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技術立国日本  作者: 山口遊子


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第65話 昭和5年12月~昭和6年1月


 昭和5年の理研での年末年始は12月30日(火)から翌1月4日(日)までの6日間になる。わが社も同じく12月30日から翌1月4日までの6日間を休みとした。


 今年のクリスマスも25日に北浦和のサの付くファミレスで挙行した。ほどほどに飲み食いしたところで、日本酒を飲むため、例の和食の店に移動した。そこでおいしい魚を食べて、おいしいお酒を飲んですっかりいい気持ちになって各々のうちに帰っていった。

 そういえば、クリスマスプレゼントだが、お互い気を遣うのはよそうということで、何もしなかった。あれって本当に気を遣って精神的に疲れるんだ。


 忘年会は12月29日の仕事納めの夕方から。今日の料理はアンコウのフルコース。


「アンコウのフルコースって初めて!」

「わたしもです」

「もちろん俺もだ」


 場所は、大宮とした。最近、東京市には行っているが、東京都には行っていないような気がする。

 俺は長く埼玉県民をやっているが、堀口たちももう立派な埼玉県民だ。ウェーイ!


 最初に瓶ビールを頼んで、各自のグラスに注いだところで、皮の酢の物、そして煮凝りが出てきた。


「今年もご苦労さまでした!」「ご苦労さまでした!」「お疲れさまでした!」

「「カンパーイ!」」


 これは日本酒に合いそうだ。それも熱燗がいいんじゃないか? ビールをごくごくと飲み終えて、すぐに仲居さんを呼んで熱燗を2合注文した。もちろんぐい呑みは3つだ。


 やって来た2合徳利の首を摘んで、あっちっち、とか言いながら堀口と鶴井のぐい呑みに注いでやった。

 そのあと、堀口が勝ち誇ったような顔をしてハンドバックからハンカチを取り出してそれで徳利の首を持って俺のぐい呑みに注いでくれた。

 その顔なんだよ!?


 ぐい呑みを持ち上げて、半分くらい飲んだ。指で持った時はすごく熱かったんだが、飲んでみたらそれほどでもない。その代わり、胃の中から温まってきた。体の芯から温まるとはこういうのをいうんだろう。2杯目を飲んだころには額にうっすら汗をかくほどだ。

 なんであれ、目の前の料理にぴったりだった。


 そのあと、アンコウの刺身が出てきたところで地酒の冷酒に切り替えた。

 そのアンコウの刺身、見た目は軟らかそうな白身なんだが、食べてみたらやっぱり軟らかかった。こういうのもいいんじゃないか? 


 そしてあん肝ポン酢、あんこうの唐揚げと続き、お待ちかねのどぶ汁が用意された。

 どぶ汁が出来上がるまで、カラスミを注文して日本酒のアテにした。当たり前だがカラスミは塩辛かった。最近は低塩の物も出回っているようだが、ここのは自家製と言っていたから、こんなものなのだろう。


 どぶ汁で体がまたまた温まり、最後に鍋に白飯が投入された。鍋がいい具合にグツグツいいはじめたところで、仲居さんが現れて生卵を投入し、出来上がり。


 〆の雑炊ですっかり腹いっぱいになった。いい気分になって店を出て、タクシーに乗って帰ろうと大宮駅の近くまで歩いていったら、タクシー乗り場に人が並んでいたので、結局電車に乗って北浦和まで帰った。


「それじゃあ、良いお年を」「「良いお年を」」


 二人と別れた帰り道、空を見上げたら、晴れた夜空だったがいつも通り星は少なかった。




 翌日(2031/12/30)からの6連休。堀口と鶴井は正月の間、一泊二日と、二泊三日で帰省すると言っていた。今日はまだ二人とも北浦和にいるのだろう。


 朝から曇って寒かったが、いつもの正月連休初日のように、掃除、洗濯、クリーニングに日用品の補充。午後からは正月用の総菜とか食材、そして飲み物を買い込んだ。


 翌日の大晦日。珍しく、朝から雪が降っていた。ボタン雪ではなく本格的な雪で、もうかなり積もっていた。買い物を終えていてラッキーだった。


 1月5日に理研に持っていくものの用意も済んでいるので、正月休みの間は何もすることはないのだが、このところ、消耗品の補充ばかりだったので、何か役立ちそうなものがないか考えてみた。


