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【サメ映画和風アレンジ】デス畳 - DEATH TATAMI -  作者: 七谷ぐちた
第二章 神出鬼没のデス畳・兵器の探索
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第31話 デス畳、もうひとつの奥義


「せーのっ」


 “お嬢さま”が加わり、一同は号令(ごうれい)とともに鉄扉(てっぴ)へとからだをぶっつけた。


 扉のまえはあまりスペースがなく、“可憐”と“わけ知り顔”、“お嬢さま”の3人がならぶともういっぱいである。

 その足もとではミニ畳もまた、依然(いぜん)としていっしょにうんうんと押している。

 “びびり八段”のみ、ピヨピヨと目をまわしてかたわらで横たわっていた。


 ぶ厚い鉄で閉ざされた扉は、あまりにも固く、容易(ようい)にその胸襟(きょうきん)をひらいて一同を迎えようとはせぬ。


「ずいぶんっ、気むずかし屋さんのっ、ようですわねっ……。こちら、カギがかかってる可能性はございませんか……?」


「私もその可能性は考えたのですが、カギ穴もないですし、先ほどごくわずかですが、ずずっと押しこめたような感触がしました。それと、ミニ畳がいっしょになって押してくれていることから、よもやと()けているのですが……」


「いずれにせよ、前門の鉄扉(てっぴ)に後門のデス畳、進むにはこちらを()(ひら)くしか道がないというわけですわね……。ようございます。みなさま、少々下がっていただけますか?」


 そう声をかけると、何度か腕をふり、“お嬢さま”が扉のまえに屹立(きつりつ)した。

 ビリと長いスカートの(すそ)を軽く破り、足を肩幅よりもややひらくと、ひざを曲げる。両腕をゆらりとあげる。


 その体勢で、コォォォと音を立てて吐き出すその呼気(こき)が、なにやら“お嬢さま”のからだからあらゆる不純物を(はい)していくようである。

 またほそく鋭くとりこまれていくその吸気(きゅうき)が、名状しがたい、なにか生命力(ヽヽヽ)としか表現しえぬひどく純度の高いエネルギーを、体内に濃く練りあげていくようである。


「“お嬢さま”……これは、なにをしてるの……?」


 “可憐”の困惑に、“わけ知り顔”が驚愕とともにメガネをクイとあげる。


「こ、これは、中国武術に伝わる硬気功(こうきこう)では……!? 体内の〈気〉を増幅させることで、その肉体は刃物さえ通らなくなるほどの硬度をもつという……。そうか! そうして硬気功をまとったハガネの肉体で、この鉄の扉をぶち破ろうというのですね……!」


「うふふ、少々はしたないのと、〈気〉を高めるのにお時間をいただきますので、ふだんはひかえているのですけれど……」


 そうこたえながらも、“お嬢さま”の肉が鋼鉄を熱し、熟練の職人によって何度も鍛造(たんぞう)されていくように、硬くたくましくしまっていく。

 武術への造詣(ぞうけい)のない“わけ知り顔”たち素人が見ていても、その〈気〉の純度の高さ、濃密さ――ひと言でいえば「異様さ」は、全身の肌があわ立つほどに伝わってきたのであった。


 そうして“お嬢さま”がさらに〈気〉を練っているあいだ、“可憐”は冷静なひとみでちらりと“中型免許”たちを見やった。


「ダミミミ、ミ、ミミミ」


 依然(いぜん)として、高速回転するバイクの後輪によっていぐさを削られながら絶賛処刑中とでもいった様相(ようそう)のデス畳であったが、“可憐”のいる場所からの視点では、わずかに、このモンスターが身じろぎしたのが見えた。


