【第23話】激突!チームガレオスvsチームラインハルト
闘技場に現れた両チーム…いや、チームガレオスに対し場内がどよめく。
「おい、マジかよ!2年のちっこいの、エルコン(エーテルコンバーター)つけてるぜ」
「え、クラフターが混ざってるのか!?そんなんじゃ戦えるわけ無いだろ」
まさかこの場にサポート職であるクラフターが登場するとは、生徒たちはもちろん、アルノたちを知らない教員たちにも、驚きと困惑を与えた。
予想外のメンバーにざわめく場内は、闘技場の脇に立っていたギルベルトが右手を上げた途端に、スッと静まりかえった。
「試合開始!」
ギルベルトの鋭い声が闘技場に響き渡った、まさにその瞬間だった。
「行くわよ、アル君!」
3年Aクラスのリーダーにして学園最強のソーサナイト(魔導騎士)、シエル・ラインハルトが動いた。
彼女の足先で石畳がひび割れる。
ソーサナイト特有の、極限まで洗練された『魔力移動』による肉体強化。
足の筋肉へ瞬時に莫大な魔力を集中させたシエルは、数十メートルの距離を一瞬で詰め、アルノの真正面へと突進してきた。
「速っ……!」
アルノが目を見張る中、前衛であるカイルが即座に反応し、漆黒の大盾を構えてシエルの射線へと割り込もうとする。
だが、そのカイルの死角へ、音もなく滑り込んでくる影があった。
「……っ!?」
カイルの背筋に悪寒が走る。
目の前にいたはずのシャドウ(斥候)、セレンの姿が、瞬きをする間に視界から完全に消失していた。
凄腕のシャドウによる極限の『気配遮断』。
一切の殺気を持たない双剣の刃が、カイルの脇腹の死角から音もなく迫る。
「舐めんな!」
カイルは咄嗟の反射神経で大盾を捻り、なんとか双剣の連撃を弾き返す。
だが、その足止めのせいで、アルノのカバーに入ることが出来ない。
「カイル!」
後衛のミラが叫び、手にした特製の杖を構える。
アルノが仕立てた出力調整のダイヤルは、彼女のデフォルトである『4』のメモリに合わさっている。
ミラはセレンを牽制するため、極めて精密に制御された『ファイヤーバレット』を連射した。
しかし、その射線を阻むように、ガーディアンのエリシアが優雅な足取りで前に出た。
「無駄よ。私の結界は抜かせない」
エリシアが両手を軽く前にかざすと、何もない空中に一辺30センチほどの透明な『キューブ型の結界』が二つ、ふわりと浮かび上がった。
彼女が指先を動かすと、二つのキューブは凄まじいスピードで空中を飛び交い、高速回転を始める。
ガンッ!キンッ!
ミラの放った炎の弾丸が、回転するキューブの面に当たってビリヤードのように次々と弾き飛ばされ、闘技場に張られたバリア防壁で空しく霧散した。
それどころか、弾き返した勢いのまま、キューブそのものが武器となってミラへと襲いかかってくる。
「くっ、なんて器用な真似を……!」
ミラは魔法を撃つのを諦め、飛来するキューブを回避しつつの防戦を強いられる。
カイルとミラは相手の鉄壁の足止めにより、アルノを守りに行くことができず、50メートル四方の闘技場の中で、明確な二つの戦場が出来上がった。
圧倒的なスピードで剣戟を繰り返しては気配を消すセレンと、変幻自在のキューブを操るエリシアを相手にする、カイル・ミラのタッグ。
そして、闘技場の反対側でシエルとウィリーを迎え撃つ、アルノ・シルフィアのタッグだ。
「アルノたちの援護に行きたいけど……こっちも余裕がないわね!」
ミラがキューブの軌道を読みながら叫ぶ。
カァンッ!キンッ!ガキィンッ!
「ああ。こいつ、目の前にいるのによく見えねぇ……!」
カイルもまた、大盾の防御を掻い潜るようにして迫るセレンの見えない刃に苦戦していた。
純粋な物理攻撃と身体強化のみでありながら、セレンの動きには一切の無駄がなく、反撃の糸口が掴めない。
(ピンポイントでの攻撃は絶対にかわされる。なら……!)