 満州で石油を手に入れ、南を窺うことがなくなった、といっても、いずれ西に向かって拡大を続けるアメリカとは矛を交えることになるわけだから、1940年当時のアメリカの軍需工場の位置、そしてロスアラモスの位置を調べておいた。なんかの加減で『富岳』とか開発出来たら、アメリカへの反撃の一助になるだろう。

 さらに、1940当時のアメリカの地勢図が米地質調査所(USGS)のサイトで無料公開されていた。25万分の1の地図でアメリカ本土だけで489枚あるそうだ。とてもではないが人力でダウンロードはしたくない。50万分の1の地図でもアメリカ本土は7、80枚あるそうだ(注1)。

 50万分の1でも十分面倒なので、いろいろ探したところ『 The National Map Downloader』なるものがあり、何とかそれを利用して一括でダウンロードした。ダウンロードした地図は50万分の1の「陰影起伏図」。なおアラスカ州は100万分の1しかなかった。そういう扱いなんだろう。


 ダウンロードしたデータの大きさは10ギガバイトほどだった。それを64ギガバイトのUSBメモリ2個にコピーしておいた。結局、これらの作業で半日が潰れてしまった。


 昼食はカップそばで済ませて、午後からはweb小説を読んで時間を潰した。

 今読んでいるのは『岩永善次郎』という小説で、主人公が現代と異世界を行き来しつつ、奴隷として購入した子供たちを育てていくところまで読んだ。


 午後6時ごろには今年最後の風呂に入って、冷蔵庫に入れていた総菜物を取り出して、物によってはレンチンして、缶ビールを飲みながら夕食にした。


 その日は午後10時ごろまで『岩永善次郎』を読んでから、ベッドにもぐりこんだ。


 そして2032年が明けて、結構早く目覚めた。と言っても午前8時を過ぎていた。カーテンを開けて外を見たら、青空のいい天気だったが、道の脇などには昨日の雪がかなり積もっていた。大宮の氷川神社は今年もパスだな。


 朝の支度を終えて、あまり中身のない雑煮を用意して、朝食にした。お餅の数は4個。

 お餅だけはちゃんと4個食べた。朝食を終えて後片付けをして、昨年用意した国旗をベランダ側に飾ってから『岩永善次郎』を読んでたら昼になった。


 部屋を出て1階に下りていき、郵便受けから年賀状を取り出して、部屋に戻って誰から来た年賀状か確認して、年賀状をしまっておいた。堀口と鶴井からも年賀状が届いていたが、今年も俺の方からは出さなかった。そのうち来なくなるんだろうな。


 年賀状を見た後はだらだら過ごして、気が付けば日付は3日になっていた! ここ数年1月2日が俺にはやって来ていないような気がする。初夢だったのか、次の夢だったのか忘れたが、俺があの穴に入るために、対価として髪の毛を1本差し出している夢を見た。つるっぱげになった俺は最後の1本で向こうからこっちに戻ってきたら、穴が消えていた。はっきり言ってものすごく怖い夢だった。


 そんなことをこたつに入って思い出していたら、チャイムが鳴った。

『先輩、生きてますかー!』『社長ー!』

 堀口と鶴井がやって来たようだ。

 扉を開けて「来るんならメールくらい寄越してから来いよ」

「メールはしたけど、返事がないから、もしかしたら変死したかもってやって来たんじゃないですか!」

「それは済まないね。スマホ見るの忘れてた」

「寝正月だったんですね!?」

「いや、そうでもないはずなんだが、昨日の記憶は何もない。元日になったなー、と思ってたら今日だった」

「まあいいです。お節料理持ってきました」

「済まないね。とにかく入ってくれ」


 二人を招き入れた。二人は勝手知ったる自分の家のごとく、荷物をテーブルの上に置いて、食器棚から皿を取り出して、それに持ってきたパックの中身を移していった。


 俺は見ていても仕方ないので、冷蔵庫から缶ビールを取り出してコタツの上に並べてからおとなしく座っておいた。


 コタツの上にお節料理が並べられていき、ビールのタブを開けて「「カンパーイ!」」

「明けましておめでとう」「「明けましておめでとうございます」」


 割りばしを使って取り皿に黒豆をのっけてく。

 黒豆って年の数だけ食べるんだぜ。って危うくどや顔でいうところだった。沈黙は金とはよく言ったもので、雄弁は銀どころか、有機水銀だ。


「それで、結局先輩は正月の間何してたんですか?」

「えーと、将来的に役立つかもしれないと思って、アメリカの50万分の1の「陰影起伏図」というのを見つけたのでそれをダウンロードして、USBメモリーにコピーを作っておいた」

