四人で囲む食卓
「ただいま」と、レンが帰ってきた。
「おかえ⋯⋯り」
レンの声に、俺は反応して立ち上がると、ちゃぶ台の部屋から玄関口を見下ろすように、ひょこりと顔を出すと、レンの後ろにナギ。
それに口に布で猿轡をされて、ロープに縛られた律がいた。
「え⋯⋯?今度は、なに?どうしたの⋯⋯」
律が訪れてから、見たこともない光景の連続で面食らう。
(今度は一体なにがあったの⋯⋯)
「お邪魔します!ミオ、聞いてよ!コイツったら柱に縛り付けても、ミオミオミオミオ、ってもううるさいったら仕方ないのよ!長老からしばらく帰って来んな、て追い出されちゃったんだから。やっぱコイツ、川に流して良い!?」
ナギの剣幕に、
「か、川はダメだよ⋯⋯、ごめん。俺がここに来たから」
申し訳ない気持ちになって、謝ると
「え!?ち、ちがうわよ!ミオ!コイツよ!コイツの自制心がないのがそもそもの原因なのよ!ミオが謝る必要なんてこれっぽっちもないわ!」
と、慌てたナギからそう言われた。
「ちょっと!そもそもアンタがここに来たからこうなるのよ!里にいたけりゃ大人しくしてなさいよ!」
と、律の口元の布を掴んで乱暴に下げるナギの手。
「ミオのせいじゃない、ってアンタからも言え!」
「澪!俺ここに泊まる!」
「ちがうでしょ!!」
猿轡を外した律が発した言葉に、ナギが激昂する。
「だって、澪が男と二人きりなんて、俺、耐えられアガガ⋯⋯ッ」
「うっさい!耐えろ!」と、猿轡の布を掴むと指ごと口にねじ込まれる律。
「アンタの我儘にミオを振り回すな!っての!」
「な、ナギ⋯⋯ッ!止めて、律が死んじゃう」
「鼻で呼吸すれば死なないわよ!ほら!呼吸しろ!ミオを心配させんな!」
やってることと言ってることがむちゃくちゃなナギをどう止めて良いのか、途方に暮れる。思わずレンを見た。
レンは、俺と目が合うと、
「⋯⋯そういえば、二人とも昼飯は食べた?俺とミオ、今から支度するけど」
その言葉にナギは動きを止めると、
「食べてない!作って、さあ食べるぞ!て、時に長老から追い出されたのよ!『連帯責任』て。アンタのせいよ!ムカつく!」
そう言うと、律の口にねじ込んでいた布を更に奥へと押しやった。
「や、止めて⋯⋯!ナギが犯罪者になっちゃう!」
ナギは、止める俺の顔を見た後に舌打ちすると、
「ミオに感謝しな!」と、律の口の中に押し込んでいた布を取り除いた。
「澪!俺の心配は⋯⋯!?死にそうになったんだけど!?」
口が自由になったら、そう叫ぶ律をナギが苛立たしげに顎を掴むと、
「甘ったれんな!!」と、怒鳴りつけていた。
出会った頃と全然違う律。
身体を縄で縛られ、自由が効かない。
顎はナギに掴まれ、頬の肉が中心に寄っている。
(律ってこんなに⋯⋯子供っぽかったっけ⋯⋯?)
あんなに、怖かったのに。
あんなに、緊張していたのに。
穏やかな律は、どこへ行ってしまったんだろう。
ナギに酷い目に遭わされる律に、今は同情心すら芽生えていた。
二人をそのままに土間から台所へ向かうレンに声をかけられ、俺も台所へと向かう。
「澪⋯⋯ッ!」と、背中に律の声がかかったが、その瞬間、「『ミオ⋯⋯ッ!』じゃない!」と、ナギの一喝。
心配だったが、レンから「大丈夫。ナギ、手加減してくれてるから」と言われた。
あれで⋯⋯?と、思ったが、手加減してくれてるのならきっと大丈夫なのだろう、とナギを信じることにした。
「お味噌汁、今日は四人分だから少し大きめ」
いりこの出し汁に水を加えて、四人分にかさ増しするレン。
「あー⋯⋯ご飯。朝の残りを食べようと思ったから、これだと足りないか。長老にお願いしてご飯を分けてもらってくる」
と、レンは適当な蓋付きの器を持って出ていった。
しばらくして、戻ってきたレンは、大きめのお盆にお櫃とおかずの入った器を載せて戻ってきた。
「長老が分けてくれた。ナギと律の分だって」
俺にそう説明したレンは、そのまま上がり口へと向かい、部屋に移動していた二人に「これ、長老から。どうする?先に食べてる?」と、聞いていた。
結局四人で食べることに。
ちゃぶ台に四人だとひしめき合うので、今日は台所で食べることになった。
「両親と住んでいた頃は、ここで食べていたんだ」と、微笑むレン。
ナギと律。二人にはちゃぶ台の部屋で声をかけるまで待ってもらうという。
お味噌を溶いた味噌汁を味見したレンから「うん、上出来。今度は一から一人で作ってみる?ミオの好きな具材で作れるよ?」と、問われた。
「作ってみたい」と、意気込んで返事をすると、レンは満足そうに頷いた。
昼食も作り終わって、さて、食卓。
律とナギ。律は未だに身体を縄で縛られている。いつ外すのだろう。
そして対面にレンと俺、という並びで座ったら、
「なんで、俺の横にナギで、前にレンなんだよ」と、律が不満を漏らしていた。
「あ、でもこれだと俺食べれないや。澪、食べさせて」と律は続けて言いながら、目を瞑って口を開けた。雛鳥?
それを冷めた目で一瞥したナギが、レンに目配せをすると顎をしゃくって何かを示した。レンが静かに立ち上がる。
ナギは、今度は俺を指差し、口に手をあて、『声を出せ』というような合図をする。⋯⋯まさか。
レンが静かに雛鳥のように待つ律の元へと移動する。
ナギから俺に『今だ!』という合図。
「⋯⋯じゃあ、律。ナギの方を向いて、上を向いて」
言う俺の声に目を瞑ったまま、素直に従う律。
「はい、あーん」と言う俺の声に合わせて、
「あーん」と、律はさらに口を大きく開けた。
そこにナギから手渡された、おかず、ご飯の順で口に放り込むレン。
「はい、良いよ」と、言う俺の言葉に、満足そうに咀嚼した律。嚥下すると「美味しい。ありがとう、澪」と笑顔で目を開けた。
その先にいるのは、無表情のレンとナギ。
慌てて俺の姿を探して視界に認めた律は、無表情で佇むレンをキッ!と、睨むと、
「アンタじゃねーよ!」と、叫んでいた。




