1-1
「おい木乃花!何だこの点数は!わざとだろぉぉ!!髪の色も…何度言ったら分かるんだぁああぁ!!」
ガラガラッドンッ!と扉を勢いよく開ける音と同時に、放課後の教室に響き渡った先生のヒステリックな声。まるで猿の鳴き声のような奇声、猛獣のような足音。繋がった眉毛の下には反射する眼鏡。頬には髭がまばらに生えている。愛称は眉毛先生。
右手には鼻息で揺れるテスト。教科は、化学。進学の始めに実力を見ると言って去年の問題が出されたテストだ。成績には関与しないテスト。解答は全て白紙、右上には眉毛先生の絵が描かれている。
先生の視線の先には、学校のバッグとは別に大きな紙袋を持ち、席を立ち帰る準備をしていた女子生徒、”木乃花 桜”。紙袋の中には、プレゼント用の包装用紙と雑貨がたくさん入っている。
桜は眉毛先生の方を見ると、ニコッとして言う。
「あははっそんなに怒ってばっかいるとシワが増えるから私が楽しい話してあげよっか!」
怒りに満ちた先生とは裏腹に満面の笑みを浮かべている。怒りが一瞬で打ち砕かれるような笑み。バカにしているような発言にも聞こえるが、あまりにもニコ二コしてそんなことを言うから、先生もどこか満更でもなさそうな。ピンクのカーディガンと明るく淡いミルクティ色の髪がより笑顔に明るさを足している。髪は耳の少し下で二つ結び、毛先には大きくゆるいカールがかかっている。薄く下ろした前髪の隙間から、整った眉がわずかに見える。
綺麗な肌、ほんのりピンクに色づいた頬。薄メイクでぱっちりとした目、うるっとした茶色く大きな瞳。美人…というより可愛らしい顔立ちをしている。
背は155cmほどで、やや小柄である。
「ど、どアホ!元々誰のせいで怒ってると思ってるんだ!楽しい話はテストで良い点数を取ってからにしろおぉぉ!」
「そしたら私次のテストまで明るい話の出来ないちょー暗い子になっちゃうよ。いいの?せんせー。じゃ、帰るね!さよーなら!」
桜は笑顔のままそう言って、先生が引き止める間もないくらいの速さで教室を出て行った。
「待…っ!」
先生がワンテンポ遅く廊下を見てそう言うと、桜は廊下で一度立ち止まりドアからひょこっと顔を出した。
「あっ眉毛剃った方が良いよ!髭もね!」
その一連の流れを教室内で見ていた3名の女子生徒の大きな笑い声。桜は女子生徒たちに笑顔で手を振って、教室を去っていた。
「桜、ばいばーい!あの眉毛、怒ってるクセに楽しそうだし。」
「無駄に桜に絡むしねー。笑顔で対応してくれるの桜ぐらいだし、喜んでんじゃないの、眉毛。」
「てかあの子、っていつも笑ってて悩みなさそうだよね、漫画の主人公みたい。」
「いやほんと!AIですか?ってぐらい可愛いし性格もいいって何?」
「ちょっとおバカっぽいところ以外なんの欠点もないじゃん!私も桜に生まれたかったわ!」
「今日誕生日プレゼントもらってた時の桜の喜び方とか、世の中の男全員惚れるだろ!」
「ほんとそれ!」
女子生徒がわちゃわちゃしていると、拳を握りしめ黙っていた先生が大きな声を上げる。
「"あのまゆ毛"とは、なんだーーー!!!」
すると女子生徒はすかさず
「反応おっそ」
「もうその話終わったんだけど!」
冷ややかに、真顔で対応する。そして、居残りで勉強をしながら一連の流れを見ていたおかっぱで眼鏡をかけた色白の男子生徒はボソッと言う。
「エネルギーの、無駄ですね。あの、眉毛。」
その瞬間、そこにいた全員が彼に注目してフリーズをした。




