58
「新井は母さん似だな」
もう遅いから車で送っていくって言った母さんに、真鍋先輩は大丈夫ですって、自転車で帰るって言った。
玄関先まで見送りに来た僕に、真鍋先輩は。
「新井の母さん。めっちゃ美人じゃん」
「え?」
母さんが美人で、僕はその母さんに似てる?
それって。何か、まるで。
「じゃ、月曜日な」
すぐに行ってしまいそうだったから。
「先輩っ」
呼び止めて。
呼び止めたけど。
何て言えばいいかな?何て言えば、伝わるかな?
楽しかった。
嬉しかった。
ドキドキして。ずっと一緒に居たくて………触れていたかった。
「ん?」
「今日は、ありがとうございました!!すっごいすっっごい楽しかったです!!」
それ以上は、言えなかった。
「俺も、楽しかった」
「ホント!?」
「楽しかったよ」
そして走り出した、自転車。
ドキドキして。
ドキドキしっぱなしで。
真鍋先輩も、楽しかった?本当に?
交差点は、今日は青信号。
でもやっぱり真鍋先輩は、前を向いたまま、手を振ってくれた。
真鍋先輩。
さっきのは僕がまるで美人って言ってるみたいだったよ。
男相手に美人って、おかしいよ?
おかしいけど。
おかしいのに、嬉しいって。
思っちゃうんだ。
遠くに真鍋先輩を見ながら、自分の、唇に、触れる。
真鍋先輩のおでこに、キス、しちゃった。
思い出して、顔が熱くなる。
ごめんね、真鍋先輩。
僕。
キス、しちゃった………。




