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【第13話】誘拐の真相。潜む帝国の手先

アルノを無事取り返すため前日から一睡もしていなかったシエルたちを気遣い、エルウィンとシルフィアの父は、騎士団にはアルノの無事だけを連絡し、詳しい報告は明日にということでその日は幕を閉じた。



ーー



そして次の日。


朝食を済ませたチームガレオスの4人と、シエル、ウィリー、リディア、エルウィン、そしてシルフィアの父の9名は、屋敷の広い応接間に集まっていた。


21人掛けの巨大なテーブルには、上座にシルフィアの父が座り、エルウィンとチームガレオスの4人が片側に、シエルたち3人が向かい合う形で座った。


テーブルの中央には、スピーカーとマイクが繋がれた重厚な通信マギアが置かれ、全員が報告に参加できる準備が整っていた。


エルウィンが通信マギアのダイヤルを回し、騎士団の専用コードを入力する。


「ジリリリリ」とコールが一度鳴ると、「カチャ」と通信が繋がった。


「エーテリス家当主の、ライガード・エーテリスです。こちらには関係者が全員そろっております」


ライガードの重々しい声に、スピーカーの向こうから落ち着いた声が返ってきた。


『私は宰相のロベルです。まずは騎士団長から話があるそうなので、代わりましょう』


向こう側には国王、ヴォルガン、宰相ロベル、そしてルイスの4人が控えていた。


今回の事件には不確定な部分が多く、まだ他の大臣たちに伝えるには早いという判断から、極秘の通信会議となっていた。



『アルノ、そこにいるか?』



スピーカーから響いた低く威厳のある声。


それは、アルノの実父であるヴォルガン・ラインハルトのものだった。



「うん、久しぶり、父さん」



アルノが少し照れくさそうに答える。


それは、両親が離婚して以来、約8年ぶりの親子の会話だった。


『そうか、無事で良かった。リディア、シエル、ウィリー、そしてピロー、みんな良くやってくれた。アルノの父として、心から感謝する』


ヴォルガンが、深く安堵したような声で感謝の言葉を述べる。


『では、まずは騎士団の報告から始めよう』


騎士団長としての顔に戻ったヴォルガンの声が響く。


『リディアが捕らえた工作員たちは、全員騎士団に引き渡された。しかし、その中の12人は牢の中で、すでに服毒自殺を遂げた。残りの4名の自殺は食い止められたが、どのような尋問にも耐え、決して口を割らないそうだ。そこで、今回の事件を時系列に紐解こうと思う』


アルノが姿勢を正し話を繋いだ。


「ボクたちは世界樹の迷宮にビーストが出るようになった原因を探すため、ダンジョンに入ったんだ。そしてダンジョンの主の住処であるラクリマの泉で、工作員の一人と出会った。やつの狙いはおそらくラクリマを洗脳して、兵器として利用するつもりだったんだと思う」



『洗脳か……』



スピーカー越しに、国王の重苦しい声が響く。


「そして、僕たちがラクリマと戦い、疲弊したタイミングでもう一人の工作員であるシャドウが現れ、ボクはそいつに攫われてしまった」


アルノの言葉に続き、カイルが口を開く。


「攫われたアルノを追って、オレ達は敵を追跡しました。ダンジョンの出口で追い詰められると思ったからです。しかしなぜか奴らはリターンキーを所持しており、そのままゲートを抜けて逃走を許してしまいました」


その報告に、スピーカーの向こうが騒然となる。



『リターンキーを持っていただと!?エーテリス領のキーに紛失はないのか?』



ヴォルガンが問いただす。



「紛失はありません。現在もキーは全てそろっております」とエルウィンが即座に答える。


『他のゲートキーパーからも、ここ最近は紛失等の情報は上がってきておりませんな』と宰相ロベルが資料をめくる音をさせながら答える。


『まさか、タルタロスの暗号化ルーンを解読して、キーを作ったとでもいうのか!?』



ルイスの声が上ずる。



『いや、それは不可能でしょう。タルタロスとリターンキーの暗号は一定時間で変化します。万が一現在の暗号が解けたとしても、変化パターンまで一致させるのは現実的に無理でしょう』



ロベルが落ち着いた声でルイスの推論を否定する。


『じゃあどこからキーを手に入れたというんだ?』


ルイスが再び問う。


その時、アルノが静かに口を開いた。



「一つ、紛失したキーがあるはずです」



その言葉に、その場の全員がざわめいた。


「いや、ウチのキーは全部揃っとったし、他に紛失もないんやろ?なら、やっぱり作ったんちゃうん?」


シルフィアが首を傾げる。



「思い出して。ボクたちが1年の時に無くした、リターンキーのことを……」



アルノの言葉を聞いて、カイル、ミラ、シルフィアの3人は、1年生の時の合同実習の顛末をハッと思い出していた。


「そうよ!ワタシたちが無くしたキー、結局見つからなかったって聞いたわ。弁償しなくていいって言われて、もう終わったことだと今まで忘れていたわ!」


ミラが興奮して椅子から立ち上がる。


『ルイス様の同級生ということは、1年半前のことですな。ふむ……、ああ、これですな。魔導学園からの報告書によれば、1年生の実習時に第一演習ダンジョン内にてキーを1つ紛失。3日間の捜索を行ったが発見に至らず……とありますな。確かこの時は、学園敷地のダンジョン内であれば、学園関係者以外が見つけることはないでしょうと結論づけて、キーを再発行して終わっています』


