86
真鍋先輩のぬくもり、においを、こんなにもダイレクトに感じて。
もっと触れたい。
もっと触れていたいって。
気持ちがどんどん溢れて。
でも、ダメ。言っちゃ、ダメって。
ぎゅって、しがみつく。
「真尋?」
「………先輩、いじわるだよ」
「いじわる?」
「もう、止まらないのに、いっぱいで洪水してるのに何で言っちゃダメなの?受験勉強があるから?僕が邪魔になる?」
ちょっと身体を離して、泣きそうな気持ちで言ったら。
「まひろぉー。マジ勘弁してくれ」
「………迷惑?」
マジ勘弁って、その言葉にもう、本気で泣きそうになった。
「違う。邪魔とか迷惑とかじゃ、ない」
「じゃあ何で?」
邪魔でも迷惑でもないなら。どうして?
「………言っても、引かないか?」
「え?」
離れていた身体を、また引き寄せられる。
もう、身体中が言ってる。
好きって。
真鍋先輩、大好きって。
真鍋先輩は、違うの?
「お前も男なら分かるだろ?明日は好きなやつが一晩中目の前に居るんだぞ?しかもそいつも絶対自分のこと好きだって分かってる」
「先輩………」
真鍋先輩、好きなやつがって、今。
それって。
それって。
「それだけでもドキドキしてんのに、かわいい顔して好きなんて言われてみ?理性なんてぶっ飛ぶっつーの」
「先輩………」
「ぶっ飛んでワケわかんなくて乱暴にして嫌われたら意味ないだろ?」
ドキドキが、ドキドキすぎて。
それってつまり。
僕のことが好きで、だから、今僕が好きって言ったら、何しちゃうか分からないって。
そういう、こと?
「じゃ、受験生だからっていうのは………?」
「ごめん、嘘」
「嘘?」
「俺もう推薦で決まってるから」
「え?」
「大学、実はもう決まってる」
「そう、なの?」
「そうなの」
「遠くに行っちゃったりしない?」
がばってあげた顔の前に。真鍋先輩の顔があった。
嫌だ。
せっかくこうして触れられたのに。
これからもっと、きっと、触れられるようになるのに。
「それは大丈夫」
「………良かった」
「邪魔でも迷惑でもないから、もうちょっと待って。な?」
そんなの………。
「別に、いいのに」
「まーひーろー」
「うわっ………せんぱっ………」
真鍋先輩がちょっぴり情けない声で僕を呼んで、僕は、そのままラグの上に押し倒された。
僕、もう、心臓が飛び出しそう………。
「こら、カッコつけさせろっつーの」
「先、輩」
「今だってすっげぇ我慢してんの。それをお前はさっきから煽りやがって」
「………ごめんなさい」
「焦らず、大事にしたい。だから今日明日は黙っとけ」
「明後日ならいいの?」
思ったことをそのまま言ったら、真鍋先輩は爆笑した。
あれ?何か僕、変なこと言ったかな?
「どんだけ言いたいんだお前は」
「今すぐ言いたい何回でも言いたいうるさいって言われても言いたい」
「マジかよ」
「だってもう………いっぱいで溢れちゃう」
笑っていた真鍋先輩が、真面目な顔になって、黙って、僕を見下ろす、から。
恥ずかしくなって、目をそらした。
真鍋先輩の身体が、僕の上に、重なる。
「重くない?」
「だい、じょう、ぶ」
おずおずと、その背中に腕を回してみる。
「お前、本当に本気でかわいすぎ」
「だって、本当に溢れちゃう」
「明後日までは我慢してろ」
「………明後日まで、ね?」
「俺もとりあえず」
真鍋先輩が顔をあげて僕を見てニヤって、不敵に笑った。
そして。
「これで我慢しとく」
って。
「ひゃあっ」
僕の首筋に、キスを、した。




