▽第34話 夕日が沈み行く長い準備
第一防衛線、第一城壁都市ルキセディアにて。
ユウたちは転移陣で移動。ルキセディア内の魔法教団施設に転移していた。
「これは勇者殿、またいらっしゃいましたか」
「攻勢の準備に入る。これからたくさん転移してくるから道を開けてくれ」
「え? おっ!?」
ユウたちに続いて、ぞろぞろと騎士たちが転移。
十人、二十人と転移してきて、転移陣が人で溢れかえる前に魔法使いたちは慌てて道を開けた。
「リシタ伯爵」
「はい、イサム様」
「攻勢の準備が整うまで、集まってきた人員が休める待機所を設定したい。アルセイダ家で待機所の用意は可能か?」
これからルキセディアに戦力が集う。一万人ともなれば合流までには時間が掛かる。それを想定して兵たちに休息の場ともなる待機所が必要だった。
「可能だと思います。後はお母様に聞いてみてから、ですかね」
「了解した。まずはアルセイダ城塞に向かおう」
リシタ伯爵の回答は自分の母親──アベイラ公爵の答え次第ということ。
なにはともあれアベイラ公爵と話すことから始まる。
ユウたちはアルセイダ城塞へ向かった。
※
アルセイダ城塞、執務室にて。
「なるほど」
戦力供与の確認と待機所の設定の可否。
アベイラ公爵は息子であるリシタ伯爵の口から直接内容を聞き、考える。
「そうね、必要だわ。集まったのに現地で野放しはみんな困るわよね」
「はい。攻勢は重要事項とはいえ、街の治安と管理を乱す訳にはいきません。そこでアベイラ公爵もといアルセイダ家に待機所を用意してもらえると助かります」
ユウは続けて言う。
これから多数の場所からルキセディアに一万人以上の戦力が集まる。
同じルセーレ王国国民でもルキセディアのルール、勝手を知らない者もいるだろう。集めるからにはまとめる必要があった。
「じゃあせっかくだし、待機所をこのアルセイダ城塞と城塞周辺に設定するわ」
「よろしいのですか?」
「だって、この城塞にアルセイダ家から供与する戦力を集めているもの」
「ここを待機所に設定しておけば、用意した戦力をわざわざ移動させずに済むということですか」
「それにこの城塞にはアルセイダ家当主の私がいる。なにかあった時に統率も出来るから都合がいいのよ」
「分かりました」
こうして待機所は決まった。
アルセイダ家当主のアベイラ公爵がいるおかげで、治安も維持出来るだろう。
「次は戦力についてですが……」
ユウは話を続ける。
「先ほど言ったけど、こちらが用意した戦力はこの城塞に集めているわ。見る?」
「よろしければ拝見したいです」
「いいわよ。来なさい」
アベイラ公爵は立ち上がり、集めた戦力が待機している場所へ案内を始めた。
向かう先は城塞外に設営されたテント群。一回目に訪れた時にはなかったが、今は城塞のすぐ横に大小様々なテントがいくつも並んでいた。
「この人員がアルセイダ家の?」
「そうよ。みんな、一人一人素敵でしょう?」
アルセイダ家から供与される戦力、そこにいる人員はこれまた色とりどりの服装をそれぞれ着ていた。
「すごーい」
「なんですか、これは……」
ルーシーとロリカは思わず口に出す。
服装から防具のみならず、武器すらもそれぞれ違う。
騎士も専属の傭兵も、男も女も、全てがアルセイダ家の好みに染められていて軍組織としての統一感はない。
これがルーシーにはオシャレに見える一方で、ロリカには戦争を知らない素人集団にしか見えなかった。
「見たところ、防御に不安がある格好ばかりのようですが?」
「大丈夫よ。ビス家のスキンプロテクトがあるもの」
供与された戦力の人員は防御よりも見た目を重視されている。
そのため防御力の低さはマレイア辺境伯が作った魔法──スキンプロテクトで補われていた。
「さすがはお母様の魔法」
「ここでも使われていて嬉しいですわ!」
ビス家の魔法が他の貴族にも使われている。
スキンプロテクトの普及に尽力してきたのもあり、トレイルとマカルタは喜んだ。
「万全ですね、アベイラ公爵」
「まだまだよ。今ここにいるのはまだ半分……明日の早朝には倍の数になっているはずだわ」
そして全てが集まるにはまだ時間が掛かる。
「では、待機所のことはよろしくお願い出来ますか?」
「なにか他に用事でも?」
「はい。俺の力を各戦力の代表、あなたの息子であるリシタ伯爵にも分け与えるので」
「勇者の力……分かったわ、終わるまで待機所のことは任せてちょうだい」
「ありがとうございます」
ブレイズを打ち倒した力。
それはアベイラ公爵も耳にしており、ユウがマナを分け与えるまではルキセディアに集まる戦力と待機所の管理を受け持つことにした。
「さて、ユウ殿の力だが……」
「受け取りにはどこかアタクシたちだけになれるプライベート空間が必要ですわね」
トレイルとマカルタは言う。
ユウの体液を摂取する都合上、部外者に見せられない光景が出来上がるのは必然だった。
「確かに必要だな」
「それなら僕のお部屋とかどうです? 儀式をやれるくらいには広いですよ?」
「リシタ伯爵の……本当にいいのか?」
「もちろんです!」
「そうした方がいいですわよ、ユウ様! せっかく提案されているのですから!」
リシタ伯爵は体液摂取のことを知らずして提案。
ユウは少し気が引けるが、詳細を知っているマカルタは提案に乗った。
「じゃあ早速行きましょう! 案内しますよ!」
力を受け取れる、そうウキウキしてリシタ伯爵は自身の私室へと案内を始めた。
ユウたちは沈んでいく夕日に照らされながら、リシタ伯爵の私室という閉じられたプライベートな空間に向かった。