「陰影起伏図って何なんですか?」

「要するに地形が陰影をつけて見られる地図ってことで、見た感じ石膏レリーフだ。将来、アメリカに対して爆撃するようなことがあったら役立つと思ったんだ」

「本当にアメリカを爆撃するんですか?」

「状況によったら、爆撃はするだろう? アメリカだって無差別爆撃やったんだから、日本がやっちゃいけないって道理はないだろ? そもそも戦争ってそういうもんじゃないか?」

「確かに、原爆で大量殺りくしても、勝ってしまえばおとがめなしどころか勲章ものですものね」

「そういうことだよ。負ければお終いともいうけどな。それであとはweb小説読んでたはずだ」

「はずだ。って?」

「読んでいたことは事実なんだが、それ以外に何をしたか記憶がない」

「それって、それしかしてなかったってことじゃないですか?」

「そう言われれば?」

「もういいです」


「なんであれ、お節料理おいしいな」

「そう言えば、日本酒は置いてないんですか?」

「あるはずだから、冷蔵庫の中を見てくれ」


 堀口が立ち上がって冷蔵庫まで行って、

「ありました! 相変わらずいいお酒飲んでますね」

「そこらで市販してる酒でいい酒となると、それくらいしかないから」

 堀口が一升瓶を先にコタツの上に置いてから、ぐい呑みを3つ食器棚から見つけて持ってきた。

 一升瓶の栓を抜いて堀口と鶴井のぐい呑みに注いでやって自分のぐい呑みにも注いで口をつけた。

「そもそもお節料理というのは、酒の肴だな」

「そういう人も多いんでしょうが、昔の女性は正月くらい楽をしたいから、あらかじめ日持ちのするものを作ったんじゃないですか?」

「そうなんだろうけどな」


「社長、さっきの話なんですけど」

「さっきってどれだっけ?」

「アメリカを爆撃する話です」

「あれな」

「はい。このまま技術がどんどん進んでいったら、本当にそこまで行っちゃうんじゃないですか?」

「爆撃するかしないかは分からないが、爆撃能力を持つことは十分考えられる」

「本当に爆撃してしまって、大丈夫でしょうか?」

「軍事目標に対する爆撃は問題ない。民間人を故意に狙った場合は『負けたら』アウト、『勝ったら』セーフ。これが現実だ」

「ということは軍事目標だけ攻撃すれば勝っても負けても問題なし?」

「そうなるな」

「ちょっと安心しました」

「そもそも、第2次世界大戦でも、科学者技術者が戦争に関与して戦後処罰された者はいないんじゃないか? 俺が知ってるのは、フォン・ブラウンといってドイツのロケット技術者がいたんだが、彼はそのことではなく、ユダヤ人などを強制労働させたからといって、あとから糾弾された」

「それで、死刑になったんですか?」

「いや、優秀だったから戦後すぐにアメリカに連れていかれて、人類を月に送るアポロ計画の責任者にまで登りつめた。糾弾されたのはアメリカで有名になった後のことで、戦争直後は糾弾どころか引っ張りだこだったんだよ。結局、後からの批判なんてのは、彼の出世に対する誰かの嫉妬だったんじゃないか?」

「つまり、おとがめなし?」

「なんであれ、科学技術は貴重。罪を糾弾しても誰も得しない。そういうことなんだよ」

 まして俺たちは、あの世界の時間を進めただけのいわば傍観者だ。そういう意味では科学技術者じゃないから、立場的にちょっと弱いかも? ここでそんなこと言っても仕方ないから言わないけど。



 正月三が日が明けた4日。忘れずに飾っていた国旗をきれいに畳んで片付けておいた。



注1:

枚数の計算が合わないのは、25万分の1の地図は 縦60センチメートル × 横80センチメートルほどですが、50万分の1の地図の場合、紙の大きさも一定ではなく、縦120センチメートル × 横150センチメートルの物もあったようで、紙面が物理的に広くなっているから枚数が少なくなっています。



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