第84話 昭和11年、(role over)。クロニクル1、ライジングサン
この84話『クロニクル1、ライジングサン』、85話『クロニクル2、シャイニングサン』、86話『クロニクル3、グローリー』、87話『クロニクル4、ヘゲモニー』で完結です。主人公は退場しましたが最後までよろしくお願いします。作者はこのクロニクル全4話を書くためにここまで書いてきたのかもしれません。
日本軍は快調に進撃を続け、ソ連のイルクーツクまで占領してしまったそうだ。
イルクーツクの市庁舎に日の丸が翻っている写真が新聞に載っていたから占領は事実だろう。
さらにこれまでの進撃途上での損害は軽微だという。それは嘘か真なのかは分からないが、たぶん本当なのだろう。嘘なら進撃が途中で止まって、こんなに早くイルクーツクを占領できてないはずだから。
坂を転がるように世界が動いていることが分かる。転がった先がどうなっているのかは分からないが、たぶん日本にとってはいい未来なのだと思う。そうじゃないと俺たちが今までやってきたことが無駄になるから。
YHT貿易の事務所の荷物置き場には、少し時間を置いてから『放出』した方がいいだろうという『お宝』がそれなりの数眠っている。オークションに掛ければ総額20億円は下らないはずだ。
昭和11年、1936年が明けた。100年前の日本に行き来するようになった時の日本は大正15年、1926年だったから、もう10年になるわけか。俺もあと3年で40歳だ。堀口も俺から遅れて4年もすれば40歳だ。そのあと2年もすれば鶴井も40歳だ。いいのだろうか? 何もないけど、今は家族のようなものだし、これでいいのかもしれんな。今の俺たちは経済的には完全な超富裕層だし。仕事は拡大はしていないが順調だ。
2月に入り、2回目になる物品の輸出をするため、荷物を台車に載せて穴の前まで行ったところ、
「穴が見えない!」
「先輩、わたしの手を持ってみて」
言われたまま堀口の手を握ったところ、
「わたしも見えない。鶴ちゃん、先輩の手を持ってみて」
「わたしにも見えません」
「穴が閉じた?」
穴があったところを触ってみたが、公園の塀があるだけだった。
「俺たちにとって、終わったってことなのか?」
「そんなー」
「わたしは、いつかはこうなるような気がしてました」
「俺も実はそう思っていた。向こうに行ったまま帰ってこられないよりよかったと思うしかないだろう」
「先輩、それでいいんですか? 向こうのことが心配じゃないんですか?」
「もちろん心配だが、あの日本が、この日本の歴史を歩むことは絶対にないことはいえるだろ?」
「そうかもしれませんけど」
「とにかくここにいても仕方ないから、事務所に帰って善後策を考えよう。これから仕事をどうするかってこともあるし。もしかしたら明日になればまた穴が見えるかもしれないし」
「そうですね」
善後策を考えるといっても、穴がなくなってしまった以上、何もできることはない。
翌日になっても穴は現れなかった。少し汚れた公園の塀越しに、その先の遊具で遊ぶ厚着をした子供たちを見ていたら、これでよかったのかもしれないような気がしてきた。
「穴がない以上何もできないから、様子を見ながら今残っているお宝を放出していくしかないだろうな。会社の資産はいまや膨大だから、給料は今まで通りで50年は出せるし」
「会社にきてもすごく暇ですよね」
「二人とも、適当にどこかに勤めてもらってもいいし、どこかでアルバイトしてもらってもいいぞ」
「先輩はどうするんです?」
「俺はそうだね。アーリーリタイアで悠々自適生活を始めるかな。web小説を書いててもいいし」
「そうなんだ。それもいいかもしれませんね。それはそうと、先輩。わたしたちは向こうに行けなくなったけど、これから先、あの日本はどうなると思います?」
「技術的には、あの世界の中で10年、いや20年くらい先を行っているし、資源も自給できている以上、負けはないだろう」
「負けることはないだけじゃなくて、世界に対して侵略しませんか?」
「絶対しないとは言い切れないけれど、世界を敵に回しても、意味ないんじゃないか?」
「どうしてです?」
「だって、敵を作っていくより、いいお客さんでいて貰ったほうがいいだろ? 日本製品は世界一なんだし、世界を滅ぼして日本だけでやっていくんじゃないんなら」
「そういわれれば」
「理研で原子爆弾とか作ると思います?」と鶴井。
「理研には作る頭脳も技術も知識まであるし、ウラン鉱床がある場所も判っている以上、作るんじゃないか。ほかの国に先を越されないためにも」
