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【第25話】運命の結果発表。2年Dクラスの行く末

……ドオォォォォォォッッ!!


闘技場を包み込んでいた静寂は、次の瞬間、爆発的な大歓声と絶叫が空へ向けて轟き渡った。


学園最強と謳われた3年Aクラス。


その頂点に立つシエル・ラインハルトが、最底辺の2年Dクラスに敗北した。


学園の歴史が覆ったその瞬間に立ち会った生徒たちは、もはや所属クラスの垣根を超え、狂ったように叫び、拳を突き上げていた。



闘技場の中央。



シルフィアの強烈な一撃を完全に相殺し、役目を終えて砕け散った2つの腕輪。


シエルの体を包み込んでいたオーラ状の薄いバリアが、ふっと空中に溶けるように消え去った。


ゆっくりと身を起こしたシエルは、服の砂を払いながらアルノとシルフィアの元へ歩み寄る。


そこへ、場外からカイルとミラも駆けつけてきた。


シエルは穏やかな、しかしどこか誇らしげな笑みを浮かべた。



「完敗よ。本当に……強くなったわね、アル君。それに、みんなも。素晴らしい連携と執念だったわ」



「シエル姉ちゃん……!」



立ちはだかった最大の壁からのねぎらいの言葉に、4人は泥と汗にまみれた顔を見合わせ、勝利の喜びに肩を震わせた。


熱気が全く冷めやらない闘技場に、ギルベルトの拡声マギアを通した冷静な、しかしどこか熱を帯びた声が響き渡る。


「静かに!」


その一喝で、会場の喧騒が波が引くように収まっていく。


「ステータスという絶対の指標。そして一年の経験の差。それらを覆すほどの『創意工夫』と『執念』を、2年Dクラスは身をもって証明した。実戦において、絶対など存在しない。この結果を己の糧とせよ」


ギルベルトは闘技場に立つ4人、そして敗れた3年生たちを見渡し、大きく頷いた。


「これにて、本年度のクラス総入れ替え戦、全日程を終了する!」



ドオォォォォォォッッ!!



