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魔王の異世界戦記~その最強の実力は願った平和を求めるために~  作者: D-delta


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▽第33話 夕焼けの攻勢準備

 青空を照らしていた太陽が空を夕焼けに染め始める時刻。

 第二防衛線、ルデンバ村。


「ポクニ様! ようこそ、ルデンバ村へ」

「出迎えご苦労。マレイア辺境伯は?」

「屋敷にて第二防衛線の指揮をしておられます」

「分かった」


 魔法教団の転移陣を使った大規模な移動。

 魔法教団の当主たるポクニ公爵を筆頭に、ユウたちはルデンバ村に続々と転移していく。


「お? おぉ、こんなに……」


 ユウたちを含めた千人規模の転移。平時ではまずあり得ない数の転移に、教団の魔法使いは驚く。

 そんな戦時であることを示す光景の中、ユウはある疑問を抱く。


「ポクニ公爵」

「ん? どうした?」

「この村にも転移陣があるなら、TSb駆除時に使わせなかったのはなぜですか?」


 その疑問はトレイルとマカルタと三人の冒険者の救出、そしてTSb駆除の時のこと。

 なぜルデンバ村へ直行出来る転移陣があるのに、わざわざ馬車での移動になったのか?


「あの触手の一件か」

「はい」

「あの時の貴様はまだ部外者という認識だったから……」

「なるほど。それが理由ですか」

「いや、本当のところは久しぶりの外敵の侵攻にそこまで頭が回らなかった。長いこと身の回りが平和だった弊害(へいがい)が出た訳だ」


 ポクニ公爵が答えるのはいわゆる平和ボケ。

 貴族同士の内戦の雰囲気を関係ないことだと横目で見つつ、平和に浸り過ぎていて転移陣での移動の提案が出てこなかった。


「もちろん今は貴様を信用している。貴様だけが希望なのだと、ブレイズに分からされたからな」


 そして今は違う。ブレイズとのたった一戦で戦争の現実をその身に叩き込まれ、平和のへの字も消し飛んだ。

 それはポクニ公爵以外も同じ。

 苗床にされていたトレイルとマカルタ、実際に戦闘を目にしたリシタ伯爵、これから攻勢を共にするロリカ、ユウに付き添うルーシー、敵を知るユウ、全員が戦争という状況に目を向けている。


