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【第21話】運命のくじ引き。頂点への挑戦

窓の外では、王都を彩っていた鮮やかな紅葉がすべて散り、本格的な冬が始まろうとしていた。


王立学園の生徒にとって、この時期は学園生活の3年間で最も騒がしく、そして最も過酷な時期でもあった。


進級を目前に控え、全2年生の立ち位置が塗り替えられる最大の行事、『クラス総入れ替え戦』が迫っているからだ。


「……というわけで、例年通り学年末合同実習を行う。欠席は認めん。クラスの行く末を全員で見届けるんだ」


教壇に立つロイドは、いつものように眠たげで、しかしどこか鋭い光を孕んだ目で告げた。


ざわついていたDクラスの教室が、一瞬で静まり返る。


「ロイド・アッシュ先生、今年のルールはどうなっているんですか?全クラスの順位が変わるということは、総当たり戦なんですか?」


ダグラスが手を挙げて尋ねると、ロイドは面倒そうに頭を掻いた。


「いや、2年の学年末実習は例年、2年生の各クラス代表チームと、3年生の代表チームによる模擬戦だ。対戦カードはくじ引きで決める。この試合の内容と、これまで2年間で積み上げた総クラスポイントを合算し、来年度のクラス分けを最終決定する」


その言葉に、教室の温度が数度上がったような熱気が満ちた。


3年生といえば、知識も実戦経験も2年生とは比較にならない。


卒業を控え、上位クラスでは、騎士団や魔導師団への内定を決めているような猛者ばかりだ。


「勝つ必要はない。格上の3年相手に、どれだけ食らいつき、自分たちの技術をどう活用したか……その『プロセス』を評価対象とする。……だが」


ロイドは言葉を切り、アルノたち4人の席をじろりと見据えた。


「実力を出す間も与えられず、無様に負ければ、それ相応の評価しか下されない。……それでは代表を発表する。前期の各国での交換実習、およびこれまでの評価を鑑みた結果……今年のDクラス代表は『チームガレオス』とする。異論はないな?」


一瞬の沈黙の後、アルノは前と隣に座るシルフィア、ミラ、カイルと顔を見合わせた。


自分たちが、クラスの命運を握る。


その責任の重さが、じわりと胸に染み込んでくる。


「……はい!ボクたち、絶対に結果を出してみせます!」


アルノが立ち上がって答えると、静まり返っていた教室に、怒涛のような歓声が巻き起こった。


「よっしゃあ!やっぱりお前らだよな!」


「アルノ・ガレオス、頼んだぞ!あの鼻持ちならない上位クラスの連中を見返してやれ!」


ダグラスをはじめ、かつてはアルノたちを「落ちこぼれ」と笑っていたクラスメイトたちが、今は自分のことのように拳を突き出し、熱い檄を飛ばしている。


その光景に、ミラの目元が少しだけ潤み、カイルは照れ臭そうに鼻を擦った。


シルフィアも、いつものおっとりとした微笑みに強い意志を宿らせ、小さく頷いている。


「アルノ、カイル、ミラ、シルフィア。全力で仲間たちの期待に応えてみせろ!代表チームは放課後、会議室へ集まれ。以上だ」


ロイドはいつになく熱い言葉をかけたかと思えば、いつもの様にひらひらと手を振って教室を後にした。



ーー



放課後。


代表者会議が行われる特設会議室の扉を前に、アルノは深く息を吸い込んだ。


重厚な扉を開けると、そこにはすでに各クラスの精鋭たちが揃っていた。


「やあ、アルノ。……君たちが来るのを待っていたよ」


真っ先に声をかけてきたのは、第一王子ルイスだった。


彼の背後には、Aクラスの頭脳であるオスカーらメンバー全員の姿があった。


ルイスの瞳には、かつての裏山の事件を共に乗り越えた者同士の信頼と、そしてライバルとしての緊張感が混ざり合っていた。


「ルイス。今回こそ、ボクたちはAクラスへの切符を掴んでみせるよ。3年生相手に、ルイスたちより絶対凄いところを見せてやるからね」


「ああ、期待している。君たちならどんな格上の3年生が相手でも、あっと驚くような戦いを見せてくれると信じているよ。……だが、私たちも最高の評価を勝ち取るつもりだ。来年のAクラスの座は譲らないよ」


