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【第22話】圧倒的な「一年間の壁」と、Aクラスの実力

季節は初冬。


温暖なグラン・フォリアでも上着が必要な気温となっていたが、学園の野外闘技場は、全校生徒が発する異様な熱気に包まれていた。


縦横50メートルの巨大な正方形の闘技場。


その周囲には、観客席を保護するための分厚く透明な結界が、大型のマギアによってドーム状に張り巡らされている。


「これより、二年生の『クラス総入れ替え戦』を開始する」


闘技場の中央に立つAクラス担任ギルベルトのよく通る声が、拡声マギアを通じて会場全体に響き渡った。


「試合は4対4のチーム戦である。各参加者は、支給された『護身用マギア』を両腕に装着すること。この腕輪型のマギアは、致命傷になり得る攻撃を感知した瞬間、体の表面をオーラの様にバリアが包み込み保護、その後砕け散る。これが一つでも発動……つまり砕けた時点で『戦闘不能』とみなし、失格とする」


ギルベルトは自分の腕に付けた、魔石がはまった銀色の腕輪を、軽く叩いてみせた。


「もう一つの腕輪は、想定外の過剰な威力を受けた際の安全装置だ。また、闘技場の場外へ落下した場合も失格となる。チーム全員が失格となった時点で決着だ。……以上、ルールに質問は?」


静まり返る闘技場。ギルベルトは満足げに頷くと、鋭い視線で生徒たちを見渡した。


「実戦において、油断と経験不足は即ち『死』を意味する。己の未熟さを、身をもって知るがいい。第一試合、前へ」


観客席の最前列で、チームガレオスの4人は固唾を飲んで闘技場を見つめていた。


彼らの出番は、全四試合の最後、大トリである。


「いよいよ始まるんやね……」


シルフィアが不安と期待の入り交じった声で呟く。


「ああ。オレたち2年が、どこまで3年の先輩に通用するのか……」


カイルが腕を組み、真剣な眼差しを闘技場へ向ける。


第一試合は、【3年Dクラスvs2年Cクラス】。


本来ならば、クラスランクが上の2年生が有利だと思われがちだ。


事実、ステータスでは2年Cクラスの方が上回っている生徒も多い。


しかし、結果は残酷なほどにあっけなかった。


「うわぁっ!」


パリィンッ!


「きゃあっ!」


パキィンッ!


2年生らを光のバリアが包み込み、腕輪が次々と砕け散る音が響き渡る。


「勝者、3年Dクラス!」


圧倒的な決着だった。



ーー



続く第二試合、【3年Cクラスvs2年Bクラス】でも、同じ光景が繰り返された。


「……嘘でしょ。Bクラスでも、あんなに簡単にやられちゃうなんて」


ミラが信じられないというように呟く。


当然だ。


同じ学年の場合、『BクラスとCクラス』の間には、『上位クラスと下位クラス』という明確な壁が存在する。


「ステータスの差じゃないんだ」


アルノは冷静に戦況を分析していた。


「魔法の組み立て方、魔力の配分、そして何より『連携の精度』が全然違う。3年生の先輩たちは、この1年間、ダンジョンの修羅場や厳しい実習を乗り越えてきた。その経験の差……『一年間の壁』が、ステータス以上の力になってるんだ」