「作ったら使うと思います?」
「作った以上、一度は核実験をするだろう。そして、世界に対して日本が原子爆弾を持っていることを示すため、どこかに向けて使う可能性は髙いと思う」
「やっぱりそうですよね」
「こっちの歴史でのアメリカの役割を日本が引き継ぐんじゃないか」
「資源があって科学技術がある。それってアメリカですものね」
「日本が覇権国家?」と鶴井。
「覇権国家であり世界の警察であり、世界経済の中心になるかもな」
「ある意味、科学って恐ろしいですね」
「そうだな」
「もう、穴が開くことはないでしょうか?」
「俺は、俺たちの『使命』のようなものが終わったのかもしれないと思うんだ。これ以上手をかけなくても向こうの日本は自力というか、慣性でそのまま転がっていくだろう」
「なるほど。そういうことなら、もう、あの穴は開きませんよね」
「それでも毎日俺は確認するつもりだけどな」
何年か前に見た、髪の毛を1本差し出すことで穴を通った夢を思い出した。あの時は最後の1本を差し出して向こうから現代に戻ったんだが、今の俺の髪はまだ一応はフサフサだ。穴は閉じたが髪の毛がまだ残っていることに感謝しておこう。
穴が開かない以上、使命が終わったってことで俺たちにとってのこの物語は(完)ってことなんだろうな。消耗品はかなりの量を積み増しているので、10年は問題ないはずだ。10年では関数電卓は難しいかもしれないが、それだけの時間があれば、ある程度内製化できるのではなかろうか。そういう意味でも俺にとってのこの物語は(完)なのだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
昭和11年2月(1936/2)。日本本土各地の航空基地で錬成を終えた連山36機と予備機3機からなる1個重爆撃連隊がイルクーツク飛行場に進出した。イルクーツクだが、意外と降雪が少なく、滑走路上のわずかな雪も素早く排土車で片付けられて、融雪剤などの散布により離着陸に支障がないよう管理されており、ハイラルからの連山を改造した輸送機を受け入れている。
対ソ3号作戦開始である。
すでにイルクーツク飛行場には輸送機とトラックによって、大量の熱圧爆弾とガソリンなどが集積されており、偵察飛行隊、防空戦闘機隊も進出している。
イルクーツクに進出した連山重爆撃連隊の最初の目標はバクー油田である。イルクーツクからバクー油田までの直線距離は4300キロメートル。午前12時半、温風により摂氏5度程度に暖められた爆弾槽にオレンジ色のネ式2号50キロ爆弾を40発と増加燃料タンクを積み込んだ36機の連山が飛び立った。
高度6000メートルだと往路では平均的向かい風が時速100キロメートルなので、巡航速度時速450キロメートルだと、対地速度は時速350キロメートルとなり12時間半必要になる。復路では高度9000メートルで時速250キロの追い風を利用し、約6時間の飛行時間を見込んでいる。往復約18時間半。帰投予定は翌日の午前7時である。
爆撃は翌日午前1時前後(時差が4時間あるため現地時刻では当日午後9時前後)となるため、夜間爆撃となるが、PPI式の地表(航法)レーダーにより公算爆撃の精度もそれなりに高い。とはいえ、そもそも範囲攻撃なので爆撃誤差はそれほど重要ではない。
順次イルクーツク飛行場から離陸した連山は飛行場上空で12機からなる爆撃大隊ごとに梯団を組み、西に向かって進撃を開始した。
連山の機首の上部には、機長兼操縦士、機関士を兼ねる副操縦士が横並びで座席に着いており、その操縦座から一段下がった後方に電信・電探士の電信室と航法・爆撃手席が向かい合うように設けられている。残りの3人の搭乗員は機銃手で、所定の位置に付き、機内通話機でお互い連絡を取り合っている。実史のB29の搭乗員11名に対して、連山の搭乗員が7名ということは各員の負担が大きいということになる。与圧された機内温度は10度前後に保たれている。低めの温度設定は、搭乗員全員が防寒用の搭乗員服を着ているためである。
第1重爆連隊第1大隊3番機。2番機の場合、隊長機に問題があれば大隊を率いることになるが3番機の場合、そういう状況になることはまずない。これが4番機となると、中隊3機の長機となる。従って3番機は大隊長機についていき、大隊長機の投弾に合わせて爆弾を投下するだけの気楽なポジションということになる。ちなみに連隊長機は、連隊長の機ではなく連隊の長機であって、連隊長は基地で作戦を見守っている。その代わり大隊長機には大隊長が搭乗している。
