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雨の中の再会



「今日は午後から雨かな⋯⋯」


 今採ったばかりの野菜を、無造作に手に下げて、レンが空を仰いで呟いた。


「なんで分かるの?少し曇りぐらいだよ」


(まだ朝なのに?)


 不思議に思い、聞いてみた。


「⋯⋯なんで、ってちょっとだけ蒸すから」

 

(ムス⋯⋯?)


「肌に湿気を感じるでしょ⋯⋯?大抵、そんな時は数時間後に雨が降る」 


(⋯⋯毛、毛が感知してるの⋯⋯?)


 雨なんて情報を見て、判断していた自分にとって、そんな天気予報の仕方があることを知る。


「今日は先に洗濯をしてから、部屋干しかな⋯⋯。乾きが悪いけど」


 レンはそう言いながら、家の中へと戻っていく。


 俺は、空を見上げて、レンから託された卵を落とさないように後を追った。


 空は、雲がかかった朝の空だった。


 でも、お昼を食べ終わっての午後、外からパラパラ、と音がした。


「ほ、本当に雨が降ってきた⋯⋯!」


「意識すれば、降る前に水蒸気の動きも目の前で見えたりするよ?」


 レンの何気ない言葉に、驚愕きょうがくする。


(⋯⋯どういう目!?俺が意識してないだけ!?)


 “生きた化石”の能力なのか、レンが特殊なのか分からない。


 しばらくすると、雨は止むどころか、一層激しくなっていた。


「風も吹いてきたな⋯⋯。澪、そっちの窓と寝室と玄関閉めてきて。先に寝室お願い。俺、台所、締めてくる」


 そう言うと、レンは立ち上がって台所へと向かった


 言われて部屋の窓を閉める。土間を通って寝室へ。


 開け放たれた玄関の引き戸を閉めようと、手をかけた時、何気に顔を上げて雨の様子を見ようとした。


 庭の向こう。人影が傘もささずに、辺りを見ながら早歩きで歩いている。


 ずいぶんと、汚れているように見えた。


(俺みたいな、迷い人⋯⋯?)


 しばらくその様子をじっ、と眺めて異変に気付いた。


「⋯⋯律!?」


 思わず、声に出た。


 律がその声に気付き、俺の姿を認めると俺のところへと真っ直ぐ向かってくる。


 どこを歩いてきたのか、ズボンの裾は泥だらけ。


(え?え?なんで⋯⋯もしかして、一日中、山にいた!?)


 まさかの遭難!?


