▽第29話 破られる力の秘匿
王城、城内の庭園にて。
「お味はどうかね? ビス家の姉妹よ」
庭園での食事。
トレイルとマカルタ、ルゼン王はお茶会という名の食事を楽しんでいた。
「とても美味しいです。特に肉、普段食べる肉とは違って味わい深い!」
「アタクシも同じ感想です。お上品な味わいがグッドですわ」
「それは良かった。まだ君たちの好きな肉はある、どんどん食べると良い」
テーブルに並べられた皿の上には肉、肉、肉、野菜、トウモロコシ。それぞれの手元には上品な香りを漂わせる自慢の紅茶が置かれている。
今しがたハーブで上品に味付けされたローストチキンが皿からなくなり、メイドが皿を一つ片付けていく。
「こっち、美味しいですわ……! お姉様も!」
「おおっ? ん、本当だ!」
次の皿に手を付けるトレイルとマカルタ。
ルゼン王はそんな二人を孫のように見守っていた。
そこへユウとポクニ公爵がやって来る。庭園へと入って、食事中の三人に近付く。
「ルゼン王」
「おお、ポクニ公爵か。勇者イサムまでいるということは、君たちも食事に来たのかね?」
「いや、急を要する話があって来た」
ポクニ公爵が話を持ち掛ける。
するとルゼン王はどんな話かを察する。食事の手を止めて、真剣な面持ちでポクニ公爵とユウを見る。
「もう嗅ぎ付けたか……いや、実際に力を見て、こうして来たのかな?」
「そうだと言わせてもらいたい」
「ポクニ公爵、勇者イサムが持っているものは──」
「もうその時ではない! 秘匿を破らないと敵に支配される局面まで来ているんだ、ルゼン王!」
ポクニ公爵は語気を強める。
食事の楽しい雰囲気を一気に壊して、真剣な説得に持ち込む。
「秘匿?」
「ひょっとしたらユウ様の力の秘密では?」
「それか」
トレイルとマカルタは秘匿されているもの──ユウの力であるマナと思考型魔法を知らない。
二人は食事の手を止めて、推察しながら様子を見守る。
「しかしポクニ公爵、今は──」
「急を要する話だと言った! 食事しながらでも良い、秘匿を破ることについて話をさせてほしい」
食事の最中だろうと、ポクニ公爵は意思を曲げない。
実際、余裕のある状況ではない。それでもポクニ公爵一人の意見で秘匿を破る訳にいかない。
だからルゼン王は「勇者イサムの意見は?」と最終確認のつもりで力を持つ当人に問う。
「相手は極めて強力です。数を揃えられる生体兵器に、魔法を無力化する兵器、そして高い実力があります。俺が持つ力でなければ対抗することは極めて困難でしょう」
ユウの答えは状況の説明を添えた、秘匿を破ることへの肯定。
秘匿を破るという意見はユウとポクニ公爵で一致している。
これを踏まえて、ルゼン王は「そうか」と理解を示した。
「必要なのだな?」
「はい。今すぐにでも」
「分かった。それなら秘匿を破ろう」
ルゼン王は事態の深刻さを把握。秘匿を破る決意を出した。
「ただし条件を付けたい。こちらの都合で他人に制約を課すのは身勝手だと思うが……」
「その条件とは?」
「力の無秩序な拡大を防ぐため、選ばれた少数の人物だけに運用を限ること。この条件を徹底してほしい」
「分かりました」
秘匿を破る代わりに、ルゼン王は条件を告げる。
マナと思考型魔法を導入した後の懸念があるユウとしては悪くない条件。だからルゼン王が示した条件に従うことにした。
それに対してポクニ公爵は難しい顔をしていた。
「少人数に限るようなやり方で勝てるのか?」
「ポクニ公爵、あっちも勝ち方を選んでいます。被害を抑えつつ勝てますよ」
「そうではあるが、最初から全員に使わせた方がシンプルで分かりやすいだろう?」
ポクニ公爵は言う。戦争に勝つためだけに焦点を絞れば真っ当な意見だが、ルゼン王の言う〝力の無秩序な拡大〟が視野に入ってない。
「力の無秩序な拡大を防ぐ、とルゼン王が言ったように国内のパワーコントロールもあります。俺と同じ力を利用して政権転覆を狙う連中が出てくるのは、ポクニ公爵とて望まないでしょう?」
「それは、そうだな」
ユウに説明されて、ようやくポクニ公爵は〝力の無秩序な拡大〟の影響に気付く。
次期政権を狙っているマレイア辺境伯、同時にマレイア辺境伯が言っていた権力争いの火種もある様子でいて、内戦の要因になるものは多岐に渡る。
そこに〝力の無秩序な拡大〟が加われば内戦に発展する可能性は高い。
「分かってくれたか?」
「……分かった、ルゼン王。ワシも条件に従う」
「うむ、嬉しい限りだ」
ポクニ公爵は条件の背景を理解して、少人数だけに運用を限る条件に従うことにした。
「これで秘匿は破られた。君のマナと思考で放つ魔法のこと……この場の全員に詳細を話すことを許可する、勇者イサム」
「ありがとうございます」
これでユウの力を得る準備が整った。
こうして庭園での楽しい食事は、マナと思考型魔法を得る話へ変わっていく。