再び、地鳴りのような大歓声が空へと吸い込まれていった。



ーー



激闘から三日後。


王立学園の中庭には、早朝から異様な緊張感が漂っていた。


今日は、2年生の総入れ替え戦の結果を踏まえた「来年度の新クラス」が発表される日である。


中庭の中央に設置された巨大な掲示板。


その前には全校生徒が押し寄せ、もはや掲示板の影すら見えないほどの黒山の人だかりができていた。


「うわぁ……すごい人。これ、全然見えないよ」


アルノが背伸びをして人垣を覗き込むが、見えるのは前の生徒の背中ばかりだ。


「カイル君もミラちゃんも見えへんみたいやね」


「ちょっと、これじゃいつまで経っても確認できないわよ」


3人が困り顔で立ち往生していると、アルノが隣のカイルを見上げてニカッと笑った。


「ねえカイル、肩車してよ!」


「はぁ!?」


カイルが大きな体をビクッと震わせる。


「だって全然見えないんだもん。カイルなら余裕でしょ?ボクならここからでも、この眼鏡で見えるからさ」


しかし、カイルは顔を一気に赤くして、全力で首を横に振った。


「い、嫌だ!絶対に嫌だ!」


「えー、なんでさ。減るもんじゃないし」


「理屈じゃねぇんだよ!お前、自分がいつもどんな格好してるか分かってんのか!?」


アルノは今日も学園指定の「女子用短パン制服」に、太もものベルトとハイソックスという出で立ちだ。


中性的な美少女顔と相まって、傍から見れば完全に女子生徒である。


そんなアルノをカイルが肩車などすれば、周囲からは「女子を肩車してニヤついているヤバい奴」という風にしか見られない。


「えー、ボク、男だけど?」


「知ってるわ!お前、絶対わかってて言ってるだろ!」


カイルが必死に抵抗する様子を見て、ミラとシルフィアがクスクスと笑い声を上げる。


そんな騒ぎの中、人混みの向こう側から、聞き馴染みのある凛とした声が響いた。


「あら、アル君たち」


振り返ると、そこにはすでに掲示板を確認し終えたらしいシエルたちがいた。


シエルは少しだけ寂しそうな、しかし弟を慈しむような複雑な表情でアルノの頭を撫でた。


「残念だったわね、アル君……」


「……えっ?」


シエルのその言葉に、アルノの心臓がドクンと跳ねた。


(残念だった?あの試合に勝ったのに、結果が悪かったということだろうか?まさか、あの健闘虚しくDクラスのまま……?そんな……みんなであんなに頑張ったのに……!)


「あ、アルノ!待ちなさいよ!」


ミラの制止も聞かず、アルノは弾かれたように駆け出した。


……自分の目で確かめなければならない。


アルノはその小柄な体格を活かし、密集する生徒たちの足元のわずかな隙間を、ルーンを刻むような正確さでするりと潜り抜けていった。


「きゃっ!え、今のなに?」


「おい、押すな……って、……なにかが通ったような…?」


背後のざわめきを置き去りにして、アルノはついに最前列へと躍り出た。


目の前には、巨大な掲示板。


そこには来年度のクラス編成と、その根拠となった獲得ポイントの詳細がびっしりと記されていた。


息を切らしながら掲示板を見上げたアルノは、ある一箇所で視線をピタリと止めた。



「……えっ?」



アルノはポカンと口を開けたまま、瞬きすら忘れて完全に固まってしまった。


呆けたように、ただその文字を見つめ続けている。


「アルノ!勝手に一人で行くなって……って、どうしたお前?」


人混みを力ずくでかき分けて追いついたカイル、ミラ、シルフィアの3人が、掲示板の前で石像のように硬直しているアルノの肩を叩く。


「アルノ君、どうやったん?……って、うそ…!」


シルフィアがアルノの視線を追うように掲示板を見上げ、その場で息を呑んだ。


釣られてカイルとミラも顔を上げ、3人の時間がピタリと止まる。


そこには、はっきりとこう記されていた。



【来年度3年Bクラス:現二年Dクラス】



「……Bクラス?ワタシたち、ほんとにBに上がったの?」


ミラが震える声で呟く。


入学初日、ロイドが吐き捨てるように言った言葉が脳裏をよぎった。



『過去DクラスがB以上に上がったことはない』



それがこの学園の、変えようのない「現実」だったはずだ。


「嘘でしょ……DクラスがBクラスに上がるなんて、学園の歴史でも初めてじゃない!?」


ミラの絶叫に近い声に、カイルが力強く拳を振り上げた。


「よ、よっしゃあぁぁぁ!!見たかこらぁ!!」


ようやく事態を飲み込んだ4人は、掲示板の前で周囲の迷惑も顧みずに飛び跳ね、抱き合って喜びを爆発させた。


「ボクたち、Bクラスだよ!落ちこぼれなんて、もう誰にも言わせない!」


アルノの弾んだ声が、冬の晴天に響き渡った。


4人が歓喜に沸いていると、人混みが少しずつ割れ、再びシエルたちが姿を現した。


「シエル姉ちゃん!見て、ボクたちBクラスになったんだよ!」


アルノが満面の笑みで報告する。


しかし、シエルは腕を組み、不満そうに唇を尖らせていた。


「ええ、さっき見たわ。だから『残念』って言ったのよ……」


シエルの声が、明らかに怒気を含んでいる。


彼女の周囲の温度が上がったように錯覚するほどの、恐ろしいプレッシャーが漏れ出す。


「アル君たちが私たちに勝ったのに、Aクラスじゃないなんて絶対におかしいわ!評価基準が狂ってる!今すぐ運営に抗議してくる!」


プンプンと怒り出し、本当に教員棟へ乗り込もうとするシエルを、アルノは慌てて引き留めた。


「待って待って、シエル姉ちゃん!落ち着いて!」


アルノは掲示板の端に貼り出されている『獲得ポイントの詳細』を指差した。


「今回のクラス入れ替え戦だけで見れば、Dクラスの獲得ポイントはぶっちぎりのトップだったんだ。でも、クラス分けは『二年間トータルの獲得ポイント』の合算で決まるルールでしょ?」