「ともかく、今は攻勢に向けて急ごう」

「はい。時間を掛ければ敵は無尽蔵に増え続けますからね」


 ユウたちは急ぐ。

 戦争の早期終結、攻勢を優位に進めるために。


  ※


 魔法教団の施設からぞろぞろと大規模な移動をして、ビス家の屋敷に到着。

 屋敷の周りには多数のテントが設営されており、武装した村人、冒険者、傭兵が行き交う。

 ビス家の屋敷は第二防衛線の指揮所と化していた。


「ここからは我ら姉妹に任せてくれ」

「アタクシたちが一足先に話をしてきますわ、ユウ様」

「分かった」


 トレイルとマカルタは走り、指揮所と化した屋敷に一足先に向かった。


「あ、トレイル様!」

「マカルタ様まで! おかえりですか?」


 冒険者や傭兵、ルデンバ村の村人たちが二人の存在に気付くと、ぞろぞろと集まってくる。


「いや、これから攻勢に入るんだ。それでお母様に用があってね」

「お母様が今どこにいるか知っている人はいらして?」


 周りが集まってきたところで二人は自分の母親──マレイア辺境伯の居場所を尋ねた。


「マレイア様なら屋敷の中にいらっしゃいますよ」

「うん、ありがとう。早速会ってくる」


 マレイア辺境伯は屋敷の中にいる。

 二人は振り向き、ユウたちに手招きして屋敷へと誘う。


「どうやら話はついたみたいだな。代表者は全員同行、他は待機で」


 特別攻勢騎士団に待機命令。

 ユウたちはトレイルとマカルタのところへと向かう。


「トレイル、マカルタ、どうだ?」

「屋敷にお母様がいる」

「入って、戦力の供与をしますわよ」

「分かった」


 そのままユウたちは屋敷に入った。

 屋敷内はみんな忙しく働いている。書類を運ぶ者がいれば、保管庫である屋敷の地下から装備を持ち運んでいる者もいた。


「こっちだ」


 トレイルとマカルタの案内で、ユウたちは人が忙しく動く中を進んでいく。

 階段を上がり、村人や冒険者とすれ違う先にあるのがマレイア辺境伯の私室。今は何人も忙しく人が出入りしている。


「お母様」


 そのまま人とすれ違いながら私室に入れば、トレイルは自分の母親を呼んだ。


「あら、トレイル。それにマカルタと他の方も……」


 マレイア辺境伯はトレイルの呼び声に反応し、ユウたちに気付く。


「マレイア辺境伯?」

「こほん、分かっていますわ」

「ご認可のお返事を聞きたい」


 しかし他の対応で忙しい様子。自分の娘二人とユウたちに気付きながらも、大柄な体躯に髭を生やした風格のある傭兵との話を続けた。


「丁度良くワタクシの娘と勇者一行が来ましたし、あなた方傭兵団の攻勢への同行を認可します」

「ありがたい。これで我々傭兵団も本懐(ほんかい)を果たせるというもの」


 攻勢への同行の認可。

 それが意味するところは、これから供与される戦力が今まさに決まったということ。


「トレイル、マカルタ、久しぶりだ。随分美人さんになったものだな」

「ゴッドム!」

「あら、おじ様!」


 そしてトレイルとマカルタは傭兵と顔見知りだった。


「知り合いか?」

「あぁ、この方はゴッドム・レムナンテ。我々がまだ少女だった頃に戦闘技能を教えてくれた師匠、教官みたいな人だ」


 ユウとトレイルの問答と紹介の後ろで、傭兵──ゴッドムはうんうんとうなずく。

 トレイルの言葉に誇張はない。トレイルとマカルタの師で、見た目に違わない相当な古強者だった。

 そんな古強者たるゴッドムが自己アピールしたさにユウたちの前に来る。


「我輩は傭兵団『レッドセイバー』の団長をやっている。これから攻勢に動き出すと聞いて血が騒いでな。我が弟子たちの面倒もあるし、よろしく頼むよ」

「はい、こちらこそ」


 ユウはゴッドムと握手。

 互いの戦い慣れした目が互いを見る。


「イサム・ユウだったか、噂の新しい勇者を拝見出来て嬉しいが……」

「どうしましたか?」

「いやなに、そっちにいる噂のお嬢ちゃん魔王とは真逆に見えてね」

「え、アタシのこと言ってる?」


 ゴッドムの目はユウとルーシーを見比べて、そこからユウの目の奥底を見つめる。

 お嬢ちゃん魔王と称されたルーシーは突然の名指しに首を傾げるが、ユウはなんとなく自身の素性を見抜かれていることに気付く。


「お嬢ちゃん魔王は勇者で間違いない。だけどイサム・ユウ……お前は魔王か、それ以上のなにかに見える」

「ゴッドム、なにを言ってるんだ? ユウ殿は我々を救った恩人なんだぞ?」

「そうですわよ、おじ様。そんなユウ様が魔王なんて」


 そして実際に見抜かれていた。ユウが魔王と呼ばれていたほどの強者ということに。

 トレイルとマカルタは冗談と受け取って軽く否定するが、ユウは沈黙する。


「お前の目は我輩よりも殺している、殺し過ぎている、怖いほどに」

「…………」

「だが、今は喜んで受け入れよう。敵と見なしたもの全てを絶滅させるまで止まらない魔剣のような人物だとしても、このまま味方でいてくれると助かる」


 それだけ言うと、ゴッドムは下がった。

 古強者に〝怖い〟という言葉を使わせた、ユウの存在。その場に妙な緊張感が漂う。


「……ゴッドム・レムナンテ氏、一つ聞いても?」

「なんだ、イサム・ユウ?」

「あなたが率いる傭兵団『レッドセイバー』の総兵力は?」

「ざっと五百人。細かい数字は数えちゃいない」

「精鋭で?」

「弱い奴でも付いてくるなら強い奴にする、それが我が傭兵団のモットー。全員根性のある精鋭さ」


 妙な緊張感の中、ユウはゴッドムが率いる戦力を確認。

 傭兵団『レッドセイバー』はいわゆる少数精鋭の集団。しかし質の高さが一流でも、それだけで戦争は出来ない。


「マレイア辺境伯、攻勢に同行する戦力は『レッドセイバー』のみですか?」

「ふふ、もっと欲しいんですの?」

「国外を飛び出し、状況によってはリーロ・ラルレ大陸を横断する長旅になりますからね」


 一度の戦いに出向く訳じゃない。

 これから何度も攻撃と反撃を繰り返し、奪取した地点と現地住民の安全を確保し続け、攻勢を続けるための補給線を維持しながら敵の本拠点を叩きに行く。

 だから質だけでなく数も揃えないといけない。


「お母様」

「アタクシたち姉妹からもお願いしますわ」

「どうか、更なる戦力の供与を!」


 ユウに続いてトレイルとマカルタも言う。

 二人も戦争をよく分かっていた。


「攻勢の成功はルセーレ王国、ひいてはリーロ・ラルレ大陸を守るも同じ。供与するわ、戦力をもっとたくさんね」


 もちろんマレイア辺境伯も戦争をよく分かっている。

 出し渋ることなく、戦力の供与を決定した。


「マレイア辺境伯、具体的な数を言いたまえ?」

「供与出来る最大数はざっと二万人。ですが、兵站の負担を考えて五千人ほどを許容範囲としますわ」


 ポクニ公爵の問いにマレイア辺境伯は具体的な戦力数を出す。


「無闇に数を増やして飢え死にはさせられないものな」

「そういうことですわ、ポクニ公爵」


 人がたくさん増えるほど、食料や装備など物資もたくさん揃える必要がある。もしも物資が不足すれば、不足分の犠牲が餓死などの形で現れる。

 人数は多い方ほど戦いで有利だが、とにかく増やせば良いという訳でもない。


「勇者イサム。どうします?」

「では、その数でよろしくお願いします」

「分かりましたわ」


 傭兵団『レッドセイバー』に続いて、供与される戦力数が決まる。

 これから供与される予定のアルセイダ家の戦力も含めれば、合計で約一万人。攻勢に必要とされる最低限の人数に届いた。


「ポクニ公爵、戦力を集めるのに転移陣を借りてもよろしいかしら?」

「それならワシが手伝おう。こちらも各所から戦力を集める予定だったからな」

「話が早いですわね。早速行きましょう、ポクニ公爵」

「分かった」


 マレイア辺境伯はポクニ公爵と共に供与する戦力を集めに動き始める。

 状況は守勢一辺倒から攻勢へと着実に進む。


「イサム、ワシは一旦離れる。大丈夫か?」

「大丈夫です。先にルキセディアへ転移するので、後で合流してください」

「うむ」


 そう話しながらマレイア辺境伯と共に屋敷を出る。

 そこから魔法教団の施設にて一度分散。

 マレイア辺境伯とポクニ公爵は第二防衛線の別の場所へ、特別攻勢騎士団を連れたユウたちはルキセディアへ向かう。

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