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魔王の異世界戦記~その最強の実力は願った平和を求めるために~  作者: D-delta


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▽第25話 希望

 時間は少し進む。

 ポクニ公爵がブレイズに敗れたところより少し先の時間。

 場所は変わり、第一城壁都市ルキセディア、ダブレメラズ魔法教団の施設にて。


「着きました! 第一城壁都市ルキセディアです!」

「イサム様に、皆さん! ポクニ様が敵にやられて──」


 転移陣の上に現れる、ユウたち一行。

 着いて早々にリシタ伯爵が飛び付いてくる。


「リシタ伯爵、状況は?」

「は、はい! ワイバーンは倒したのですが、ブレイズという全身鎧みたいな敵がポクニ様たちの魔法を全部消してしまい、そのまま全滅して……」


 リシタ伯爵の口から出る、ブレイズの名。

 敵はブレイズで間違いなかった。


「やはりブレイズか。魔法を捨てているとはな」


 そしてマジックキャンセル。

 対象の魔法を分析、その魔法の性質に合わせてキャンセル波を繰り出す装置。

 これを使うということは魔法を使わないことが前提になる。相手の魔法によっては自らの魔法もキャンセルすることになるのだから。


「ねぇ……ブレイズって、ユウ君のお友達じゃないの?」

「そうだ」


 侵略者と友人関係という事実。

 ルーシーの確認に、ユウが肯定すれば周りは驚く。


「じゃ、じゃあ敵が〝イサム様と友達〟と言っていたのは事実なのですか?」

「事実だ」


 リシタ伯爵が向けてくる不安の目。


「だとしたらユウ殿、友を殺せるのか?」

「元の世界で大勢殺した経験がある。大丈夫だ」


 トレイルが向けてくる心配の目。


「じゃあユウ様……アタクシたちの平和のために戦うと、信じてよろしいのですね?」

「ブレイズが侵略に執着するようなら、意地でも平和を勝ち取るために戦う」


 マカルタが向けてくる疑いの目。


「ユウ君」

「なんだ?」

「もしも戦うのが無理で、ブレイズの方に行くなら……穏便な方法でアタシたち全員も連れて行ってね」


 ルーシーが向けてくる、優しい目。


「お、おい、ルーシー殿……!」

「だって友達と戦うのは苦しいじゃん? アタシがユウ君の立場だったら、たぶん戦うのは相当病むと思うし」

「だからって、裏切りに傾くなんて!」


 ユウの立場になって考えるルーシーに、トレイルとマカルタの厳しい目が向く。


「安心してくれ。俺は戦える」

「ユウ君……病んでまで戦う必要はあるの?」


 おでこをくっ付けて、ルーシーは優しい声色でユウに問いただす。

 しかしユウに迷いはない。

 彼女の優しさに甘えることなく、真っ直ぐな目を向ける。


「俺は戦う。戦い続ける。誰を前にしても、平和のために」

「そっか。強いね、ユウ君」


 ユウの意思を確認して、ルーシーのおでこが離れる。


「さっ! 話はここまでにしてブレイズのところに行こっか!」


「いや、ルーシー……ここは俺一人で行く」


「どうしてだ、ユウ殿? 我らも戦力になれるんだぞ」


「ブレイズは強い。その上、こちらの魔法を全て無効化出来る装置を持っている」


「それならアタクシたちはどうすればいいんですの?」


「みんなには、これから回収する負傷者とポクニ公爵の手当を頼みたい」


「あいよ! 後ろの雑用はアタシたちに任せなさい!」


「ありがとう」


 後方のことをルーシーたちに任せ、ユウは単独でブレイズのところへ向かうと決めた。


「リシタ伯爵、交戦した場所を教えてくれ」

「こちらです!」


 リシタ伯爵に案内を頼み、現場へ急ぐ。

 そしてダブレメラズ魔法教団の施設から出た先、第一城壁都市ルキセディアの街並みと地平線の向こうまで続く長大な城壁が視界に入る。


「あそこです。煙が見えますよね?」

「あれか」


 城壁の上、スウォーム・ワイバーンの火炎放射に焼かれて煙が立っている場所。

 リシタ伯爵はそこに指を差した。

 よく見れば、翼がもがれたスウォーム・ワイバーンの死体も見える。


「行ってくる」

「はい! お気を付けて……って、あれ?」


 リシタ伯爵が反応する頃には、ユウの姿は既にない。

 どこへ行ったのか?