「……それがどうしたのよ」


「一年生の時の、合同実習を思い出してよ。あの時、ボクたちが侵入禁止区域に立ち入ったことで、Dクラスは大幅な減点をくらって最下位になった。あの時のマイナスポイントが響いて、トータルでAクラスにはあと一歩届かなかったんだよ」


アルノの言葉にカイルたち3人は、「そうだ、これはオレたちへの戒めなんだ」と納得する。


シエルはまだ不満そうにしていたが、アルノが「DクラスからBクラスになれただけでも奇跡みたいなことなんだよ」となだめると、ようやく矛を収めた。


「アルノたちは負けたわけじゃない」


その時、穏やかで気品のある声が響き、人混みがさらに道を譲った。


現れたのは、第一王子ルイス・グラン・フォリア率いる『チームグラン・フォリア』の面々だった。


彼らは順当にポイントを守り抜き、掲示板の最上段、来年度のAクラスの座をしっかりと維持していた。


「ルイス……」


ルイスはアルノたちの前で足を止めると、掲示板を見上げてふっと微笑んだ。


「二年間トータルのポイント制というルール上、結果としては私たちがAクラスの座を守ることになった。……だが」


ルイスは向き直り、アルノたち4人を真っ直ぐに見据えた。


「絶対王者であったチームラインハルトを打ち破った、君たちのそのプロセスは、今年のどのクラスの戦いよりも素晴らしかった。二年生の総入れ替え戦という枠組みにおいて、実質的な勝者は君たちだ。本当におめでとう」


王族としての誇りを持った、一切の嫌味のない純粋な称賛。


アルノもまた、その言葉を真っ直ぐに受け止め、力強く頷いた。


「ありがとう、ルイス。でも……3年生になったら、今度こそルイスからAクラスの座を奪ってみせるよ。覚悟しててね」


「ははっ、受けて立とう。来年が楽しみだ」


ルイスが楽しげに笑い、アルノと固い握手を交わした。


その美しいライバル関係の余韻を打ち破るように、大きな声が中庭に轟いた。



「アルノ・ガレオスゥゥゥッ!!」



声の主は、顔中を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしたダグラスだった。


彼の後ろには、同じように涙ぐんだDクラスの仲間たちが大挙して押し寄せてきている。


代表チームであるアルノたちが大金星を挙げたことで、彼らも全員、夢にまで見たBクラスへと引き上げられたのだ。


「ダグラス!みんな!」


「お前ら……ほんとに、ほんとにやりやがったな!オレたちをBクラスに連れてきてくれて、ありがとよぉぉっ!」


ダグラスがアルノとカイルを両腕でまとめて抱きしめ、わんわんと泣きじゃくる。


「…グスッ……よしっ!みんな、ヒーローを胴上げだっ!」


とダグラスが声をかけると、仲間たちがいっせいにアルノたちを囲んだ。


「ちょっ、…おい、おい、お前ら。こんなところで胴上げだなんて、…照れちまうじゃねぇか…」


とは言いつつも、まんざらでも無い顔をしているカイルに向かって。


「はぁ?カイルみたいにデカいやつ、誰が持ち上げるんだよ?やっぱりここは、Dクラス…、いやBクラスのリーダーだよな!…いくぞ、みんなっ!」


「ええなぁ!、ウチらもまぜてぇ!」


歓喜に沸くクラスメイトたちの手によって、アルノの体が勢いよく冬の空へと放り投げられた。


何度も、何度も、宙を舞う。


視界いっぱいに広がる、雲ひとつない澄み切った青空。



(…みんな、…母さん、おじいちゃん……ボクたちやったよ……)



落ちこぼれと蔑まれたどん底からの、最高の逆転劇。


宙に舞い上がりながら、アルノはこれまでで一番の、とびきり晴れやかな笑顔を咲かせていた。


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