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【第15話】秘密兵器、エーテルリンク誕生

ファルシア公国での過酷な合同実習から数ヶ月。


放課後の図書館に集まったチームガレオスの4人は、実習での戦闘を振り返り、今後の課題について話し合っていた。


「やっぱり、私たちの最大の課題は魔力切れね。『緑樹の迷宮』での激戦で、ワタシ完全にすっからかんになっちゃったし……」


ミラが机に突っ伏して、深いため息をつく。


「ウチもやわぁ。精霊憑依があんなに魔力使うなんて…、最後は立ってるんもしんどかったし……」


シルフィアも同意するように、長いアッシュグリーンの髪を揺らしてうなずいた。


この世界では、肉体的な疲労や物理的な傷はカイルが持ち歩いているようなポーションで回復できる。


しかし、魔法やスキルを使うためのエネルギー源である魔力エーテルばかりは、十分な休息を取らない限り回復しない。


だからこそ、この王都では持って生まれた「魔力量(タンクの大きさ)」が絶対的なステータスとして評価されるのだ。


「オレは自分と盾の強化だけで、魔力の燃費はいいが、防御主体だからな。お前らの魔力が尽きれば、うちのチームは攻撃力を完全に失う……」


カイルが腕を組み、渋い顔で唸る。


重苦しい空気が漂う中、アルノだけがいつもの飄々とした顔で、チームメンバーのステータスが書かれたメモを指で弾いた。


「うん、そうだね。でも安心してよ。ボクたちのチームには、一人だけ戦闘中に『常に魔力があまっている』メンバーがいるんだ」


「え? 誰のことなん?」


シルフィアが不思議そうに小首を傾げると、アルノは自身の胸をポンと叩いた。


「ボクだよ。ボクの魔力量は6.5、魔力量だけなら学園でも上位に入る。そして出力は測定下限の0.01だよね。ルーン・ステッチの技術は、ルーンを高速で大量に刻んでも、体内の魔力はたいして減らないんだ。だから、戦闘が長引けば長引くほど、ボクだけ魔力を持て余している状態になる」


アルノはバッグをごそごそと探り、コロンとした緑色の魔石を机の上に置いた。


「あ、それ……タルタロスタウンの古道具屋で買うたやつやんね」


自分の瞳の色に似ているからとアルノが選んだ魔石。


シルフィアはあの時のやり取りを思い出し、少しだけ頬を赤らめた。


「うん。この高品質な魔石を四つに切り分けて、新しいマギアを作ろうと思うんだ」


アルノはバッグから大きめの模造紙を取り出し、簡単な図を描き始めた。


「一つはボクが使う『銃』の形をした送信機。残りの三つは、みんなが身につける『ペンダント』型の受信機だ。ボクのあまった魔力を、戦闘中にみんなへ分け与えるための装置だよ」


「魔力を分け与える!? そんなことできるの?」


ミラが弾かれたように顔を上げた。


「元々一つの同じ魔石から切り出した石同士を使うのがポイントなんだ。石の波長が完全に同期しているから、銃から撃ち出した魔力は迷うことなくペンダントの魔石へ引き寄せられて、正確に受け渡しができる。加えて、ペンダントを片手に握って、もう片方の手で誰かに直接触れれば、ボク以外のみんな同士でも魔力を譲渡できる機能もつけるつもりだ」


「それなら、いざという時にウチとミラちゃんで魔力を分け合うこともできるんやね。すごいわぁ……」


シルフィアが感嘆の声を漏らす中、カイルが一つ厄介な問題を口にした。


「おい待てよ、アルノ。オレには『絶対魔力耐性』があるんだぞ。外から撃ち込まれた魔力なんて、オレの体が受け取れるわけねえだろ」


「ふふん、そこは抜かりはないよ、カイル君」


アルノは悪戯っぽく笑い、模造紙のペンダントの図をペンでコツコツと叩いた。


「ペンダントのチェーン部分に、極小のデバフ領域……つまり耐性低下のルーンを縫い込むんだ。ペンダントが肌に触れているわずかな範囲だけカイルの耐性をピンポイントで下げて、そこから体内に直接魔力を浸透させる仕組みさ。1年の時にカイルの背中に刻んだレシーバーの応用だよ」


「なるほどな……。お前のその頭の中、一体どうなってんだ」


カイルは呆れたように笑い、深く息を吐いた。


それから数日間、放課後の学園の工作室には、夜遅くまで4人の活気ある声と作業音が響いていた。


「いくで、アルノ君。……『風の刃!』」


風の精霊から放たれた極薄の風の刃が、緑色の魔石を傷一つなく、均等に四つに切り分ける。


元の波長を少しでも狂わせないための、エレメンターである彼女の繊細な精霊魔法だ。


「よし、石の分割は完璧だ! カイル、銃身のフレームとペンダントのチェーンは?」


「おう、任せろ! なかなか頑丈な素材だが、オレの腕力なら……うおぉぉっ!」


部屋の隅では、シャツを腕まくりしたカイルが汗だくになりながら、ハンマーを振り下ろして金属パーツを叩き出している。


「ワタシは銃の動力部の調整ね。アルノ、ここの魔力弁の圧縮率はこれでいい?」


「バッチリだよ、ミラ! みんな、ありがとう!」


仲間たちがそれぞれの力で用意した最高のパーツを受け取り、アルノは最後に自身の持てる技術のすべてを注ぎ込む。


分割された四つの魔石をはめ込むため、銃の機関部とペンダントの金属台座に、それぞれの波長を同調させるためのルーンを刻み込み、カイル用のチェーンには極小のデバフ領域を縫い合わせる。