 視覚情報とリシタ伯爵が提供した情報を元に、思考型の転移魔法で瞬時に城壁の上へと移動していた。


「ブレイズ」


 ブレイズの背後、スウォーム・ワイバーンの死体のすぐ近くからユウは話しかける。


≪フッ、予想よりも早かったな≫


 慣れた足さばきで四脚を動かし、ブレイズは振り向く。


「久しぶりだな、ブレイズ?」

≪大体二年振りか、ユウ。皮肉なしにまた会えて嬉しいよ≫

「俺も嬉しいよ。もう一度会うことが出来て」


 真っ直ぐな生身の目と機械の赤く輝く一つ目。

 互いに向き合って、友人として再会を喜ぶ。


≪せっかくの再会だ、なにから話そうか……≫


「まずは負傷者の回収をしたい。いいか?」


≪あぁ、回収してくれ。せっかく非殺傷にしたんだ、死なれるのは目覚めが悪い。ただこのポクニという女だけは残しておいてくれよな≫


「気に入ったのか?」


≪俺好みだからな≫


「はぁ……とりあえずは分かった。回収作業に入る」


 ユウとブレイズ、二人は互いの要求をすんなり受け入れる。

 それは互いに手の内と性根を知っているからこその信頼。なにより友達としての絆がある。

 だからブレイズはマジックキャンセルを使用しない。ユウの魔法の使用を許し、負傷者を思考型の転移魔法で瞬時に回収する様子を見守る。


「貴様、本当に侵略者か?」


 侵略者は残虐で支配的なもの。初代魔王という前例から、そういう先入観があるポクニ公爵にとってブレイズは今まで見たことのないタイプの侵略者。

 人殺しを嫌い、ただの青年のように振る舞う。そんなブレイズに疑問をぶつける。


≪俺は紛れもない侵略者だ。ただ殺傷は最小限に留めたり、手段は選ぶ≫

「貴様は、そんなので侵略を完遂出来ると思っているのか?」

≪自分たちの現状を見てみろよ。ユウがいなかったらゲームオーバーだぜ?≫

「……くっ」


 ポクニ公爵は反論出来なかった。

 実際まともに戦えずボロボロの状態である。ユウがいなければブレイズの侵略を簡単に許していただろう。


「こんな侵略のやり方……一体なにが目的なんだ?」

「それは俺も聞きたいな、ブレイズ」


 ユウが二人の会話に割り込む。

 負傷者の姿はなくなっており、一分ほどで回収作業を終えていた。


≪いつもながらに手際が早いなぁ、ユウ≫

「ブレイズ、目的を話せ」

≪俺の目的か? 俺の目的はこの星を制圧、支配下に置き、いずれ訪れる神人類宇宙統一連盟のために確保しておくことだ≫


 ブレイズは目的を話す。

 侵略者らしいことを言っているが、声色には野望の欠片もない。ただ仕事内容を話しているだけだった。


「ブレイズ」

≪分かってるよ。あの『上書きの光』で神人類宇宙統一連盟はもう機能していないって言いたいんだろう?≫


『上書きの光』


 それは宇宙再誕の光、既存宇宙に対しての破滅の光。

 宇宙のリセット装置に作り変えられた人類の故郷──地球から放たれた宇宙の上書き。

 元世界の人類文明はほとんどが消えた。


≪だけどよ、俺もお前もこの世界に転移しているんだ。神人類宇宙統一連盟の一部がこの世界に流れ着いていてもおかしくないだろう?≫


 しかし神人類宇宙統一連盟は滅んでいない。

 破滅する元世界から異世界、並行世界、あの世、あらゆる別の世界へと散り散りに避難しており、この世界に流れ着いているなら神人類宇宙統一連盟として再度機能出来る可能性がある。