アルノの言う通りだった。


2年生が単調な大技で魔力を浪費するのに対し、3年生は最小限の魔法で的確に相手の陣形を崩し、死角から連携攻撃を叩き込む。


その戦術の引き出しの多さは、一年長く実戦を経験しているからこそ培われたものだ。


「これが、一年の差……」


カイルがゴクリと唾を飲み込む。


相手は3年の下位クラスでこれなのだ。


自分たちがこれから挑むのは、学園最強の3年Aクラス。


その絶望的な壁の高さを、嫌でも思い知らされる。


「さて、次はルイス君たちの出番やね」


シルフィアが闘技場へ視線を移す。


第三試合、【3年Bクラスvs2年Aクラス】。


会場の誰もが今までの試合から、「いくら2年Aクラスでも、今度ばかりは厳しいだろう」と予想していた。


しかし、その予想は試合開始の合図と共に、一瞬にして覆されることになる。



「試合開始!」



ギルベルトの合図が鳴った瞬間、2年Aクラスの『チームグラン・フォリア』は完璧な動きを見せた。


「まずは盤面を整えさせてもらいます」


ガーディアン(結界師)のオスカーが、冷静に複数の杭型マギアを闘技場の床に打ち込む。


瞬時に分厚い光の壁が十字に展開され、連携を取ろうと固まっていた3年生たちを四つに分断した。


「な、何だこの結界は!?」


「くそっ、合流できない!」


ガーディアンは本来、味方を守る防御の要だ。


しかしオスカーは、その強固なバリアを敵の間に割り込ませることで、相手の最大の武器である「連携」を強制的に断ち切るというテクニカルな戦術をとったのだ。


「いいぞ、オスカー!先輩たちの連携さえ潰せば、あとはこっちの流れに引き込める!」


闘技場の反対側で待機していたルイスが声をあげる。


分断され、戸惑う3年生の死角から、音もなく影が忍び寄る。


「…遅い」


感情を読ませない冷たい声と共に、シャドウのクロエが風のような速度で一人の懐に潜り込む。


そして目にも止まらぬ速さで、短剣で相手ののど笛をかき切ると同時に、腕輪が砕け散った。


「一人目!」


さらに、魔導師のレオナが息もつかせぬ多重魔法で別の一人を追い詰める。


「ほらほら、防戦一方じゃないか!3年生の意地ってやつを見せてみなよ!」


炎、氷、風。


異なる属性の魔法を淀みなく切り替え、マシンガンのように手数で圧倒していく。


「すごい……ルイス殿下のチーム、先輩たちを完全に押してるわ」


ミラが目を見張る。


そして、ひときわ大きな歓声が闘技場を揺るがした。


「はぁぁっ!」


澄み切った碧眼を鋭く光らせ、第一王子のルイスが剣を振るう。


人類最高値である魔力量『8.05』を誇る彼の身体強化は、もはや次元が違った。


規格外のスピードと力、そして美しく洗練された剣技が、歴戦の3年生の猛者たちを真正面から蹂躙していく。



パリィンッ!



ルイスの重い一撃が、最後の3年生の腕輪を粉砕した。


「…勝者、2年Aクラス!」


終わってみれば、チームグラン・フォリアは誰一人として腕輪を粉砕させることなく、無傷の完全勝利を収めていた。


圧倒的な『一年間の壁』を、個の力と完璧なチームワークで圧勝してみせた2年Aクラスの実力に、会場はどよめきと割れんばかりの大歓声に包まれた。


大歓声の余韻が闘技場を揺るがす中、剣を鞘に収めたルイスがゆっくりと息を吐き出した。


そして退場口へと向かう足をふと止め、観客席の最前列へと視線を向ける。


澄んだ瞳が、まっすぐにアルノを捉えた。


言葉はない。


しかし、ルイスはアルノの目を見て、力強く一度だけ頷いた。


『次は君たちの番だ。その力を私たちに見せてくれ!』


そんな強烈なエールが、熱狂の渦を飛び越えてアルノの胸に真っ直ぐに届く。


アルノは右手親指にはめられた、少し大きな指輪を無意識に撫でた。


そして、ルイスに向かって自信に満ちた笑みを返し、深く頷き返した。


「さてと。ボクたちも行こうか」


アルノが立ち上がり、振り返って仲間たちに声をかける。


「ああ。この日のために、死ぬほど特訓してきたんだからな」


カイルが首の骨をポキポキと鳴らしながら立ち上がった。


その背中には、ディアナから送られた漆黒の大盾が頼もしく輝いている。


「ええ。3年生だろうが学園最強だろうが、ワタシの魔法でなぎ払ってあげるわ」


ミラがアルノの仕立てた特製の杖を力強く握りしめる。


トラウマを克服した彼女の瞳には、もはや一切の迷いがない。


「精霊さんたちも、ウチらに力貸してくれるって言うとるよ。みんな、絶対に勝とーね!」


シルフィアがおっとりとした声で言いながらも、胸元に下げた緑色の魔石、エーテルリンクをそっと握りしめ、強い決意を覗かせた。


4人は連れ立って観客席を離れ、闘技場へと続く薄暗い通路を歩き出した。


通路の先には、四角く切り取られた眩しい光の世界が待っている。


と、その時…。


「おい、…お前ら…」


聞き馴染みのある、気怠げな声。


「「「「ロイド先生っ!」」」」


アルノたちは振り返り、いつもとは違う様子の担任を見据えた。


ロイドは4人を見つめ、何かを言おうとしたが、その言葉を飲み込み、一言だけ。


「……精一杯、楽しんでこいっ!」


と、アルノたちに笑顔で檄を飛ばした。


「「「「はいっ!」」」」


そして、緊張と高揚感が入り交じる中、外からギルベルトの声が響き渡った。


「これより、本日の最終試合を開始する。……3年Aクラス、および2年Dクラス、入場」


その呼び込みと同時に、会場のボルテージが最高潮に達する。


学園最強の頂点に君臨するエリートたちと、かつて底辺の落ちこぼれと嘲笑われた欠陥だらけのチーム。


絶対に交わるはずのなかった二つの道が、今、闘技場という一つの舞台で激突しようとしていた。


「いざ、頂点へ!」


アルノの号令と共に、チームガレオスの4人は眩い光の中へと力強く足を踏み出した。


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