第八話:奴を取り戻せる可能性は、あるか。
「俺たちの軍は勝った、辛勝だが勝ったことに変わりは無い!狗楓が抵桧の首を討ち取ったんだ!だが…狗楓は軍を残しひとり造反者と
なった。直属部隊も、全て残してだ」
戦っていた兵士たちは複雑な気持ちに襲われた。
激戦には勝利し、主君には一言も無く見捨てられた。
織嘉の残った軍には、勝利した歓喜の気持ちよりも怒濤の波紋が流れていた。
「刀武将軍!将軍は悔しくないのですか」
「断りも無く同盟を放棄され、腹が立たないのですか!?」
「出来損ないの軍師気取りとは、正にあいつの事よ!」
身をも焦がす程の怒りに震えた戦士たちの声が、困惑する刀武の脳内に広がる。
刀武は、拳を握り締めた。
「言葉を慎め。狗楓を馬鹿にしたような口を叩くな」
二つの純粋な瞳に、涙が溢れる。
『散々馬鹿にしてきたのは俺もだ…』
そんな考えもよぎらせ、またも涙が溢れる。
「狗楓には狗楓の考えがあるんだ。それを邪魔する事は出来ないんだ…!俺は狗楓が嫌いなわけじゃない、本当は策にも賛同したかった。
俺は良策だと思った。だけど俺は、策とかよくわかんねえし、一応将軍だしよ…!思うままに戦を動かしたかったのもあったしな…」
兵士に言い聞かせると共に、刀武は自分へも言い聞かせていた。
家臣たちの前で思い切り声を上げて泣き叫んだ。
「あんなこと言っちまったが、本当は。本当は…」
「ずっと仲間で居たかった…!」
批判と罵詈雑言を浴びせる者は、もうなかった。
赤黒き血にぬれた武器たちは、虚空を見つめた。
今や造反者となった織嘉に討ち取られた抵桧の首もまた、虚空を見つめていた。




