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破壊された世界~break・world~  作者: 九郎カケル
一人ぼっちの王子様
30/49

開かれた扉

 


「く…来るな!」

 考えるよりも先に、言葉が出てきた。

「おうおう! やっと喋ってくれたな~」

 気配がこちらに近づいてくる。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

「それにしても、玩具箱の中に住んでるみたいだな」

 ボクが何も答えていないけど、奴は諦めたようでボクの返事を待っていなかった。

「えーと、混乱してるときに悪いけど、オレはヤシ。お前のお兄ちゃんだ」

 は。お…『お兄ちゃん』?


 と、そのとき。


 真っ暗だった視界に真っ白な光が射した。

「!?」

「はっはは!先手必勝」

 うっすらと眼を開けると、にっこりと笑う奴がいた。手には布団が。

 ……やられた。

 少し眼を開けただけなのに、大粒の涙があふれてきた。

「あわわ! な、泣くな! 兄ちゃんが悪かった、すまん!」

 さっきの威勢の良さはどこかに行ってしまったように、まるでボクを拝むように手を合わせ許しを乞う奴――兄と名乗る男。

 ボクの兄ということは、もしかしたら、未来の王様かもしれないということか。いや、でもボクの父親が国王だとまだ決まったわけじゃなく、その可能性があるというだけで……。

 自然と、口の端が上がった。


 ――――ああ…そうか。ボクはまだ物を考えられる余裕がある。完全に混乱しているわけでなく、冷静なところも残っているんだ。――――


『すべてを受け入れ、すべてを理解し、すべてを見つめる』

 〈お父さん〉に教えてもらった、魔法の言葉。

 ボクは起き上がり、自称兄と目線を合わせた。

「シュ、シュロ……?」

「質問」

「何だ!? お兄ちゃんに何でも聞いてみろ!」

(自称)兄は『オレの胸に飛び込んでこい』とでもいうように両腕を広げている。その仕草に寒気を感じた。

「お前は王族か」

「……」

 返事はない。もしかして、間違っていただろうか。王妃と母親が同一人物だというのは、気のせいだったか。そもそも、この兄だという礼儀知らずの奴が、王族なわけが……。

「ええぇぇぇぇ!? お前なんで知ってんの!? 召使いが喋った? オレがしくじった?」

 大きな声が鼓膜を突き破りそうな勢いで耳に届いた。遠くで、鳥たちが一斉に翼を羽ばたかせる気配がした。

「考えた」

「すげえよ、お前! 頭がいい働きしてる。勉強は…してるみたいだな」

(自称)兄がちらっと机の上を見た。教科書や本が積み重なっている。

「でもこれ、オレが12歳の時に習った問題だぞ? お前ってまだ……」

「9歳」

「だよな、やっぱりお前すげーよ!! さすがオレの弟だ!」

(自称)兄の伸ばした手が、ボクの頭の上に来た。

「…触るな」

「いいじゃんかよー。オレのかわいい弟なんだからさー!」

 案の定、頭を撫で回された。くすぐったいような、見下されてむかつくような…どこか懐かしいような。

「なあ、シュロ。今まで一人ぼっちで、寂しかったろ……。オレたち…父上と兄上とオレで、一緒に城で暮らさないか?」

「いやだ」

「即答!? もうちょっと考えてくれても……」

「帰れ」

「ひどいな、もう…お兄ちゃんは悲しいぞ!」

 久々に人と話したことと、緊張が重なって気分が悪くなってきた。再び横になり、布団をかける。

「また、来てもいいか?」

(自称)兄は、さっきまでのふざけたような声から一変、重みのある声になった。

「……次は、人形を持ってこい」

 今のボクに言えるのは、それだけだった。









 やがて、階段を下りる音が聞こえなくなった。

 ボクはそっとベットから起き上がると、さっきまで抱きしめていた人形を手に取り窓辺に立った。右手には鋏を握って。


――ひろいのはらに ひつじがいっぴき おりました。ちかくにおおかみ おりました。

 おなかがすいた おおかみは ふくふくふとった そのひつじ

 ごはんにしようと ねらいます。

 のんびりひつじは きづいてた。

 じぶんがみられて いることも。

 じぶんがくわれる うんめいも。

 それでもひつじは うごかない。

 それではおおかみ はしります。

 いーただきます ごちそうさまでーした……。


 この手の中に、もう人形の温もりはない。 

 自分が王族だということ、兄の存在を知り、突如訪れた日常の崩壊。

「……足りないよ、玩具が。早く…早く新しい玩具を!」

 怖いんだ。知るということは、進むということは…失うということは。



 ――――もう二度と、ボクの目の前で命が消えてほしくない。それだけなんだ。



 

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