「このまま、削りきれるか!?」


 バイクを意のままに操っている“中型免許”は気づいておらず、


 ヴンッ


 というデス畳から発せられたかぼそい音は、バイクのエンジンのうなりにかき消されて部屋にはひびかなかった。

 代わりに――


『……とこなら……イト……』


 という、ささやきのごとき音声が、エンジン音に(しの)ぶようにまぎれこみはじめる。


「これは……?」


 まず異変に気づいたのは、デス畳をふたたび拘束しうる道具がないか、室内を探しまわっている“カタブツ”であった。


「どこかできいたことのある、歌……? だれかに、強制的に聞かされたことがあるような……いや、そんなはずは……」


 つぶやくが、その正体は霧のようで、やみくもにつかんでみても手のなかは(くう)である。

 が、床にこぼしたワインのように、その怪しき音声は存在感を増し、室内に広がりはじめる。


『……ダイナマ……いて……』


 男性の、声である。

 精悍(せいかん)な、(はら)の底から快哉(かいさい)をさけぶような、「シャウト」と呼ぶがふさわしい、男性の勇壮(ゆうそう)たる歌声――


「そうか、これはあの伝説のドラマで流れていたあの歌……まずい!」


 その正体を“カタブツ”が察知したときにはときすでに遅く、ふたたびヴンッという音がより明瞭(めいりょう)にひびくと、デス畳から光が――ホログラムが発せられた。

 ちょうど“中型免許”の正面の壁に、一台の大型トラックが投影される……。

 それは、しゃくれたアゴのように飛び出す銀にかがやくアルミのバンパー、いたるところにとりつけられた夜をきらめかせる無数の電球、「男は度胸」「女も度胸」「爆発的(おとこ)形成銀河」などの文言と、和彫(わぼ)りの竜虎(りゅうこ)を転写したかのごとき塗装の、威風堂々たるボディ――いわゆる「デコトラ」と呼ばれるトラックであった。


「クソッ、あれは“中型免許”からいくどとなく逸話(いつわ)を聞かされた(それでちょっと閉口(へいこう)していた)伝説のデコトラ……! そしてさっきから流れているのは、ドラマ『デコトラ大爆発伝説』の主題歌『男ならダイナマイトを抱いて死ねぃ』……どちらも“中型免許”が崇拝(すうはい)してやまないものじゃないかッ! やめろ、デス畳ッ!!」


 事態の深刻さに気がつき、思わず怒声をあげる“カタブツ”。

 しかしもはやまにあわず、“中型免許”は脊髄反射(せきずいはんしゃ)でこぶしをふりあげるとともに、流れる歌にあわせて高く激しく絶唱(ぜっしょう)した。


「男ならぁぁぁん、ダイナマイトを抱いて死ねぇぇぃぃ!!」


 流れる男性の歌声と、“中型免許”の野太い歌声とが、渾然一体(こんぜんいったい)となって部屋を満たす。

 ここがカラオケボックスであればまちがいなく絶賛の嵐であったろうみごとな歌唱であったが、いまはデス畳のいる屋敷の地下――


「タミィ!」


 ひと声吠えるや、バイクを操るちからの抜けたスキをのがさず、デス畳がギュルンと回転してみせた。

 そのままコマのようにまわると、バイクごとはじき飛ばす!


 後輪をはじかれた“中型免許”は、つんのめってバイクごと転倒してしまいそうになるが、前輪で器用に車体を支え、部屋のすみにどうにか着地した。


「クソッ……クソッ! おれが『大型免許をとったら必ず乗ってみせる』と夢見ているあのデコトラ、そして毎朝のアラームにしているあの名曲を流すだなんて……! いや、なにより無意識にそれに乗せられちまったおれが、大バカやろうだ……。だが、ダメージがあるのはたしかだ。せめてここで旧デス畳だけでも、()つ!」


 そう吠え、デス畳をにらみつける“中型免許”。

 デス畳もまた、上部がタイヤのかたちにベッコリとへこんでおり、また最前(さいぜん)の余裕がなくなってじっと“中型免許”を凝視(ぎょうし)していることから、程度はわからぬながらダメージを負っていることが見てとれた。


「“カタブツ”! 隠し部屋のほうへ行っててくれ。ちょいとあばれるぜ!」


 “中型免許”がさらに絶叫すると、またズドドドとアクセルを全開にまわしてターンする。

 あわてて“カタブツ”が“可憐”のそばまでもどると、なんというおそるべき絶技(ぜつぎ)か、“中型免許”が部屋の壁を走ってデス畳へと猛進(もうしん)していく!