18時間ほどの飛行用に機内食は2食分温食用のアルミ箱に収まっており、給食30分前に加熱するようになっている。機内にはトイレもあれば、仮眠用のベッドまである。機内は禁煙だが、カフェインを強化したコーヒーの他、同じくカフェインを強化したチョコレートなども機内に常備されている。さらに搭乗員たちが私物としてカップ麺を持ち込むこともできる。
その3番機内。
「中尉殿、今日は楽な仕事になりそうですね」と副操縦士の中村曹長(注1)が声をかけた。
「だな。ソ連の戦闘機は9000メートルまで上がってこないそうだしな」と機長の岡田中尉が答えた。
「日本でも9000メートルまで上がるなんてことは、数年前ならあり得ない高度ですものね」
「戦闘機もそうだが、八七軽爆なんか風防すらないむき出しだものな」
「しかし、ここ数年の日本の航空機の進歩っていったいどうなってると思います? やっと欧米に追い付いたかと思っていたら、もう、20年は先を行ってますよ」
「本当だよな。ちょっと前まで現役で飛んでいた飛行機が、今見たら化石に見えるものな」
「化石というより、よくあんなのが空に浮いていたと思いませんか?」
「いや、全くだ。今じゃ、あんなもの怖くて乗れないぞ」
「そうですよね」
そうやって、操縦座で機長と副操縦士が雑談しているところに、コーヒーカップを二つ持った電信・電探士の吉田軍曹が声をかけた。カップの材質はフェノール樹脂製で飲み口が細くなった蓋が付いている。
「お二人とも、コーヒーを持ってきました」
「済まんな」「ありがとう」
「いえいえ」
「電探の調子はどうだ?」
「警戒電探は快調です。爆撃手の電探も問題ないはずです。なあ、山崎、調子いいだろ?」
『航法・地表電探、快調でーす!』航法・爆撃手席から山崎軍曹の声が返ってきた。
「真空管を使ってないところがいいんでしょう」
「そうかもしれんな。真空管は振動とかに弱いしな」
「中尉殿、飛行機の進歩もすごいですが、そういった電気装備の進歩もすごいですよね」
「そうだよなー。飛行機の操縦法自体はそうそう変わるものじゃないが、電探士とか新しい仕事がどんどん増えて、それを一から学ぶのは大変だしな」
「そうでもないんですよ。理論が分からなくてもスコープを見てるだけですから」
「そんなものでいいのか?」
「いいんですよ」
「なんであれ、理化学研究所さまさまだよな」
「連山や電探を敵国が持っていたら、大事じゃ済みませんものね」
「それを言ったらネ式50キロ爆弾じゃないか?」
「そうでした。何もかも真っ白な炎で包み込んだ上に爆風できれいさっぱりですものね」
「それをこうやって運んでる俺たちから見ても、ちょっとやり過ぎじゃないかと思うほどだものな」
「下にはいたくありませんよね」
「どこにいても逃げられないからな。今日は40発積んでるから、大隊12機で480発、連隊36機で1440発だ。連山1機の最大120発積んだら連隊36機で、1440発の3倍。えーと」
「4320発です」
「とにかく、4000発も落とせば、そこらの40万、50万の都市ならそのまま消えてなくなるぞ」
「そうですよね。そうなると怖いですよね」
「だから、日本人でよかっただろ?」
「すごく、そう思います」
「そういえば、搭乗前に爆弾を積んでるところに通りかかったんですが、爆弾に『愛国』とか書いてあるのが何個かあったんですけど、あれはいったい何なんですか?」
「出撃説明の時に連隊長から説明があっただろ、お前寝てたのか?」
「寝てはいなかったような」
「まあいい。あれは、銃後の人たちが金を出し合って作ってくれた爆弾だ」
「ほう。それはありがたいですね」
「無駄にはできんから、きっちり敵の頭上に落してやらんとな」
「はい!」
……
機内時間午後5時、搭乗員たちは順番で夕食を済ませ、午後10時に夜食。
そして機内時間零時30分。連山各機は高度を9000メートルまで徐々に上げて爆撃進路に入っていき、第1大隊の隊長機でもある連隊長機の投弾に合わせて、各機が投弾した。地上から高射砲弾が散発的に打ち上げられているが、彼らの機位のはるか下で爆発している。
連隊長機が投弾を開始して45秒後。弾着が始まった。まだ地上に到達していない熱圧弾まで誘爆することで空間そのものが真っ白な炎に包まれ、その光がはるか高空を飛び去っていく連山のオレンジ色の機体と翼を十数秒間照らし出した。
