お祭り
☆ ☆ ☆
あの日はグロキシニア国の盛大なお祭りだった。家を一歩出れば、きれいな音色の音楽が飛び交い、たくさんの人々の笑顔が咲きあふれていた。屋台や中央のステージの周りでは、埋もれて見えなくなってしまいそうなほど、人が集まっていた。
「お母さん、あのお店見たい!」
「待って、ソウ。迷子になった大変でしょ。はい、手つないで」
温かくて優しく、ぼくよりも少し大きいお母さんの右手をそっと握った。
「よし、お父さんとも手をつなごう!」
「いやだ。お母さんがいい」
「そんな…お父さんは悲しいぞ……」
お父さんは大げさに涙を拭く仕草をした。
「ソウ、お父さんがかわいそうよ。手、つないであげましょう。ね?」
「わかった。お母さんが言うなら」
しぶしぶと差し出したぼくの手は、大きくてかたいお父さんの手に包まれた。
「……幸せだな」
しみじみと呟いたお父さんの言葉に、お母さんが頷いた。
「幸せが、ずっと続くといいね」
「そうだな」
「そうね」
二人とも、目を細めて笑っていた。
☆ ☆ ☆
眩しくて目を開けると、朝日がカーテンの隙間から漏れていた。ボーッとしていると、昨日は疲れていて帰ったらすぐに横になったことを思いだした。
コンコン、とドアをノックする音が聞こえ、上体を起こす。
「誰……?」
車椅子に移ると、そばにあったカーディガンを羽織って玄関へ向かった。
「……どちら様ですか」
「あ、ソウ? いるよな」
声の主が誰なのか、すぐにわかった。
「……カイウ、何の用?」
「よく俺だってわかったな。今からさ、広場でサヨネ…俺の連れがさ、歌うんだ。だからさ、お前にも聞いてもらいたくて。そいつの歌を」
「いい。今日、調子悪いから」
「そうか? いつでも来ていいからな」
足音が遠ざかって行った。
―――調子なんて、悪くないんだよ。外に出たいよ。カイウに会いたい。話したい。でも、怖いんだ。ぼくの知ってるカイウと、今のカイウは違うから。
☆ ☆ ☆
買ってもらった飴を食べながら歩いていると、見慣れた顔を見つけた。
「あ、カイウだ」
「やあ…ソウもお祭り来てたんだ」
「もちろん。今日は甘いものたくさん食べるんだ」
「食べ過ぎて、太らないようにね」
「……うるさい」
二人で顔を見合わせると、笑った。
――あれって、カッシアじゃねぇか?
その若い男の声で、それまで心の中にあったほわほわとした気持ちはどこかへ行ってしまった。
――あの白いガキ?
――こんな奴らが、ちょっと前まで何百万の価値だったんだな。
『カッシア狩り』では、フェンネルの敵国、レウィシアにカッシアの血が混ざる人間を差し出せば、金がもらえた。そして、ぼくらカッシア一族は減っていった。
――今でも、かなりの金額で売買してるところがあるらしいぜ。
――マジかよ。じゃあ……。
背筋に寒気が走った。今この瞬間、首根っこをつかまれてしまうのではないのかとも思った。
「ソウ、こっち」
「え」
答える暇もなく、カイウに手を引かれるまま、ぼくは走った。
――おい、逃げたぜ。
――冗談だったんだけどなぁ。
男たちの笑い声は遠くなる。
「ねえ…怖いよ、カイウ」
「大丈夫。僕がいるから」
カイウは何気なく言ったんだろうけど、ぼくには神様のお告げよりもありがたい言葉だった。
ネーミングセンスってどこに売っているのでしょうか?
毎回タイトルつけるのに苦労しています…。