「異世界侵攻の続きでもする気か?」

≪俺はまだ連盟の兵士だ。神人類宇宙統一連盟がいつでも再起出来るように、この星を確保しておくだけだ≫

「来るかも分からない、再起出来るかも分からない神人類宇宙統一連盟のためにやる意味はあるのか?」


 ユウの鋭い指摘。

 ブレイズは考えて、無言になる。


「ブレイズも分かっているだろう? 平和的な現地住民にさえ、連盟の強引な支配を押し付けることも……」


≪分かってるさ……だけど俺の中には忠誠が残っている。それに連盟は、下半身不随の俺に自分の足で歩ける自由をくれたんだ。この恩義は裏切れない≫


「だが、忠誠を向けるべき相手がこの場にいなければ意味は──」


≪そういうお前こそ、そんなに平和が欲しいなら、お前自身で世界を支配して、平和的に統治すればいいだろう≫


「他人の平和を奪っておいて、真に平和と言えるのか?」


≪平和に噓も真実もない……ただ俺たちが力を合わせれば絶対的な平和を作れるのは確かだ。だから復隊しろ、ユウ!≫


「力任せに実現した平和では戦後に火種を抱えることになる。もし火種が暴発するようなことがあれば、絶滅戦争が始まるかもしれないんだぞ?」


≪それは俺たち神人類宇宙統一連盟の力で押さえ付ければいい。最強の俺とお前なら出来るさ≫


「まるで自分に言い聞かせているみたいだな、ブレイズ」


≪……言い聞かせないと、こんなこと出来るかよ。お前なら分かるだろ、ユウ?≫


「よく分かっている。異世界侵攻で散々自分に言い聞かせたからな」


 ユウとブレイズは互いに分かり合っている。

 それでも目的や抱いているものは違う。

 平和と調和、恩義と忠誠、例え自分が間違っていても簡単に捨てられないものがある。


≪はぁ……≫

「侵略は?」

≪……続けるさ。恩義のために≫


 ユウの確認にブレイズは答える。


「そうか」

≪逆に聞くぞ、ユウ。復隊して、昔みたいにもう一度俺の希望になってくれたりは?≫

「俺は復隊しない。神人類宇宙統一連盟の愚行を繰り返すつもりはないからな」


 ブレイズの確認にユウは答える。


≪そうか≫


 二人は答えを出した。

 互いの目指す道は交わらない。


≪こうなったら仕方ないな≫

「あぁ、そうだな」


 話し合いでは解決しないと断定出来る段階に入った。


≪俺はお前をもう一度復隊させる! その体を半殺しにしてでもな!≫

「俺はお前を殺してでも平和を得る。覚悟はいいな?」

≪上等だ!≫


 残る手段は力による解決。どの世界でも人間が共通して持ち合わせる最終手段。

 ユウとブレイズ、二人は互いに見合って身構える。


「ま、待て、勇者イサム! ソイツに魔法で戦っては……!」


 ポクニ公爵は声を張り上げる。

 そんな必死の忠告を無視して、ユウは構わずマナと魔法のオーラを纏った。


≪お前にも絶望してもらうぜ、ユウ!≫


 ブレイズは胸部装甲を開き、マジックキャンセルを起動。

 キャンセル波が繰り出される。


≪ぐぅ!?≫


 しかしキャンセル波が届く前に、ユウは転移。瞬時にゼロ距離にまで距離を詰めた。


「見切ったか」


 同時にマジックキャンセルの装置に向けて突き出した怪力の拳を、ブレイズは予測して回避。装甲を削られながらもマジックキャンセルの損失を防いだ。


≪このっ!≫


 反撃のスタンブロウ。ポクニ公爵を叫ばせた電撃よりも更に出力の高い電撃が、ユウの脇腹に打ち込まれる。


「イサム!!」


 ポクニ公爵から反射的に心配の声が出る。

 それに対してユウは表情をなにも変えない。苦痛の声すらも出さなかった。


「効くと思ったのか?」


 ユウはスタンブロウ程度で動じない。その肉体はマナ制御で強化されていた。


≪だろうな!≫


 マナ制御はマジックキャンセルの影響を受けない。魔法同様にマナの制御でオーラを身に纏う現象がある反面、生体物質として肉体に直接作用するため、魔法的な現象を持ちながら全く別系統の身体強化を行える。