第1重爆撃連隊はそのままバクー油田上空を航過し、ゆっくりと変針して東の空に消えていった。
バクー油田が壊滅したとの報告がクレムリンのスターリンに届いたのは爆撃から3時間後だった。
「3時間前、バクー油田が日本軍機が投下した例の爆弾による攻撃を受け、油井の8割が被害を受けました。そのうちの半数が炎上中とのことです。消防施設も爆撃被害を受けているため、油井の消火は今のところ絶望的との報告が届いております」青い顔をして連絡官が会議中だったスターリンに報告した。
「わたしにもよく分かるよう、もう一度言ってくれたまえ。それと3時間も前のことを今報告かね?」
報告官は震えながら、現地が混乱して連絡が入ったのは先ほどだったことを付け加えて先ほどの報告を復唱した。
「被害は分かった。可及的速やかに消火して復旧させるよう、わたしの名前で厳命してくれたまえ」
「はい!」
「それと、日本軍機に与えた損害はどうなっている?」
「そのような報告は届いておりません」
「ふー。よく調べて報告するよう、バクーに伝えてくれたまえ」
「りょ、了解です」
「そうそう。被害や、敵の新型爆弾について一切の公言を禁ずることも忘れず伝えてくれたまえ」
「了解です」
報告官は逃げるように会議室から退出した。
「ところで、諸君。日本に対して何かいい方策はないものかね? 今回も含めて今までいい報告を一度も聞いていないんだがね」
会議に出席していた共産党首脳部、軍関係者は一様に下を向いた。その中でただ一人、スターリンに向けて手を上げる者があった。内務人民委員部(NKVD)長官のゲンリフ・ヤゴーダである。
「同志スターリン」
「なにか建設的な意見があるかね、ヤコーダ同志」
「敵がいかに新型爆弾を使おうと、このような一方的な軍事的敗北は、歴史上ないのではないでしょうか?」
「何かね?」
「わたくしが申し上げたいのは、まともな軍なら、ここまで一方的な負け方はしない。つまり軍が負けるのは指揮官の指導が悪いからに他ならないのではないでしょうか?」
「ほう。確かにそれはあるのだろうな。共産主義国家の軍がブルジョワ国家の軍に負けるにはそれ相応の理由があってしかるべきであることは誰でも理解できることだからな」
「同志スターリン。軍、とりわけ将官の綱紀を引き締める方向で内務人民委員部は努めます」
「しっかりやってくれたまえ」
「了解です」
二人のやり取りを聞いていた、軍関係者は冷や汗を流しながらも黙って下を向いていた。
バクー油田を全力である36機で爆撃して炎上させた第1重爆撃連隊は、1日置いて2日後から1個重爆撃大隊12機での爆撃サイクルで、クズネツク炭田、マグニトゴルスクの製鉄所、 トラクター工場のあるチェリャビンスク、カラガンダ炭田などを爆撃していった。
2月中に行動半径内の戦略目標をあらかた破壊した第1重爆撃連隊は3月に入り、いよいよモスクワへの空爆を開始した。今回は、避難勧告など一切行っていない。爆撃方法は、飛行場から工場、そして、モスクワ郊外から螺旋を描くようにモスクワ中心部、クレムリンに向かって焼き払っていくというものである。高高度からの投弾のため、投下目標から爆弾がずれることはままあるが、面で焼いていく戦法であるため、日本側は高高度からの爆撃を見直すことはなかった。
モスクワでは日本軍機が飛来すると思われる東に向けて高射砲を並べていたが、高度9000メートルを悠々と飛ぶ連山に対して有効な打撃を加えることはできなかったし、ソ連が持ついかなる戦闘機も、9000メートルの上空を高速で飛ぶ連山を捕捉することはできなかった。そのうち、対空砲陣地もモスクワ近郊の飛行場群も熱圧爆弾の雨によって焼き払われて、対抗手段すら喪失してしまった。
暦は1936年2月26日を過ぎたが、史実と異なり、対ソ戦を遂行中であり、なおかつ農村部の貧窮もほとんど起こらず、さらに兵士たちの待遇が改善されたいま、陸軍兵士たちによる反乱事件は起こっていない。
3月7日(1936/3)。ドイツ、ラインラントに進駐。
3月21日(1936/3)。モスクワにて軍部によるクーデターが発生し、モスクワからいずれかへ脱出を企てていたスターリンはクーデター側に逮捕され、即日処刑された。クーデター側は世界に向けてスターリンの処刑を伝えた。
その他の共産党幹部、ヤコーダ以下の秘密警察職員、政治将校なども一斉に逮捕され、トハチェフスキー元帥を首班とする臨時政府が誕生した。そして、国名をソビエト社会主義連邦共和国からロシア連邦共和国とした。地方へもこの動きは波及していき、わずか三日後にはソ連共産党は消滅した。