 しかしデス畳もさるもの。

 先ほどの攻防でバイクの特性を把握したか、小回りのききにくい中型バイクへとみずから果敢(かかん)にも接近していき、スキあらば()ろうてやろうとグパッと口をひらいていくども噛みついてくる。


「……たぶん、ダメ……」


 かたずを飲んで見まもる“カタブツ”の耳に、“可憐”のそんなつぶやきがきこえた気がして、一瞬そちらを見やる。

 口もとを手で隠して観察しながらものうげに考えこんでいるようすの“可憐”であったが、また同時に、


「ハァッ!!」


 という裂帛(れっぱく)気合(きあい)がすぐそこで放たれる。

 破城槌(はじょうつい)が城門にぶちあたったような轟音(ごうおん)が、このせまい部屋にとどろいた。


 〈気〉を玉鋼(たまはがね)といえる領域にまで()りあげた“お嬢さま”が、そのまま直進するのではなく、肩や背なかを用いて自身がいわばひとつの壁となり、目にもとまらぬスピードで鉄扉(てっぴ)へとぶっつかってみせたのである!

 鉄扉(てっぴ)はゆがみ、ふるえ、その一撃による衝突エネルギーは一分(いちぶ)のムダもなく即座に扉全体へと伝播(でんぱ)した。


「ウウウワァァァァァ!?」


 その音と衝撃によって“びびり八段”が通常寝起きのときにのみ見られる「起床絶叫」を決めてとび起き、また“わけ知り顔”が、


「こ、これはゲームなどで有名になったあの武技(ぶぎ)鉄山靠(てつざんこう)ではありませんか……!? まさか、この目で見ることができるなんて……」


 と感嘆とともにメガネをクイッとあげてみせた。


 舞いあがる土煙(つちけむり)が、やがておさまってきたころにあらわれたのは――


 みごとにひらいた辞書のごとき厚さを誇る鉄扉(てっぴ)と、そのまえに悠然(ゆうぜん)とたたずむ“お嬢さま”の背なかであった。


「ささ、さ、さすがは“お嬢さま”だぜ!」


 起き抜けで状況を詳細に把握できていないながら、この場にいない“太鼓持ち”の称賛(しょうさん)をなぞるように、“びびり八段”が絶叫してみせた。


 “お嬢さま”はふううと気を放散(ほうさん)させるように呼吸をととのえたあと、さっとなかへ首をのばし、安全性を確認してからさけぶ。


「なかは廊下のようですわね……みなさま、こちらへ!」


 うながしつつも、光がなくうす暗い廊下へと警戒しながら足を踏み入れる。

 よくわかっていないのか、楽しげにるんるんと進むミニ畳と、“びびり八段”、“わけ知り顔”がつづいた。


「あっ、奥に、〈おいでませ兵器の部屋――わが研究室へ〉と書かれた扉があります! おそらく、あそこがわれわれの目的地かと……!」


 “わけ知り顔”が思わず歓声(かんせい)をあげた。

 それらを確認してから、“カタブツ”もまた声をはりあげる。


「“中型免許”! 扉が開いた、キミも来るんだ。逃げるぞ!」


 “中型免許”は意のままにバイクを操り、ときにデス畳の攻撃を避け、ときに回転してデス畳に打撃をくわえつつ、応じた。


「男一匹“中型免許”、()れるとこまで()ってやる腹づもりだぁ! “カタブツ”、おまえは先に進め。一刻も早く兵器を手に入れるんだ!」


 “カタブツ”は部屋と部屋の境界に立ったまま、まぶたを閉じてほんの暫時(ざんじ)、思考をめぐらせる。

 まぶたの裏にうつるのは“ゴリラ”たち――先ほど惨殺(ざんさつ)されたメンバーである。

 一方で目をひらけば、デス畳と互角の戦いをくり広げる“中型免許”がいる……。


「このうえ“中型免許”まで、ぼくは、失いたくない……! 少しでも劣勢になったら、彼をかかえて逃げなければ……」


 いま戦っている友人を信じることができていないようで、強硬には主張しかねたものの、しかし“ゴリラ”たちのときと同じ()をおかすのは耐えがたく、“カタブツ”は低い声で決心をかためた。

