後日譚2
ギュッと握られた手を見て、何気なく聞いてみた。
部屋の中、広い部屋なのにソファーでびっちりくっついて隣り合わせに座っている俺達。
「⋯⋯そういえば、律ってちょっとの間だけ俺に距離置いてたよね。なんで?」
握られた手から視線を律に移すと、
「えっ?」
と、気まずそうな表情をされた。
「話しづらいこと?」
言うと、うーん、と律は唸った後に口を開く。
「⋯⋯澪には、隠し事したくないから話すけど、おれ、その⋯⋯無理やり君としただろ?レンに言われて、君が俺に怯えてることに気付いて、澪が俺を許すまで触らないって決めてたんだ⋯⋯」
「そうなの?」
(⋯⋯許す、許さないの話し合いなんてしたっけ?)
記憶を巡らす。
「君と⋯⋯その、帰りの電車の中で、澪が疲れて眠っちゃった時に、俺に身体を預けてきたんだ。それで⋯⋯」
「それで?」
「やっぱ、約束なんて無理!!って勝手になかったことにした。俺の中で」
律のしょうもない告白に俺は思わず、脱力。
「それって、勝手に自分の中で約束して、勝手にその約束を反故したってこと?」
「有り体にいえば⋯⋯」
「なんだよ、有り体って⋯⋯」
「だってぇ、こんな阿呆な話したら澪が呆れると思って、ずっと俺の中でもう無かったことにしてたんだもん。でも、澪が聞いてきたから隠し事は出来ないって今正直に話したの。⋯⋯俺のこと嫌いになる?」
「⋯⋯そんな事で嫌いには」
(いちいち感情を乱されるほどでもないし)
律の元々の性格は、ひどくかまわれたいみたいで、こうして俺の気持ちを聞いてくる。
いつの間にか握る手だけでは飽き足らず、抱きしめられ肩口に頭を預けられていた。
(⋯⋯妊娠したかまだ結果が出ないから分からないけど)
「そういえば、夜求めてこないよね」
何気なく口にした。
「して良いの!?」
俺の肩口に預けた頭を勢いよく持ち上げて、律が聞いてきた。
「え⋯⋯」
(そういうつもりじゃ⋯⋯)
「俺、澪がいなくなった時のあの日が怖くて⋯⋯でも、澪を求める気持ちもあって⋯⋯なのに、澪が俺と同じ気持ちでいてくれたのが嬉しい!俺、ちゃんと手加減するから。薬も使わない!」
言いながら既に、手が服の中に入り込んでいた。
押し倒されたのか、それとも律の勢いに態勢が崩れていたのか、いつの間にか俺はソファーに寝転がるような態勢で、俺の身体を律が覆っていた。
「え、いや、違⋯⋯おれ⋯⋯」
言いかけ、敏感な部分に触れられ、は⋯⋯っ、と息が漏れそうになる。
(ホントにそういうつもりじゃ⋯⋯)
触れられると、恐怖ではない、きゅんと、痛いような切ないような感覚に戸惑う。
「澪⋯⋯だめ?⋯⋯俺としたくない?」
熱を持った律の瞳がそろり、と俺に目線を合わせて見つめてきて――
密着した身体に、律のモノが既に主張しかけているのが伝わってきた。
以前なら、その変化に身体がすくんだはずだ。
でも、今は――――
(好きな人に求められることがこんなに嬉しくて、恥ずかしいなんて⋯⋯)
「律⋯⋯」
恥ずかしくて目の前の律の顔が見れなくて、思わず目蓋を閉じて流されそうになる寸前、
服のなかで不埒に動いていた手が止まる。
どうしたのかと、目蓋を開くと、
眉毛を八の字に、不安そうな眼差しの律。
(あ、なんだか叱られたワンちゃんみたい⋯⋯)
『クゥン⋯⋯』という声が聞こえてきそうな律の表情。
(おれ、多分⋯⋯この顔に弱いのかも⋯⋯)
前世は、戸惑いと恐怖が湧く顔に、今は可愛くて許してしまいたいとすら思ってしまう。
(⋯⋯でも、ソファーの上じゃなくて、もっと⋯⋯)
俺も律を気持ちよくさせたいから⋯⋯
「えと、あの⋯⋯するなら、ベッドの上が良い⋯⋯」
恥ずかしくて、律の顔が見れない。視線をそらしてそう伝えると、
「ほんと!?⋯⋯ありがとう、澪。おれ、しつこくしないように気をつける」
首筋や頬に勢いの良い口づけを受けながら、なんだか、不穏なことを言われた。