ルイスはアルノたちを対等なライバルとして見つめ、拳を軽く突き出した。


アルノもまた、その誠実な思いに真っ直ぐな瞳で応え、自分の拳をルイスのそれにコツンと合わせた。


会議室に参加者が全て揃い、そしてついに対戦相手を決めるくじ引きが始まった。


2年生の代表リーダーたちが順番にくじを引き、その結果を元に、クラス名が書かれたカードがボードに差し込まれていく。

しかしまだカードの横に準備されている、対戦相手は伏せられたままだ。


最後にアルノが係の生徒にくじを渡し、ついに伏せられた対戦相手のカードが全て公開された瞬間、チームガレオスメンバーは凍りついた。



【2年Dクラス代表:チームガレオス】VS【3年Aクラス代表:チームラインハルト】



学園最強。


そう称されるチームの名に、カイルが「マジかよ……」と絶句したその時、「ガチャリ」と会議室のドアが開く音がした。


「……アル君、引いちゃったわね」


それは凛とした、しかしあきらかに聞き馴染みのある声。


振り返ると、そこにはプラチナブロンドの髪をなびかせた、圧倒的な存在感を放つ少女が立っていた。


3年生首席、シエル・ラインハルト。


アルノの姉であり、最大の壁でもある存在がそこにいた。


くじ引きには2年生のみ集められたが、彼女は弟のことがあまりに気になり、こっそり会議室を覗いていたのだった。


「まさか、最後の最後にアル君たちと戦うことになるなんてね」


シエルは複雑そうな顔で微笑んだ。


いつものように弟を溺愛する優しい顔つきではあるが、纏う空気はあきらかに異なっていた。


規格外の強者特有の、圧倒的な重圧。


カイルとミラが思わず息を呑み、後ずさりそうになるほどのプレッシャーがそこにはあった。


「シエル姉ちゃん……」


「でも、嬉しいわ。アル君がここまで上がってきてくれたことが」


シエルの背後には、今日も猫型ファントム『ピロー』の上で寝ているウィリーをはじめ、チームラインハルトのメンバーたちが静かに控えている。


彼らもまた、油断も隙もない歴戦の強者の顔をしていた。


「手加減はしないわよ、アル君。3年Aクラスの、そして王立グラン・フォリア魔導学園の頂点としての誇りにかけて、全力であなたたちを迎え撃つわ」


シエルの言葉は、姉としてではなく、一人の騎士としての純粋な宣戦布告だった。


アルノは右手親指の指輪に触れ、そして、まっすぐに姉の瞳を見返す。


「望むところだよ、シエル姉ちゃん!ボクたちチームガレオスが、全力でその頂点を越えてみせる!」


アルノの堂々とした宣言に、ルイスたちを始め、会議室にいた他の代表者たちも静かに闘志を燃やす。


こうして、運命の対戦カードは決定したのだった。



ーー



数日後。


学園の中庭にある巨大な掲示板に、2年のクラス総入れ替え戦の対戦表が張り出された。


【3年Aクラスvs2年Dクラス】

【3年Bクラスvs2年Aクラス】

【3年Cクラスvs2年Bクラス】

【3年Dクラスvs2年Cクラス】


掲示板の前には、朝から全校生徒が押し寄せ、大騒ぎになっていた。


この行事は2年生と3年生の代表戦が見られ、3年間で唯一、全クラスの入れ替えが行われるため、学園全体がお祭り騒ぎとなるのだ。


「おい見ろよ、2年Dクラスの相手……チームラインハルトだぞ」


「可哀想にな。手も足も出ずに終わるだろ」


周囲から聞こえてくるのは、圧倒的な戦力差を理由にした同情や、どうせ無様に負けるだろうという冷ややかな声ばかりだ。


無理もない。


生まれ持った魔力量や魔力出力が絶対とされるこの世界で、DクラスがAクラスの、それも学園最強の3年生に挑むなど、常識では考えられないことなのだ。


だが、群衆の少し後ろで掲示板を見上げていたチームガレオスの4人の表情に、悲壮感は微塵もなかった。


「ほんとに、あのお姉様と当たるなんてな。ははっ、おもしれぇ」


「うん。でもボクたちが、シエル姉ちゃんたちに勝てたらって考えると、ワクワクしない?」


「分かる!それに不思議と負ける気せーへんし。だってウチら、最強のチームやからね」


「あ、それ、今ワタシが言おうとしたやつ!」


ミラの言葉をきっかけに、4人はひとしきり笑い合い、そして掲示板を背にして歩き始める。


絶対的王者に対し、『善戦』ではなく『勝利』の2文字を、その胸に抱いて。


そして今まさに、学園の頂点を決める戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。


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