スターリンの死とロシア連邦共和国の成立を確認した日本側はモスクワへの爆撃を停止し、ロシアに対して休戦案を提示し、ロシア政府の反応を待った。
1、ソ連はイルクーツク以東を放棄する。
2、バクー油田には日本の監視団が常駐し、ソ連は産油量の50パーセントをイルクーツクまで運搬し、日本側に引き渡す。なお、ソ連は早急にイルクーツク以西のシベリア鉄道を復旧する。
3月26日(1936/3)、ロシア連邦共和国は日本側の提示した休戦案を受け入れる旨回答した。
この報に接した日本国内では、ちょうちん行列が行われたのは言うまでもない。
休戦条件とは関係ないが、ソ連が放棄したイルクーツク以東は日本と満州国が共同統治する。
欧米諸国は日本国内とは裏腹に、有色人種の国が白人の大国を文字通り粉砕した報に接して、恐怖に近い感情を抱き始めていた。
ソビエト政権が消滅したことにより、世界各地に浸透していたコミンテルンの工作員たちは混乱し、そのまま地下に潜んでしまったようだが、本国の支援がない以上、近い将来消滅するだろう。
中国国内においても中国共産党の勢いは衰えて、やがて消滅することだろう。弱り目に祟り目状態となったところを叩いて息の根を止めるのが戦略の基本なので、国民党政府は積極的に攻勢に出るかもしれない。
日露間の休戦協定への調印は1936年4月20日。大型機が着陸可能なまで修復を終えたモスクワ空港で行われた。ロシア側の調印はトハチェフスキー元帥自らが行っている。日本側の全権は、所沢陸軍飛行場から連山に搭乗しイルクーツク経由でモスクワ空港に到着した陸軍参謀総長、閑院宮載仁元帥である。
5月(1936/5)、東シベリアを統治する日本政府と満州政府は、イルクーツクを「万人のための自由な交易・文化拠点」とすることを宣言。
これと並行してウラジオストクからイルクーツクまでのシベリア鉄道の本線、各支線の標準軌化が始まった。この作業には鉄道連隊だけでなくソ連軍捕虜も動員されている。この作業が完了すればイルクーツクの復興が本格的に始まることになる。「万人のための自由な交易・文化拠点」というのは、復興のために流入する資本に制限はないという意味だが、資材と労力は日満から購入することになる。
5月5日(1936/5)。イタリア軍が首都アディスアベバを占領
5月9日(1936/5)。ムッソリーニがエチオピアの併合と「イタリア領東アフリカ」の成立を宣言。イタリアは何を思ってエチオピアに手を出したのか、謎を通り越して一種の狂気ではないか? これからさき列強諸国から白い目で見られる=貿易コスト増なうえに、エチオピア経営で大赤字になることは目に見えてるだろうに。最低限の損得勘定がないと。
7月8日(1936/7)。空母飛龍起工。
7月17日から始まったスペイン内戦において、日本は双方に対して武器弾薬から食料、民生品まで積極的に有償貸与、すなわちレンドリースを始めた。いずれどちらかが負けるわけだが、日本政府はスペインという国家と取引しているという建前で、負けた側の負債はスペインという国家の負債として残ることになる。もちろん、スペイン側が支払いを拒否すれば取り立てることは難しくなるが、その時は日本との関係が著しく悪化することを覚悟しなければならない。付け加えると、支払い方法は現金でなくとも利権でも十分である。例えばイギリスが領有するジブラルタル周辺の土地とか。
8月1日から8月16日にかけてベルリンオリンピックが開催された。8月11日「前畑ガンバレ」の実況のもと、史実通り女子200メートル平泳ぎ決勝で、前畑秀子がドイツのゲネンゲルを接戦の末に破り、日本女性初の金メダルを獲得している。
注1:
兵科として飛行兵に分類されているため、正確には飛行兵曹長となる。岡田中尉も飛行兵中尉ということになる。
注2:イスラエル
もともと「イスラエル」は、旧約聖書に登場する預言者アブラハムの孫、ヤコブに与えられた別名。ヤコブが神の使い(あるいは神自身)と夜明けまで格闘し、それに勝利した(あるいは屈しなかった)際、神から「お前の名はこれからはヤコブではなく、イスラエル(神と戦って勝った者の意)と呼ばれる」と告げられた。そのヤコブ(イスラエル)には12人の息子がおり、彼らがイスラエル12部族の祖となったことに由来している。なお、アブラハムには7人ではなく8人の子がいたそうです。