ダミーのグローブを外し、息を止めてミリ単位の狂気じみた精度で『ルーン・ステッチ』を施していくアルノの横顔を、三人は固唾を呑んで見守っていた。


かつては自分の居場所や欠陥に悩み、バラバラだった4人。


だが今は、誰一人欠けることなく共に戦い抜くため、全員の力を結集して一つのマギアを創り上げている。



ーー



そして制作開始から一週間後。


アルノの手の中には、彼が握りやすいようにカイルが鍛え上げた武骨な一丁の『銃』と、ミラの調整とシルフィアの切り出した緑の魔石が輝く、三つの『ペンダント』が、ついに完成の時を迎えていたのだった。


『銃』の魔石は、機関の内部に組み込まれているため表からは見えないが、『ペンダント』は装飾品としても見劣りしない、美しい仕上がりだった。


「やっと完成だっ!銃型の送信機が『エーテルガン』。ペンダント型の受信機が『エーテルリンク』だよ。それじゃあ、早速テストしてみようか」


完成したばかりの『エーテルリンク』を、ミラ、シルフィア、カイルの三人がそれぞれの首から下げる。


アルノは少し離れた位置に立ち、武骨な『エーテルガン』を構えた。



「…射速を最低にしてと、…よし、いくよ……」



アルノが引き金を引くと、カチッという機構音と共に、銃口から純粋なエーテルの塊がポンッと撃ち出された。


光の弾丸は空中で緩やかな弧を描き、ミラの胸元で輝く緑の魔石へと吸い込まれるようにスッと消えた。


「わっ……すごい! 身体の中に、じんわりと温かい力が流れ込んできたわ!」


ミラが驚きに目を丸くする。


「ウチも、ウチにもやってみて!」


シルフィアも胸元のペンダントを両手で持ち上げ、期待に目を輝かせた。


アルノは続けてシルフィア、そしてカイルに向けてエーテル弾を放つ。


「おおっ……マジで弾かれねえ。オレの中にも魔力が……変な感覚だが、確かに回復してるぞ!」


カイルが胸板の厚い身体をさすりながら、信じられないという顔をした。


「アルノ、オレにもそのエーテルガン、ちょっと持たせてくれよ。やっぱ男はそういうデザインに、魅力を感じるよな!」


「え?、まぁいいけど。あぶないから気をつけてね」


「何が危ないんだよ?エーテルを打ち出すだけだろ?」


「確かにそうだけど、グリップにはボクの『0.01の出力』を限界まで底上げする術式が、ルーンステッチで大量に縫い込まれてるからね。普通の人が引き金を引いたら、1発で魔力枯渇で気を失うよ。リミッターも付けてあるけど、それはボク用だね。リミッターを解除したら、ボクでも1発で魔力枯渇さ」


「いやっ!やっぱりいい!……まぁ言われてみりゃ、そりゃそうか…。つまりそいつはアルノにしか扱えないってことか」


「それにしても大成功やね、アルノ君!」


シルフィアの言葉に、アルノもホッと息を吐いてエーテルガンを下ろす。


「うん、譲渡のシステム自体は完璧みたいだ。……でも、一つだけ問題があるんだよね」


アルノは申し訳なさそうに眉を下げた。


「ボクはルーン・ステッチを右手で刻むんだ。だから、エーテルガンは左手で撃てるようになりたい。右利きのボクが、実戦で激しく動き回るみんなの小さなペンダントに的確に当てられるか、今はまだ自信がないよ」


