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チョコレート・ハウス 外伝  作者: 猫又
第八章

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美里の回想 前編

 殺すならクズがいい。

 この世でもっともクズな人間がいい。

 悪い人間じゃなく、クズな人間。

 殺戮には理由がいるから。

 最もクズに相応しい人間こそ、楽しめる。

 クズな人間が何故自分が殺されるのかをじわじわと気づくのがいい。

 クズはそんな事に気がつくしら? クズだから気がつかないかしら?

 自分がクズだって気がついた時には時には遅いし、悔い改める時間なんてない。

 そうね、クズには悔い改める時間なんて必要ないわね。

 私が死ぬときもそんな時間はいらないわ。


 出来るだけ錆びたナイフがいいわ。

 かすっただけでも菌が身体の中に入り込んでくるような。

 出来るだけ切れ味の悪いナイフがいいわ。

 何度も何度もざくざくと切らないとならないような。

 

 力を入れて刺して、そこから切り開くの。

 健康な肉が反発して切開されまいとするわ。

 でも、その上から力で支配し返してやるのがいいわ。


 抵抗されると案外手こずるわ。

 そりゃあ、相手も必死でしょうから。

 いきなり襲われるんだから、抵抗もするでしょう。

 だから確実に目を潰すわ。

 クズの目に最後に映るのは何かしら?

 夜空とかそういうのだったらいいけど、公衆便所の天井だったら気の毒ね。 

 天井ならまだましね。公衆便所の汚れた床か、便器そのものだったら、気の毒ね。

 でも、クズなんだからしょうがないわね。文句は言えないわ。

 私も文句は言わないわ。

 捕まる時は警官隊に撃ち殺されたいなんて、注文をつけられる身分じゃないわね。

 

 でも、最近は少し気が緩んでるかもしれないわ。

 生き別れていた弟と再会したから。

 私がへまをして捕まりそうな時は、きっと弟が私を先に殺してくれる。

 それからフレンチのレストランで全て破棄してくれるはず。

 この世に私の痕跡を何も残さないのがいいわ。

 爪や髪の毛は燃やしてしまって。

 もちろん弟がへまをした時は私が殺してやるわ。

 弟もそう望んでいるはず。


 殺人鬼は殺人鬼が殺すのがいいんじゃないかしら。

 例えば・・・そう。

 死刑囚とか。死刑が決まった囚人を殺すのはその次の死刑囚。

 クズは最後にお楽しみが出来る。

 その死刑囚も次には自分が次の囚人に殺されるの。

 クズ同士が殺し合うだけなんだもの、誰の良心も痛まないわ。

 いっそ殺人鬼を一つの部屋にいれて殺し合いでもさせたらいいんじゃないかしら。

 そいつらを飼うのに使う税金も無駄にならずにすむし。

 生き残った最強のクズはご褒美に生きててもいいわ。

 生きたまま、首から下を畑に埋めるのはどう?

 身体は少しづつ腐っていくけど、畑の肥料になるわ。

 自分の身体が次世代の食料になるなんて、殺人鬼にしては上等だわ。

 政府の経営する農場には恐ろしげな顔だけがちょこんちょこんと整列している。

 想像するとちょっと可愛いわね。

 ああ、貴重な肥料なんだから、殺し合いなんてさせなくてもいいわね。

 いっそみんな生き埋めにしちゃえばいいわ。

 

 笹本さんなら肥料にするなら料理にした方がいいって言うかしら。

 私は元より人肉には興味ないけど、殺人鬼なんて最も食べたくない肉だわ。

 本当に食人鬼って変わってる。


 そうだわ。一度だけ食人鬼を殺した事があるわ。

 私はアルバイトで、彼はその会社の社員だった。

 彼は貧相で、大人しい感じの男だった。

 私を一目見て「ハンターですよね」って言ったわ。

 その時はハンター? 何?と思ったから相手にしなかった。

 でも彼は私の身体に血の臭いを嗅ぎとったんでしょうね。

 翌日から変なお弁当を作って持ってくるようになったわ。

 その時は意味が分からなかった。彼が食人鬼なんて外見では判断出来ないもの。

 私は受け取らずに丁寧にお断りしたわ。

 男の人がお弁当って変わってるわね、と思っただけだった。 

 そのまた次の日にもお弁当を持ってきて、「絶対気に入ると思うんです」と私の手に弁当箱を押しつけて逃げるように消えたわ。

 変な人ね、と思ったら封筒がついていて、中には一枚の写真が入っていたわ。

 先週の金曜日に殺した女の写真だった。

 女を殺したのは腹が立ったからよ。

 お昼ご飯を公園で食べようしていたら、女が「ゴミなんだけど」って聞いてきたの。

「この公園内にゴミ箱はないわ。ゴミは自分で持ち帰るようになってるから」と答えたわ。

 そしたら。

「そんな事は知ってるわ」と言ったの。続けて、「あんたのゴミと一緒に捨てといてよ」と言ってから、私の足下にゴミを投げ捨てたのよ。

 その女の身元は知っていたわ。同じビルの別の会社の女。オフィス街だから昼はランチで見かける事があった。

 だからその日の帰りにそのビルの階段から突き落としてやったわ。

 悲鳴を上げて頭から落ちていった。うふふ。どうやら首の骨が折れたらしくて、変な方向を向いてたからそれで勘弁してやったわ。

 ビルの階段って案外、人がいなくなる一瞬があるものね。

 でも、その女の死に顔を写真に撮って持って来るなんて、趣味の悪い男ね。

 と思って、一応、弁当箱を開けてみた。

 サンドイッチに卵焼き、プチトマト、ブロッコリー、そしてソーセージの代わりに指が三本、綺麗に並んで入っていた。綺麗に人肌をむいて、爪も取ってるけど、ゆでても焼いてもないみたい。赤黒い生肉指だった。

 食人鬼の存在は知っていたわ。もちろん人のライフスタイルには口出ししない。

 好きなだけ好きなようにして食べればいい。

 でも私は興味がないから男を追いかけて行って、「こういう料理は興味がないの」と返事をしてから弁当箱を返した。

「そんな」

 と男は酷くショックを受けたような顔だったわ。

 そんな、じゃないわよ。食人鬼なんかと一緒くたにしないで欲しいわ。

「あなたは同じように思ってるかもしれないけど、私とあなたは全然違うの。確かに食事は誰かとした方が楽しいけど、同じ趣味の人を探した方がいいわ」

「け、警察に言いますよ。あなたは人殺しだ」

 と男が言ったわ。

「脅しているつもりなの?」

「……」

「警察に言うなら言えばいいわ。そんな物を食べてまで長生きしたいとも思わない」

 そう返事をした後、男は何も言い返さなかったから私はそのまま男から去った。


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