 そんななか、となりにいた“可憐”が腕を組み、髪の先をいじりながら、ぼそりと語りかけてきた。


「私ね……いままで生きてきて、思うようにならなかったことってあんまりないの」


 突然の、しかも状況に似あわしいとは思えぬひとことに、“カタブツ”はゆっくりと顔をあげる。


「私って、ほら、外見も人あたりもいいから、とくに男性はみんなチヤホヤしてくれて、ぜんぶ私の思うとおりにお膳立(ぜんだ)てしてくれた。もちろんそれは、男性が好きそうな服装やしぐさを研究して、私自身の心もからだも、たゆまずに磨きあげてきた努力のおかげ……。でも、だからね、思うように動かない、私がほしい言葉を言ってくれないあなたみたいな人は、イラつくの。“お嬢さま”に告白したの、見たよ。なんで? あの子は、べつに、あんたがいなくても生きていけるでしょ? 自分がもってないものは、自分以外のだれかをつかまえて補うしかないのに、なんで生まれた場所のおかげで最初からぜんぶもってるあの子があたしより優先されるの? 最初からもってるんだから、生きていくにつれて失っていかないと不公平でしょ。20年も何不自由なく暮らしてこれたんだから、そろそろ失ってバランスをとらないといけないタイミングでしょ。これがそのちょうどいいタイミング。あたしとあの子にピンチがおとずれたとき、私よりあの子が優先されて、あの子だけが助かるっていうことが、どれだけおかしいかあんたにわかる? ずっとずっとずっと努力して、苦労してきた私が死んで、ずっと恵まれてきたあの子だけが助かるだなんてこと、ぜったいにあっていいわけない……それなのにあなたはそうするってことでしょ。兵器ももうすぐそこだし、あなたの役割は、もうおしまい。あなたの代わりなら、私でもできる」


 耳に入ってきた言葉がうまく処理できず、口を(こい)のように開閉させることしかできない“カタブツ”の目のまえには、いままで見たものと寸分(すんぶん)たがわない、“可憐”のかれんな笑顔が浮かんでいた。


「“可憐”さん……キミは、なにを……」


「うまく、ふたりで時間をかせいでね」


 言うや、きびすを返して走り出す。

 メンバーが入ったらすぐに閉めるためだろう、鉄扉(てっぴ)は人ひとり分のスペースだけあいていて、“お嬢さま”たちは廊下の壁にかかっている(わな)とも見えるあやしげな絵画や胸像を点検するのに慎重を()していた(ひとつの人物画は、彼らが近づくとそのひとみがギョロリと動いたのだ)。


 そして“可憐”のすがたが扉の向こうへと消えたその瞬間、あれだけ苦労してひらいた扉は、まるであざ笑うように音を立てて閉まる――


「おらぁ!!」


 “カタブツ”が困惑(こんわく)とともに凍りついていると、一方で、たおれたタンスを利用して“中型免許”が空を駆けるように飛び、その超重量のバイクでデス畳を踏みつぶさんとせまるところであった。


 ()った――“中型免許”が口のなかで喜びを爆発させた、その瞬間――


「オーギ、〈雷?いいえあれは畳デス・ワイルドスピード〉」


 バイクのエンジン音にまぎれる音量で、デス畳がそうつぶやいた。


 すぐ真下にバイクがある“中型免許”はもちろん、横から見ている“カタブツ”でさえ、なにが起きたかわからなかった。

 なにも――見えなかった(ヽヽヽヽヽヽ)のである。

 ただ、デス畳が影ものこさず消えたとしか、見えなかった。


 ゴギャッ


 奇妙な、プレス機に硬質ななにか(ヽヽヽ)()しつぶされるような、そんな音がしたのはその直後だった。


 稲妻(いなずま)のごときスピードで空中へ瞬間移動したデス畳が、バイクのエンジン部を、前輪を、横からむざんに、ぐちゃりと破壊せしめたのである。


 相棒たるバイクをやられ、あっけにとられ、なにも状況を把握できていない“中型免許”のからだはバイクの崩壊とともに落下し――


 バグンッ


 あまりにもあっさりと、デス畳に圧殺(あっさつ)された。

 “中型免許”を構成していたはずの血と肉とが、あたりにとびちる。


「ちゅう、“中型免許”……“中型免許”ォォォ!!」


 声も血を流すことができるのであれば、親友とさえいえた“中型免許”が殺された悲痛によって、“カタブツ”の咆哮(ほうこう)は血に濡れた。

 激情(げきじょう)に支配され、破損のすえに転がってきたバイクの鉄のパイプを、デス畳へと突き刺す。


 デス畳はなんらのダメージを受けたようすも見せず、ふたたびひらいたその大きな口を、閉じながら“カタブツ”のほうへと傾き――


 バグンッ


 もうひとつの血と肉とが、隠し部屋のほうにまで、いきおいよく飛散した。


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