カイルは即座に戦術を切り替え、後方のミラと一瞬だけ視線を交わした。
その目配せだけで、2年近く共に死線を潜り抜けてきたミラは、カイルの意図を完全に理解する。
カイルは重心を深く沈め、大盾を強く握り直すと、自身の体内に眠る魔力を前面に向けて一気に放出した。
本来、カイルの特異体質『絶対魔力耐性』は、自身が放出した魔力すらも肉体で弾いてしまう。
だが、目の前にはディアナから送られた、漆黒の大盾がある。
カイルの肉体と大盾という、ごく狭い空間で行き場を失った莫大な魔力が、極限まで圧縮され異常な密度で滞留し始めた。
以前の鋼鉄の盾であれば、この圧力に耐えきれずひしゃげていただろう。
しかし、ファルシア公国で手に入れたこの新しい盾は、決壊しそうなほどの魔力のダムを、なんなく受け止めている。
(これなら、もっといける……!見えない相手なら、全部さらって面で吹き飛ばしてやる!)
「ミラ!頼む!」
カイルの怒号に呼応し、ミラは杖のダイヤルをカチッと回した。
安全圏の『4』から、火力を引き上げる『3』へ。
「ちょっとオマケしといてあげるわ!」
ミラはセレンではなく、カイルの背中、鎧に刻まれた極小の『いかした盾の紋章のレシーバー(受信陣)』に向けて、『フィジカル・ブースト(強化魔法)』を正確に撃ち込んだ。
ミラの魔法がレシーバーを抜け、さらにカイルの肉体を通り、盾の間に滞留する魔力のダムへと一気に注ぎ込まれる。
規格外のエネルギーが掛け合わさり、盾の表面がバチバチと赤黒いスパークを放ち始めた。
「オオォォォォォッ!マッスル・オーバァーーッ!!」
カイルは己の肉体を極限まで強化し、膨張した筋肉が制服を弾けさせんばかりに張り詰める。
そして、巨大な魔力のダムを解放するように、カイルは前方の空間すべてを押し潰すような渾身の踏み込みを見せた。
一点に集中させる大砲ではない。
見えない敵を、広範囲の空間ごと制圧するための『面』の一撃。
「シールド・バァァァッシュ!!」
ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
カイルの大盾から放たれた黒い衝撃波が、赤いスパークを放ちながら、巨大な壁となって闘技場の半分を覆い尽くすように突き進んだ。
いくら気配を遮断し、視界から消えようとも、この物理的な広域の波から逃れる術はない。
「……ッ!?」
完全に姿を隠していたはずのセレンが、回避の隙すら与えられず、黒い衝撃の波に飲み込まれた。
そのまま木の葉のように宙を舞い、闘技場周囲に張られた防壁バリアにぶつかり、真下の芝生へと叩きつけられた。
『場外落下!セレン・アクセル失格!』
闘技場を揺るがす大歓声の中、カイルは「はぁっ……はぁっ……」と荒い息を吐き、片膝を突いた。
広域のシールドバッシュは絶大な威力を誇ったが、その代償としてカイルの体内にあった魔力は、もはや底をつきそうになっていた。
極限の肉体強化であるマッスル・オーバーも限界を迎え、全身の筋肉が悲鳴を上げている。
「すごいわ、カイル!」
ミラが歓喜の声を上げるが、闘技場に残るもう一人の3年生は、その一瞬の隙を見逃すほど甘くはなかった。
「セレンを落としたのは褒めてあげる。でも、盾が動けなくなればどうなるかしら?」
エリシアの冷たい声が響く。
彼女は両手を前へ突き出し、魔力を空中に浮かぶ二つのキューブへと注ぎ込んだ。
「ピアシング・キューブ!」
二つのキューブがかつてないほどの超高速回転を始め、まるでドリルのように、動けないカイルへと一直線に襲いかかる。
「させないっ!」
ミラは咄嗟に『ヒール・バレット(回復魔法)』をカイルに撃ち込もうと杖を構える。
しかしカイルのレシーバーがほんの一瞬、ミラから死角になってしまったことで、コンマ数秒の遅れが生じてしまった。
「わりぃ、ミラ……!」
パリィンッ!!
