白い煙と焼き魚、その一口
魚の焼ける匂いがフワリと香る。
魚から脂が溶け出して落ちているのか、炭の上に落ちて白い煙は玄関から外へと立ち上っていく。
ヒヤリとした風が、台所から玄関口へとまっすぐと通る。
ちょっと肌寒い。
レンは、クルクルと竹串に刺さった魚を、裏返しながら焼き加減をみていた。
七輪の側によって焼けていく魚を見る。
レンが焼く直前に振った塩が、脂と合わさって白い塊⋯⋯結晶化していて、ところどころ焼き色がついている。
魚が苦手なはずなのに、
さっきまで生きていた、と感じていた罪悪感が、
皮を焼くジュウジュウとした音に掻き消され、
なんだか⋯⋯
「おいしそう⋯⋯」
不意に出た俺の言葉に、レンが頷きながら、
「待ちきれないよね。でも、あと、ちょっとだけ待ってね」
「⋯⋯うん」
(でも、食べれるかな?⋯⋯ちょっと不安)
「はい、ミオ。焼けたよ」
レンから竹串を渡された。
渡されて戸惑う。
(どこで食べるの?部屋に上がるの?⋯⋯それともこのまま?)
レンを見た。
(お、俺の釣った魚、ちいさい⋯⋯)
自分の竹串の魚とレンが持っている竹串の魚を見比べる。
「か、替えようか?ナギの釣った魚大きいし、俺のじゃ、物足りないよね?」
そう提案したけど、レンから
「どうして?ミオが俺の飯のために初めて釣り上げた魚なんだろ?嬉しいよ。ありがとう」
そう言うと、レンは和室の上がり口に腰を掛けて「いただきます」と、言った。
嬉しさと申し訳なさ、あと、和室に上がらず食べることが分かって、迷いが消えたことで、ホッとした気持ちで俺も「いただきまーす」と、言いながら、ふと、横に座るレンを見た。
レンは焼いた川魚を、尻尾からガブリと食べ始めていた。
「え!?あ⋯⋯、これ、そうやって食べるものなの?」
両手に竹串を持って、食べやすそうな背から食べようとした俺は、驚いてレンに尋ねた。
「え?あ、いや、川の魚は骨が柔らかいから、つい。うん、どこからでも食べて良いよ。決まりなんて無いよ?ただ、落っことさないようにね」
竹串に刺さった焼き魚。まるでアイスキャンディのようにレンは持っていた。
(こ、これが単一の“男”の“漢”らしさ⋯⋯!)
再び食べ始めるレンの姿を、まじまじと見た。
器用に口で串に刺さった魚を移動させると、胴体、頭とバリバリ、ムシャムシャと食べ終え、串に付いたカスのような身しか残っていなかった。
『食べてる途中で、支えがなくなって、自重で地面に落っこちちゃうよ』
(なんて、レンは説明してくれたけど、落ちる前に食べ終わってるじゃん!)
魚が苦手なんて言ってられなかった。
尾から食べる勇気がなかったので、やっぱり食べやすそうな背中から。
男らしさを意識して、大口を開けてかぶりつこうとした。
「あ、中は熱いから気をつけて」
結局、レンからそう言われ、最初の一口は恐る恐る。
魚、臭いのを嫌だな、と、思いながら口に入れた身の柔らかさ。フワリ、と口の中でほころび溶けた。
「⋯⋯!?」
臭いもなかった。
一口噛んだ後、まじまじと魚を見る。
真っ白の身から、湯気が立ち上がる。
口に含む、後味はしょっぱさの後に甘みが来た。
「美味しい⋯⋯。なんで、臭くないの?」
「すぐに下処理したのと、身が新鮮だから⋯⋯なんて、身も蓋もないか」
レンがそう、呟いた後、俺が持っている魚を指さしながら
「骨も食べれるよ。身を食べながら、塩がたくさん付いてるところ、そこを食べて、また身を食べるのも美味しいよ?食べる順番は無いけど、これは、俺が好きな食べ方の順番⋯⋯あ、魚、返さなきゃ」
早速試してみる。
少し、薄味に感じる身の部分を濃い塩味が補ってくれて、丁度良い塩梅になる。
「美味しいよ、レン!」
しゃがんで七輪に向かって魚を返すレンに、俺はそう声をかけた。
「そ?良かった」
ハグハグと食べすすめる。
「骨は、尾から食べすすめると食べやすいよ。ちなみに俺は頭も食べる」
「⋯⋯それは、その竹串を見れば分かるよ」
畳の上、皿の上にレンが食べ終えた竹串。まるで大きな爪楊枝。
尾は、パリパリとして香ばしくて美味しく、苦手な骨は確かに柔らかかった。
残すは、頭のみ。
つい魚の真っ白の目と目があった。合ってないけど、そんな気分。
「⋯⋯頭は、まだ勇気出ないかも⋯⋯」
“男らしさ”を忘れてつい、弱音を吐いてしまった。
「そ?じゃあ、俺が食べよう」
そう言うと、俺が持ってる腕ごと掴んで、串に残った頭を、パクリ。
あっという間に、レンの白い歯が魚の頭を噛みつくと、竹串から器用に取り外して口の中へと飲み込まれてしまった。
「次は、砂糖で下処理をしたやつ。どんな味か楽しみだね」
レンは唖然とした俺をよそに、モグモグと咀嚼しながら、そう告げた。