「あー、なるほど。いくら引き寄せられるっていっても、ある程度近くに撃たないと吸い込まれないもんね」


ミラが腕を組んで頷く。


「じゃあ、実戦で使えるように特訓あるのみだな! 今から修練場へ行くぞ!」


カイルの号令で、4人は早速学園の屋内修練場へと向かった。


夕暮れ時の修練場は、すでに多くの生徒が帰路についており、静まり返っていた。


だが、一番広い第1エリアだけは、ただならぬ魔力の余波と剣撃の音が響き渡っていた。



「あれって……」



アルノが目を細めると、そこにいたのは学園最強のトップチーム、3年Aクラスの『チームラインハルト』だった。


「エリシア、右の死角が甘いわよ!」


「ふふっ、この程度の隙、わざとに決まってるじゃない」


艶やかな黒髪をなびかせた結界師のエリシアが、空中に展開した2つのキューブ型結界を巧みに操り、迫り来る攻撃を次々と反射している。


その結界の隙間を縫うように、鋼色のツンツンヘアーをした長身のセレンが、双剣を逆手持ちにして凄まじい速度で連撃を叩き込んでいた。


そして、その二人の攻防をよそに、大きな猫型ファントム『ピロー』の背中でアイマスクを乗せたウィリーが、気持ちよさそうにうつ伏せで寝ていた。


カイルが、その光景に気づき、眉間のシワを少し深くした。


だが、その視線の先はウィリーではなく、彼を背に乗せる巨大なファントムに向けられている。



「……おい、アルノ。あそこにいる魔獣、しっぽの先に魔石が付いてるぞ。…まさか、ファントム(幻獣)か?」



カイルの声がやや上ずって聞こえる。


「ほんとだ、そうみたいだね」


「へぇー、ウチは初めて見たわ。ミラちゃんは?」


「ワタシも初めて見た。おっきいねー」


「お前らっ!なんでそんなに冷静なんだよっ!」


ファントムは魔獣の中でも極めて稀少で、高い知能と魔法能力を持つ個体だ。


力でねじ伏せるテイムは不可能に近く、テイマーと「対等な契約」を結んだ例など、カイルは都市伝説の類だと思っていた。


「まじか…、人生二度目にお目にかかるファントムが、まさかテイムされたものだなんてな……」


そのファントムが腹這いで手足を投げ出し、今、先輩を背中に乗せて、無防備に欠伸をしている。


しかも、長毛で全体的に丸みを帯びた、実にあざとらしいほど可愛い猫の姿で。


カイルはゴクリ、と唾を飲み込んだ。


(ッ、なんて……羨ましいんだ……ッ! あの肉球、あの毛並み……ッ! もふもふしたい……ッ!)


彼の頭の中からは『特訓』の2文字は綺麗に消え去り、完全に大きなニャンコに釘付けになっていた。


中心で剣を構えていたシエルが、修練場に入ってきたアルノたちの姿に気づき、ピタリと動きを止めた。



「ア、アル君……ッ!」



先ほどまでの凛々しいトップチームのリーダーの顔は一瞬で崩れ去り、シエルは頬を緩ませて一目散にアルノのもとへ駆け寄ってきた。


「どうしたの、アル君! お姉ちゃんに会いに来てくれたの? 今日も可愛いわね、夕ご飯一緒に食べようか!」


完全に冷徹な仮面をかなぐり捨てたシエルの重度なブラコンぶりに、セレンが苦笑しながら双剣を鞘に収める。


「やれやれ、リーダーがこれでは訓練になりませんね」


「仕方ないですね。弟君が可愛くて仕方ないのでしょう」


エリシアも呆れたように肩をすくめた。


「えっと……ボクたち、少し射撃の練習をしたくて来たんだけど……」


アルノが困ったように手元の銃型マギアを見せると、シエルの目がキラーンと輝いた。


「射撃の練習ね! わかったわ、お姉ちゃんが手取り足取り、基礎からみっちり教えてあげる! ほら、まずはこうやって構えて……」


シエルはアルノの背後に回り込み、彼を背中から抱きかかえるようにして密着し、銃を持つ手に自分の手を重ねた。


「ちょ、ちょっとシエル姉ちゃん、近すぎるよ!」


アルノが慌てて身をよじるが、シエルは全く離れようとしない。


「いいのいいの! 姉弟なんだから遠慮しないで! ほら、的をよく見て……」



(……待てよ)



アルノは姉の腕の中で、ふと冷静な思考を取り戻した。



(2年の学年末に行われるクラス昇格戦は、3年生との模擬戦だ。もしボクたちが代表になれたとしたら……)



アルノは手元の銃と、ミラたちの首にあるペンダントをチラリと見た。



(ここで『魔力の受け渡しができる新マギア』の存在を知られるのは、絶対にマズい。手の内は隠しておかないと)



アルノは引きつった笑顔を浮かべ、シエルの腕からスルリと抜け出した。


「あ、あはは! やっぱり今日はもう遅いから、練習はまた今度にするよ! それじゃあね、シエル姉ちゃん!」


「えっ? ちょ、アル君!? まだ何も教えてないわよーっ!」


シエルの悲痛な叫びを背に受けながら、アルノたちは足早に修練場を後にした。


すっかり暗くなった中庭のベンチに座り、4人はため息をついた。


「まいったな、どうやって他の生徒の目を盗んで射撃練習しようか……」


カイルが頭を掻きむしる。


「そうねぇ……誰もいない時間帯なんかないしねぇ……」


ミラが呟くと、アルノの丸眼鏡の奥が、夕闇の中で「キラーン」と怪しく光った。


「ねえ、みんな。ボク……すっごくいいこと、考えちゃった」


アルノの口角が上がり、少し悪巧みをするような『悪い顔』になる。


その顔を見た瞬間、ミラ、シルフィア、カイルの三人の背筋に、ゾクッとした悪寒が走った。



(((……絶対に、ろくなことにならない……っ!)))



三人が顔を青くして見つめ合う中、アルノは一人、楽しそうにくすくすと笑っていた。


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