 これはユウもブレイズも分かっていた。


≪んならば!≫


 スタンブロウ程度ではユウを倒せない。

 だからブレイズは背部の翼型武装スラスターから思考誘導式の誘導ビームを発射。

 思考で誘導ビームの軌道を制御。ブレイズが思い描いたようにビームは動き、ユウの手足を狙って飛ぶ。


「……っ!」


 ユウは人外レベルに引き上げた身体能力で高速移動を繰り出し、ブレイズの前から一瞬にして姿を消した。

 高速で動いた際に出る風圧だけがその場に残る。


≪やはり!≫


 互いに予測し、互いに手の内は大体分かる。

 ユウの次の一手は死角からの近接攻撃。魔法を封じられている以上、機械兵士の装甲に有効なのはマナ制御による怪力での近接攻撃のみ。

 ブレイズはそれを読んで、発射したビームを制御。自身を囲むように誘導ビームの軌道を変えて、ユウの接近を阻止する。


「よく読んでいる。判断も迷いがない」

≪ユウ、俺たちは学校時代のツートップだぜ? 成長しているのはお前だけじゃない!≫


 背後からユウの声。読んだ通りにユウはブレイズの死角にいた。

 ブレイズは誘導ビームによる防御を維持したまま振り向いて、背後のユウと目を合わせる。


≪だけど、いざ対面してみると本気のお前は怖いな≫

「それでいい。恐れがあってこそリスクを避け、効率的な有効打を模索し、敵を打ち砕ける」

≪分かっているさ、それくらい!≫


 翼型武装スラスターから思考誘導式ビームを追加で発射。

 防御を維持しつつ追加発射した誘導ビームをユウに飛ばす。


「いい攻撃だ」


 ユウは瞬間移動並みの高速移動で攻撃を避ける。避けて、避けて、しつこく何発も追ってくる誘導ビームを避け続ける。


≪一方的なはずだ、なんだこの嫌な予感は……!≫


 魔法が使えず、武装を一切持っていないユウは圧倒的不利を背負っている。

 それなのにユウの表情、言動には余裕があった。

 つまりなにか有効打を持つ手が残っている。


≪クソッ! 予感が的中する前に、一気に終わらせる!≫


 一方的に攻撃出来る有利な内に勝負を付けたい。焦りがブレイズの中に出てくる。

 その焦りが隙を生む。

 ブレイズは誘導ビームを更に発射するが、攻撃に意識が行き過ぎた。


「ブレイズ、焦ったな?」

≪……っ!?≫


 勝ちを急ぎ過ぎたために、ブレイズは防御に使っている誘導ビームの持続がなくなりつつあることまで気が回らない。

 ユウはこの一瞬を見逃さなかった。


≪ここでか!?≫

「もう遅い!」


 そしてブレイズに対して有効打を持つ一手を出す。

 手の内にあるのは石ころ。

 ユウの次の一手は投石。誘導ビームのしつこい弾幕を回避しつつ、人外の怪力から投石を放つ。


≪うおおっ!?≫


 放たれた投石は極超音速を超える速度。

 ブレイズが防御を意識した時には既に石ころが衝突。薄くなる誘導ビームの隙間を突破して胸部──マジックキャンセルに直撃した。


「あ、あ……」


 ポクニ公爵は呆然とした。

 派手に衝突音が鳴り響き、マジックキャンセルを破壊。それどころかマジックキャンセルを中心に装甲がへこんでいた。

 たかが投石なのに弓や剣以上、魔法にすら匹敵する破壊力。そして怪力、瞬間移動並みの動きを繰り出す異常な身体能力。

 ポクニ公爵の目から見る、ユウの力は明らかにレベルが違っていた。


≪ハッ、ハハハッ……≫


 マジックキャンセルにめり込んだ石ころが、ブレイズの体から落ちる。

 これでマジックキャンセルはなくなった。


≪ハハハハハッ!≫


 敵に魔法の使用を許す状況なのに、ブレイズは歓喜と称賛が込み上げる。


≪よく俺の絶望をぶち壊してくれたな。やっぱり、お前は俺の希望だ≫


 そしてユウへ向ける感情を告げた。


≪今回は俺の負けだ。素直に認めてやる≫


 ブレイズの気分は晴れやかだった。

 絶望し、魔法を捨てるにまで至った原因──マジックキャンセル。それをユウが正々堂々と戦って破壊してしまったのだから。


「出来れば、侵略を考え直してくれると嬉しいんだが?」

≪俺は律儀なんだ。バカだと思うが、侵略は継続する≫

「変わらないな」

≪フッ……じゃあまた会おう、ユウ≫

「あぁ、また会おう」


 互いの感情に憎しみも残さず、互いに別れを告げる。

 そうしてブレイズの意識は去っていく。人型と異形が混ざる機械兵士の体をその場に残して。

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