▽第30話 マナと思考型魔法
秘匿は破られた。
ユウは全てを語る。マナのこと、思考型魔法のこと、マナを制御することで得られる力の全てのことを。
「なるほど、強い訳だ。ワシらと根本的に違うんだからな」
この世界の誰もが心臓に宿す生命エネルギーの魔力に対して、マナは適合者のみが体内生成可能な生体物質。
魔力は魔法のみで使用するが、マナは魔法の使用以外に生体物質として身体機能の向上が行える。つまりマジックキャンセルに対抗手段がある。
「しかしマナの制御に、思考型魔法か……」
そんなマナを消費して放つ、ユウの世界の魔法──思考型魔法。
この世界の住人からすれば詠唱の過程がない強力な魔法に見えるが、ユウの世界では詠唱型魔法と並ぶ一般的な魔法。それどころかマナの適合者なら誰でも訓練して使う初歩的な魔法の種類である。
「記憶、想像、思考で魔法を制御となると、なんだか頭をかなり使いますわね。戦闘中は詠唱したら発動の方が楽に感じますわ」
「実際その通りではある。思考型魔法の使用には頭を使う。判断の遅れや判断の間違いを招くのはもちろんのこと、精神状態によってはまともに扱えないという欠点がある」
マカルタの指摘にユウが答える。
「さすがにメリットばかりではないか」
「デメリット皆無の完璧なものは中々ないものだ、トレイル。だが、俺のように慣らせば思考型魔法のデメリットはある程度無視出来る」
「慣らせば、ね。これから攻勢に出るのだろう?」
「あぁ」
「慣らすための訓練の暇はなさそうだな」
「そうなる。後は攻勢の中で慣らす他ない」
早く攻勢に出なくてはブレイズ側の戦力が整う。訓練で慣らしている時間はなかった。
「イサムの力の仕組みは大体分かった。そろそろ力を受け取る者の選出をするか」
「はい、ポクニ公爵」
マナ、マナ制御、思考型魔法、それぞれをこの場の全員が把握。
次は誰がユウの力を受け取るかの議論に移行する。
「ワシは自分自身が力を受け取る者に適任だと思っている。どうだ、イサムの意見は?」
「俺はそれぞれの指揮官及び代表者に分ければと思っています」
ポクニ公爵に意見を求められて、ユウは意見を言う。
「つまり?」
「魔法教団であればポクニ公爵が、ビス家の戦力であればトレイルとマカルタが……という感じで、攻勢に同行する戦力の指揮官及び代表者の人間にマナを与えれば、マナの保有者を少数で抑えながら兵士や騎士の士気も高まるかと思います」
続けて意見の詳細を語る。
それぞれ供与された戦力の代表的な立場の人間がマナを受け取れば、その代表者に付き従う者たちにとって特別な存在になる。
これならば力の無秩序な拡大の抑止以外にも少数運用に意味が出る。
「それで行こう、ユウ殿!」
「アタクシもその意見で良いと思いますわ」
「うむ、ワシもイサムの意見に賛成だ」
その場の全員から反対意見は出ない。むしろ好意的で、ユウの意見に賛成だった。
ルゼン王も首を縦に振って賛成の意思を示した。
「では、指揮官及び代表者が受け取るということにします」
「決まりだな」
これで誰が力を受け取るかの方針が決まる。
議論はそこで終わった。残りは力の受け取りとなるが──
「イサム。早速だが、同行する魔法教団の代表者としてマナを受け取りたい」
「マナを受け取るには俺の体液、もしくは血液を体内に取り入れる必要があります。どうしますか?」
「へっ……?」
体液か、血か、力を手に入れるための二つの選択肢。
それら選択肢を提示され、ポクニ公爵は眉間にしわを寄せて険しい顔をした。
「それはあれか? 飲めるように加工された液体を小瓶で飲む的なやつか?」
「いえ、下手な加工はマナを崩壊させます。なので直接──」
「待て待て待てっ! 本気で言っているのか!?」
「残念ですが、俺はそこまで医学や医療に精通していないので……」
「マジかぁ」
マナを受け取るには、ユウの体液か血液を生で取り入れるしかない。
これにポクニ公爵のみならず、トレイルとマカルタ、ルゼン王すらも「本気か?」と言わんばかりの反応を見せる。
「ユウ殿、体液だった場合は、その……」
「舌を絡ませてキスしたり、ユウ様の精液を体に取り入れたらいいんですの?」
「マ、マカルタ! ハッキリ聞き過ぎ……!」
恥ずかしくしているトレイルの質問とハッキリしたマカルタの確認。
ユウは「そうだ」とシンプルに答える。
「それで……体液が嫌だったら、血を入れろということか」
「はい、ポクニ公爵」
体液か、血液か、ポクニ公爵は苦い顔をする。
「血か……」
「ポクニ公爵、他者の血を取り入れるのはやめた方が良い」
「もちろん、分かっているとも」
輸血はダメ、というルゼン王の忠告。
ユウは「輸血は禁止されているのですか?」と問う。
「実は重傷者の早期完治を願って、重傷者に若者の血を与える行為が流行したことがあってだな。輸血によって発狂後に死んだ前例がいくつもあるのだ」
「だから輸血は危険行為として禁止されている」
ルゼン王とポクニ公爵は輸血が禁止されている理由を語る。
「となると体液の摂取ですね」
輸血による多数の死亡事例。
ユウは医学、医療にそれほど精通していない。輸血の問題は解決しようがなかった。
必然的に輸血の選択肢は消える。残る選択肢は体液を体内に入れるのみとなった。
「むぅ……輸血がダメとはいえ、キスか性行為か……」
「わ、我は性行為で頼む!」
「アタクシも性行為で、トレイルお姉様と一緒にお願いしますわ♡」
ポクニ公爵が悩んでいる後ろで、トレイルとマカルタは性行為を即決。
「ワシはキスで……」
「ポクニ様ってば九十歳ですわよね? セックスしないんですの?」
「ええい! 性行為というのは付き合って、愛を育んでからするものだ!」
「それでポクニ様は九十年も子供を作らず、女性器を持て余してるんですのね」
「キィー! この色ボケがぁ!」
悩むポクニ公爵に怒りのスイッチを入れさせる、マカルタの煽り。
トレイルが「それ以上はやめなさい」とマカルタを注意する横で、ルゼン王は呆れて溜め息をつく。
「……こほん、ともかく同行する戦力の指揮官及び代表者を決めよう」
「はい」
「まずワシがダブレメラズ魔法教団の指揮者であると同時に代表ということは明確にしておこう」
気を取り直してポクニ公爵は言う。
「ではビス家から供与する戦力の指揮官、代表者は我々姉妹だな」
次にトレイルが言う。
これで代表者は三人になった。
残りはアルセイダ家と王都騎士団から供与される戦力の代表者。
マナの受け取りに向けて、話は順調に進んでいく。