無情な破裂音が闘技場に響き渡った。
防御姿勢をとる余力もなかったカイルにキューブが直撃、瞬時に展開された光のバリアがカイルの巨体を包み込み、致命傷を感知した腕輪型のマギアが砕け散った。
『腕輪破損!カイル・ヴァン・ブラッドレイ失格!』
「カイル!」
ミラの叫びを掻き消すように、カイルを仕留めた二つのキューブが、そのままUターンしてミラへと襲いかかる。
「くっ……!」
カイルという鉄壁の盾を失ったミラは、必死にステップを踏んでキューブを躱すが、トリッキーな攻撃の軌道は完全に読み切れない。
掠めたキューブの衝撃で制服が破れ、ミラの細い体が吹き飛ばされて石畳を転がる。
「ここまでよく耐えたわ、でもこれで終わりよ。2年生さん」
エリシアがとどめを刺すべく、キューブを頭上へ振り上げた。
満身創痍のミラは、荒い息を吐きながらゆっくりと立ち上がる。
「ここで負けたら、何のためにここまで来たのよ……。ワタシを誰だと思っているの……チームガレオスのマジックキャスター(魔導師)よ!」
ミラの瞳に、強固な意志の炎が宿る。
彼女は手にした特製の杖をぎゅっと握りしめ、出力調整のダイヤルに親指をかけた。
『3』から、さらにリミッターを外した領域である『2』へ。
カチッ、という硬質な音が鳴る。
その瞬間、ミラの周囲の空気が陽炎のように大きく揺らいだ。
圧倒的な密度のエーテルが、杖の先端へと暴発することなく、極限まで圧縮されていく。
それはかつて彼女が制御できずに周囲を吹き飛ばしていた魔力の暴走を、アルノの仕立てによって完全にひとつの『砲口』へとまとめ上げたものだ。
「なっ……なんて魔力密度……!」
エリシアの冷静な顔に、初めて焦りの色が浮かんだ。
あのまま撃たれれば、キューブの回転による軌道逸らし程度では到底防ぎきれない。
エリシアは即座に攻めを放棄し、両手を正面へ強く突き出した。
「シールド・マキシマイズ!」
ガーディアンの基本にして最大の防御。
彼女の正面に、分厚く巨大な光の面結界が展開される。
さらにその結界の前に二つのキューブを配置し、猛烈な勢いで回転させ、魔法を弾くための多重防御陣を構築した。
「これで決めるわ!弾き飛びなさい!!」
ミラが杖を真っ直ぐに突き出し、極限まで圧縮された真紅の熱線を解き放つ。
「ブレイズ・キャノン!!」
ズゴォォォォォォォォンッ!!!
闘技場の空気を焼き焦がすほどの極太のレーザーが、エリシアの多重防御へと激突した。
キャリキャリキャリキャリキャリキャリッ!
回転するキューブが悲鳴のような摩擦音を上げ、熱線の軌道を逸らそうと弾き返す。
だが、ダイヤル『2』の出力で放たれたミラの全魔力は、その抵抗を力でねじ伏せ、キューブごと背後の面結界を粉砕した。
「くぅっ……!」
パリィンッ!
彼女を光のバリアが包み込み、エリシアの腕輪が砕け散る。
『腕輪破損!エリシア・オズワルド失格!』
「やった……!」
ミラが勝利の笑みを浮かべた、まさにその直後だった。
パキンッ!!
ミラの左腕から、甲高い破砕音が鳴り響いた。
「え……?」
エリシアのキューブが粉砕される直前、高速回転によって強引に弾き返された『熱線の一部』が、レーザーの反射のようにミラの足元へと跳ね返ってきていたのだ。
全魔力を放出し、回避行動をとれなかったミラは、その直撃判定を受けてしまった。
光のバリアが、呆然とするミラを優しく包み込んでいた。
『腕輪破損!ミラ・フォルテシモ失格!』
ギルベルトの宣言が響き渡ると、闘技場は一瞬の静寂に包まれ、直後に地鳴りのような大歓声が爆発した。
爆煙が晴れた闘技場では、魔力を使い果たしたカイルとミラが、へたり込みながらも互いの健闘を称えるように笑い合っていた。
学園最強チームの3年生タッグを相手に、2年生の二人が意地と誇りをぶつけ合い、相打ち(ダブルノックアウト)をもぎ取ったのだ。
「……ふふっ、本当にすごい子たちね」
エリシアもまた、後輩たちの予想外の強さに潔い笑みをこぼしていた。
「カイル!ミラ!」
闘技場の反対側で、アルノが仲間の名を叫ぶ。
「アルノ!あとは任せたぞ!」
「ワタシたちの分まで、絶対勝ちなさいよ!」
闘技場を降りた場外から、二人の声が響く。
アルノはカイルとミラに向かって力強く頷くと、向き直り、右手親指の指輪を一度だけ撫でた。
その視線の先には、闘技場のもう半分を占める圧倒的な脅威。
底知れぬ魔力を放つ姉のシエルと、巨大な猫型ファントム『ピロー』の背で目元をアイマスクで隠したウィリーが、静かに彼らを見据えていた。
「さぁ、シルフィア。ボクたちも行こうか」
「うん、アルノ君。精霊さんたちも、準備万端やよ」
二つの戦場が一つに統合され、闘技場に残されたのは4人。
頂点への切符を懸けた、最後の戦いが幕を開けようとしていた。




