって抗議するカイルの横で、女装アルノがテキパキと袖をまくった。


「雑談は後だ。今寮母さんが不在なんだ。戻ってくる前にさっさと終わらせるよ。男子チーム、作業開始!」


男子チームの鮮やかな手際により、女子寮の惨状はみるみるうちに改善されていった。


カイルが崩れた木材を支え、ユリウスが的確な位置を確認しながら仮止め、ニコラスが素早く固定していく。


「ありがとうみんな…もう、終わらないかと思った……」


先ほどまで孤軍奮闘していたテレサが、感動のあまり涙ぐみながら呟く。


「ふふん、オレたちにかかればこんなもんよ!」


パツパツのスカートを揺らしながら胸を張るカイルの姿はかなりキツかったが、その腕前は確かだった。


最後にアルノが極細の魔力線で木材に『調湿』と『保温』のルーンを縫い合わせるように刻み込むと、無機質だった石の部屋は、まるでファルシアの豊かな森の中にいるような、温かく居心地の良い空間へと生まれ変わった。


「すごい……!さっきまでの石の冷たさが嘘みたい」


ミラが目を輝かせ、シルフィアも「木のええ香りがするわぁ」と深く深呼吸をする。


ずっと高みの見物をしていたディアナでさえ、その完璧な仕上がりには目を見張っていた。


「……まぁ、悪くないわね。手伝ってくれたことには感謝するわ」


素直じゃないディアナの言葉に、アルノたちは顔を見合わせて笑った。


「さて、長居は無用だ。見つかる前にズラかるぞ」


カイルの合図で、4人は再びウィッグを被り直し、足音を殺して女子寮の廊下へ出た。


行きは管理人が見回りで不在だったため奇跡的に突破できたが、帰りはそうはいかない。


息を潜め、抜き足差し足で玄関ホールへと向かう4人。


あと少しで出口というところで、正面の扉がガチャリと開いた。



「ひっ……!」



4人は咄嗟に壁際に張り付き、顔を伏せた。


管理人は訝しげに目を細め、4人の前に歩み寄ってくる。


「……おや?見ない顔だね」


管理人の鋭い視線が、まずアルノ、ユリウス、ニコラスの3人へと注がれる。


3人は冷や汗を流しながらも、必死に内股になり、女の子らしい仕草を取り繕った。


「編入生かい?……まあいい、随分と美人さんたちだねぇ。寮のルールはしっかり守るんだよ」


管理人は3人の顔立ちを見て、すんなりと納得してしまった。


アルノの元々の美少女顔はもちろん、ユリウスの知的な雰囲気やニコラスの整った顔立ちは、完全に管理人の目を欺いたのだ。


「ふぅ……」


3人が心の内で安堵の息を吐いた、その時。


管理人の視線が、最後尾で小さくなっているカイルへと移った。


「…………」「…………」「…………」


沈黙が落ちた。


カイルの188cmという規格外の巨体。肩幅は広く、胸板は厚く、どう頑張っても隠しきれないゴリマッチョな筋肉が、女子用の制服を内側からはち切れんばかりに圧迫している。


おまけに夏の日差しで浅黒く日に焼け、小さすぎたウィッグからはみ出た暗めの茶髪が哀愁を漂わせていた。


数秒のフリーズの後、管理人の顔が夜叉のように怒りに染まった。



「お前のような女生徒がいるかぁぁぁッ!!」



管理人の怒号が、女子寮の玄関ホールに響き渡った。



ーー



…30分後。


アルノたち男子4人と、手引きをしたミラたち女子4人の計8人は、寮の巨大な厨房で横一列になり、正座をさせられていた。


「男子禁制のルールを破るなど、言語道断!連帯責任として、お前たち全員でこの厨房の床から換気扇まで、チリ一つ残さず磨き上げなさい!」


管理人の雷が落ち、8人は泣く泣く雑巾とブラシを手に取った。


「ご、ごめんカイル君……私が無理を言ってしまったから……」


「いや、これはオレのせいだ、テレサ。オレがもっと華奢に生まれていれば……」


まだ女装姿のままのカイルが本気で落ち込む横で、ニコラスが「いや、いくら華奢でも男は男だろ」とツッコミを入れる。


文句を言いながらも、8人の作業は早かった。


ここでも無駄に洗練されたチームワークを発揮し、アルノが『ルーン・ステッチ』で摩擦係数を下げて、こびりついた汚れを一気に除去、ミラが風魔法で水気を飛ばし、ユリウスが板状結界でゴミを一箇所に集める。


さすがのディアナもしぶしぶ手伝い、たったの一時間で厨房は新築のようにピカピカに磨き上げられた。


「……終わりました」


カイルが報告すると、腕を組んで監視していた管理人は、磨き上げられた厨房をぐるりと見渡した。


そして、ふっとその厳しい顔を和らげた。


「……手際は見事だね。まあ、あんたたちが女子寮に忍び込んだ理由くらい、お見通しだよ」


管理人の言葉に、8人はハッと顔を上げた。


「ファルシアから避難してきた子たちのために、部屋を綺麗にしてやってたんだろう?……遠い異国から来て、不安だったはずだ。あんたたちなりの歓迎だったってことは、分かってるよ」


管理人はそう言って、厨房の巨大な冷蔵庫を指差した。


「これで罰は終わりだ。ほら、そこにある食材を好きに使っていい。みんなで夕飯を食べていきなさい」


その粋な計らいに、8人の顔にパッと明るい色が戻った。


「よっしゃ!なら、今日の夕飯はオレに任せろ!」


カイルがパツパツの制服の袖をまくり上げ、意気揚々と調理台に立つ。


「僕たちも手伝うよ!」


アルノやニコラスも加わり、厨房はにわかに活気づいた。


カイルのオカン力と料理の腕前が火を吹き、王都の食材を使いながらも、ファルシア風の味付けに寄せた絶品の料理が次々と大皿に盛り付けられていく。


食堂のテーブルに並べられた豪華な食事を前に、ディアナたちチームクラークの面々は目を丸くした。


「すごい……これ、全部カイルが作ったの?」


「へっ、たくさん食えよ。明日からの学園生活、腹が減ってちゃ戦えねえからな」


カイルが自慢げに笑う。


「いただきます!」


8人でテーブルを囲み、賑やかな夕食が始まった。


「おいしい!王国の食材なのに、なんだか懐かしい味がするわ」


ディアナが頬を緩め、テレサも「本当に美味しいです」と笑顔を見せる。


ファルシアからの避難という重い現実を突きつけられ、心のどこかで張り詰めていた彼らの糸が、温かい食事と仲間たちのドタバタな優しさによって、ゆっくりと解けていくのを感じていた。


「みんな、今日は本当にありがとう。……少しだけ、不安だったの」


食後の紅茶を飲みながら、ディアナが小さく呟いた。


「でも、あなたたちがいてくれるなら、この国でもやっていけそうだわ」


その素直な言葉に、アルノたちは温かい笑顔で頷いた。


「いつでも頼ってよ。ボクたちはもう、クラスメイトなんだから」


アルノがカップを掲げると、全員がそれに続いた。


「そうだな。この学園での新しい毎日に……乾杯!」


ユリウスの音頭で、8つのカップがチンッと軽い音を立てて触れ合う。


窓の外では、秋の夜風が静かに木々を揺らしていた。


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