 俺は、驚きで逃げ出すことを忘れていた。


「澪⋯⋯ッ!」


 律に呼ばれ駆け寄る姿に、俺は我に返ると後ずさった。


 でも、遅い。


 律に両腕を取られた。


「澪⋯⋯!無事⋯⋯!?怪我ない⋯⋯!?」


 思わず見てしまった律の顔。

 俺のことを聞いてくる律の頭に葉っぱが付いていた。


「おれ⋯⋯のことより、律のがひどい格好だよ⋯⋯。大丈夫?」


「え⋯⋯?」と、自分の身なりを確認して、頬を染めた律は、


「⋯⋯君が心配で気付かなかった。君の居場所が、変な方向に移動してたから⋯⋯。航空写真は山の中で詳細がわからないし、だから、慌てて宿から飛び出したんだ」


「そ⋯⋯なの⋯⋯?」


 “宿から飛び出した”という言葉だけ拾う。

 どうやら山で遭難、というわけではなかった。


「⋯⋯帰ろう、澪。君を迎えに来たんだ」


 その言葉に、肩が震えた。


 突如、思い出すのは夜のこと。

 逃げてきた理由の出来事――。


「⋯⋯俺、」


 なんて答えたら良いのか、言いかける俺の後ろから声が掛かった。


「ミオ⋯⋯、お客さん⋯⋯?」


「レン⋯⋯!」


 振り向く俺の両手を掴んでる律の手に、一層強く握り込まれる。


「⋯⋯レン?なに、誰?⋯⋯まさか、“男”?アンタ、澪の何⋯⋯?」


 律の、徐々に低く威嚇するように発せられる声に、前世の少年を思い出し、思わず十四歳の“前世の僕“が、怯えて下を向く。


「なに⋯⋯って、保護者?」と、答えるレンの声。


「そう⋯⋯。それは、ご迷惑をお掛けしました。これ、少ないですが。謝礼は、後日改めて伺います」


 律が、俺の手を離し、ポケットから財布を取り出すと、数枚のお札を取り出したその隙に、レンの腕が俺の身体を包んで引き寄せた。


「なにを⋯⋯っ」律の慌てる声。


「俺、そういうつもりで、ミオを保護したわけじゃないから」


 レンはそう言いながら、引き寄せた俺を後ろに隠すように律の前へと出ると、


「よく見て。⋯⋯ミオ、アンタに対して怯えてる。保護した者としては、ちょっと見過ごせない」



「澪⋯⋯」


 レンの発した内容と、律の呼びかけに、俺は気まずくて律から隠れるようにレンの身体を盾にした。


 そこに――、


「だれ?アンタ」


 ナギの声だった――。


「なにしてんの?こんな狭い玄関で。で、アンタ、誰?ここのもんじゃないわよね?」


 ナギの言葉に、レンが反応して口を開いた。


「ミオに用事があって来たみたい。⋯⋯で、誰だっけ?」


 レンの言葉に、律が溜息をくと、


「俺は、澪の伴侶だよ。結婚相手。だから、澪を迎えに来た」


「ああ⋯⋯、あんたがリツか」



 レンの言葉に律が反応する。


「なんで俺の名前⋯⋯」


「アンタがミオの伴侶!!?⋯⋯だったら、帰んな!!」


 律の言葉に、被せるようにナギの怒号が飛んだ。



「ミオが最初言ってたよ!逃げ出してきたってね!」


「⋯⋯それは、」


「⋯⋯たしかに。アンタの話をした後に逃げてきた、ってミオが言ってた」


 レンの言葉に少なからず、俺は驚く。


 つい口から出てしまった律のこと。

 深く聞かれなかったから、記憶にも残っていないと思っていた。


 レンの言葉に、律は反論する言葉を発さない。


「⋯⋯っ」


「だったら尚更、ミオは渡せないね!ほら、早く出ていきな!!」


 ナギの剣幕に、レンの後ろに隠れていることに罪悪感を覚える。


(本当は、俺がちゃんと言わなくちゃいけないのに⋯⋯)


 でも、その一歩が踏み出せない。


「⋯⋯ナギ。この雨だと無理。外、見て」


 レンの言葉に、ナギが反応した。


「ええ?⋯⋯わ!すごい雨じゃん!そうだった!レンに用事があって来たんだったわ!そんなことより、じゃあ、どうすんのよコイツ!」


「とりあえず、長老に報告して判断を仰ごう。可能なら長老の家に一晩リツを泊めてもらう」


「なに勝手に⋯⋯」


 律の反論もナギに封じられる。


「そうだね!長老はミオの滞在は、迎えが来るまで、て言ってたけど、ミオがコイツから逃げてきた、ってことも伝えないと!あたしも泊まる!!こいつがどんなヤツか、見定めないと気がすまない!」


 思わず、レンの影からナギの様子を覗き見る。


「そうと決まれば、長老に相談よ〜!」と、言いながらナギは、玄関先に置いていた傘を掴むと、駆け足で出ていった。


 ナギの言動を唖然とした表情で見ていた律が、振り返るとレンに


「あんたン家で、澪は世話になってんの⋯⋯?」


と、聞いてきた。


「まあ、保護してるから⋯⋯」


 レンの言葉に、しばしの沈黙。


「⋯⋯そう。なら俺、今日、ここに泊まる」


(え⋯⋯ッ!)


 律の言葉に思わず出そうになる声を、慌てて抑えた。


「それは⋯⋯、」


 言いかけるレンの言葉を遮るように、


「俺は、澪が男と二人きりで過ごしてるのが、我慢できないだけ。しかも、こんな狭い家で」


 そう、憎々しげに言う律に対して俺は思わず、


「そんな事、言わないでッ!」


と、声が出てしまっていた。


「澪⋯⋯ッ!」


 律の、どこか嬉しそうに俺の名を呼ぶ声に戸惑う。


「⋯⋯律、レンのことひどく言わないで。俺すごく世話になったんだ。色んなことも教わったし⋯⋯。御飯だって食べさせてくれた。そんなレンに、侮辱するようなこと言わないで⋯⋯」


 言えたけど、レンの背中越しだった。


「⋯⋯⋯⋯ごめん。言い過ぎた」律の言葉。


 俺は、驚きで律を見る。

 顔はまだ見れない。けど、

 夢の中の律そっくりの少年は、反論なんて許さなかった。


 だから、驚いた。


 違うのに、夢の中の少年とは。

 そう分かっているはずなのに。


「澪⋯⋯、俺よりこの男が良いの⋯⋯?」


 頼りない声に戸惑う。


 その時、バシャバシャ、という水音と足音が近付いてきた。


「長老に晩御飯の準備と掃除で、手ぇ打ってきた!」


と、声とともにナギが玄関口へと飛び込んできた。


「リツだったっけ?!来な!晩飯と風呂掃除、手伝ってもらうからね!」


「いや、俺は⋯⋯」


 腕を取られ、引っ張られる律は、踏ん張り俺に顔を向けた。


 思わず目が合う。


 悲しそうな表情。雨に打たれ、悲哀感すら漂う。


(⋯⋯なんで)


「『いや』でも『俺は』でも、ない!!長老への挨拶も、許可もなく入ってきた部外者の異論なんて認めるか、っての!さっさと歩く!ほら!行くよ!」


 長老の家から拝借してきたのか、傘を渡される律。


 凄みをきかせたナギの表情と声に、律は不承不承に従った。


 去り際に、ふいに律が振り向き、また目が合う。


(なんで、そんな淋しそうな顔をするの⋯⋯)


 夢で見たことない少年の表情と、律の表情が噛み合わなくて、胸の奥がザワザワとした。


「レンー!忘れてた!うち雨漏りしてるの!雨の中、悪いんだけど、屋根にビニールシート被せておいて!家の鍵開いてるから!約束!履行りこう!今!よろしく!」


 去り際に、ナギはそう大きな声でレンに告げた。


 その言葉にレンは、大きなため息をつくのだった。


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