ロベルが過去の記録を読み上げる。


「まさか、やつらが持っていたのが、オレ達が無くしたキーだとでもいうのか!?…ってことは、…いや、まさか…、そんな事あるわけねぇ!」


カイルが信じられないというように頭を抱えて動揺する。


「いやカイル、たぶんそうなんだと思うよ」


アルノが冷静に、そして冷酷な事実を呟く。



「おそらく学園の中に…帝国のスパイがいる……」



みな無意識に避けようとしていた結論を、アルノが真っ直ぐに突きつけた。


「学園にスパイ……」


さすがのシエルも動揺を隠せないようだった。


「手がかりを見つけられるとすれば、今学園に通っているアルノちゃんたちと、ルイスちゃんの5人ね。みんな、今までに怪しい人物や、違和感を感じたこととか無かった?」


向かいの席からリディアが問いかける。


『いや、私は特に……』


スピーカーの向こうからルイスが力なく答えた。


そこへ、カイルが意を決したように身を乗り出して話し始めた。


「あのよ、オレ少し気になってたことがあって……。ほら以前、裏山で密輸業者を捕らえた時の……あの時の、ギルベルト先生のことなんだ。後から聞いた話で、ギルベルト先生が結界に閉じ込めた男は騎士団が来る前に服毒自殺をしていて、森の中に置いてきたもう一人の男は結局見つからなかったって話。結局これって、先生以外に証明できる人はいないよな?」


「カイル、まさかギルベルト先生がスパイだっていうの?」


ミラがたしなめるようにカイルを睨む。


「いや……そういうわけじゃねぇけどよ……ただ、ちょっと気になったっていうか……」


カイルがバツが悪そうに口ごもっていると、向かいのリディアが可笑しそうに微笑む。


「ふふっ、ギルベルトちゃん、いっつも眉間にシワ寄せてるから疑われちゃうのよ。でも安心して。ギルベルトちゃんは絶対にスパイじゃないわ」


「そうね、私もギルベルト先生はスパイじゃないと思うわ」


シエルもリディアの言葉に強く同調する。


「リディアさん、シエル姉ちゃん、何か根拠はあるの?」


アルノが問うとリディアは、なにかを懐かしむような表情で答えた。


「私とヴォルガンちゃんと、ギルベルトちゃんは学園時代のチームメイトなのよ。さしずめ元祖チームラインハルトってところかしら。彼のことは、私たちが誰よりも信頼しているわ」


「「「「えっ?……えええーーーーーっ!!!」」」」


アルノたち4人は驚愕のあまり、完全に言葉を失った。


まさかあの厳格なギルベルト先生が、ヴォルガン、リディアと同じチームだったとは。


「で、でで……でもよ、あの先生、オレ達にめちゃくちゃキツく当たるんだぜ。なんか裏があるんじゃ……」


カイルが信じられないという顔で、リディアを見つめる。


「ギルベルトちゃんは昔から、ダンジョンで誰かが傷つくのをとても嫌がるの。だから実力の足りない人には、わざときつく当たって諦めさせようとするのよ。言葉足らずなところがあるけれど、本当は誰よりも優しいの。ねぇ、ヴォルガンちゃん」


『……ちゃんづけで呼ぶなと何度言ったら……』


通信機の向こうから、ヴォルガンの深い呆れ声が聞こえてきた。


「シエルさんは、どうして確証がもてるん?」


シルフィアが問うと、シエルは誇らしげに答えた。


「ウチのチームメンバーに、先生の娘がいるからよ。私は彼女を心から信頼しているわ」


「シエルさんのチームメンバーで、女性といったら……エリシアさん!?ガーディアンの!?……言われてみれば、あのキューブ型の結界術、まさしく親子ね……」


ミラは驚きの連続で、椅子に深くへたり込んだ。


「親子そろって、父さんとシエル姉ちゃんのチームメンバーか……。これ以上の確証はないね。ボクたちだって、チームの誰かが疑われても絶対に違うと言いきれるはずだ。一緒に死線をくぐり抜けてきた仲間の絆は、どんな可能性よりも信用できる」


アルノは、仲間に対する信頼が何より確かであると深く納得した。


「他に、何か思い当たることは無いのかい?」


シルフィアの父ライガードの問いに、皆がしばらく無言になった。


その静寂の中、アルノがポツリと呟いた。



「ボク、心当たりがあるんだ……」



その言葉に、全員の視線が一斉にアルノへと集まった。


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