第32話 ついにたどりついた兵器、それは……
「“カタブツ”くん! どうして……!」
“可憐”が、鉄扉へとすがりついて、はげしく扉をたたく。
少し先の廊下を点検していた“お嬢さま”たちはふりむき、なかでも“お嬢さま”は全精力をかたむけてあけたはずの扉が閉まっており、また、入ってきたなかに“カタブツ”と“中型免許”の姿が見えなかったことに、目を見ひらいた――
「ど、どうされたんですか?」
“わけ知り顔”がメガネをクイッとあげながら、“可憐”のそばへと駆け寄る。
「“カタブツ”くんが、『自分たちで時間をかせぐから、早く先へ』って言って、私を押し出して扉を閉めてしまったの……」
こたえながら、涙をにじませ、おのれの服をくやしそうににぎり、肩をふるわせる“可憐”のまさしくかれんな姿は、それを見まもる“わけ知り顔”や“びびり八段”の庇護欲を強く刺激した。
一方で、目に見えてとり乱したのは“お嬢さま”である。
「そんな……!」
さけんで、鉄扉をどうにかあけようと取りつく。
が、一方通行の目的でつくられているのか、鉄扉にはドアノブなどの取っかかりさえなく、押すだけだからどうにかひらくことのできた厚い鉄の板は、そもそも引くことさえ満足にできぬ状態であった。
「“カタブツ”さま、“カタブツ”さま……!」
扉をたたき、半狂乱といえるほどの熱を声にともして、懸命に想い人を呼ぶ。
が、バイクのエンジン音さえきこえぬほどの鉄板が隔たり、彼女の声は室内の壁へうつろに反響するばかりだ。
「“お嬢さま”……こうなったら、一刻もはやく兵器を手に入れて、ふたりを助けにいこう」
“可憐”が、にじむ決意とともに目もとをぬぐい、語りかける。
引くに足るだけの隙間がどこかにないかと扉の周縁をまさぐっていた“お嬢さま”は、手をとめ、
「……ときには冷徹に、判断を……」
少しまえに“カタブツ”から言われた言葉を、口のなかでくりかえしていた。
「“可憐”さまの、おっしゃる、とおりですわ……。先を急ぎましょう……」
つぶやくや、脇目もふらずに、ずんずんと奥へと歩いていく。
「あ、“お嬢さま”、そんなに不用意に歩いては……」
まだ検証の途中であったため、“わけ知り顔”が心配そうに、けれど強くはとめられずに呼びかける。
そしてそのとき――廊下の壁にかかった、奇妙に顔の肉の肥大した男性の人物画が、その眼球が、ギョロリと“お嬢さま”の動向にあわせて動いた。
遠慮も会釈もなく“お嬢さま”がそのまえを横切ると、人物画は口ヒゲをゆがめて邪悪に笑う。
『……不届き者』
そう叱責するようにおどろおどろしい声がひびくと、突如として“お嬢さま”の正面から先端の鋭くとがった矢が飛来する!
「ウウウワァァァァァ!! “お嬢さま”ぁぁぁ!!」
そのあまりのスピード、対象がリンゴであれば刺さるどころかこなみじんに破壊しようかという迫力に、“びびり八段”がびびって少々の尿もれを起こしたのも道理であろう。
しかし“お嬢さま”は、矢のほうを見もせず、音も立てずにつかんでみせると、片手でバキリとふたつに折った。
なんらかのトラップだったのであろう、さらにいく本もの矢が降りそそぐが、最低限の動きでかわし、はじき、廊下の端まで到着すると奥に存在していたボタンを押す。
キュウウウンという機械音が鳴り、矢の雨がやんだ。
「いま、わたくし、かつてないほどに感覚が冴えております……早く先へ」
みなを呼びこみ、きびすを返して、奥の扉のドアノブをひねる“お嬢さま”。
くちびるから、血が流れている。
矢がかすったのであろうか。
否――そうではなく、自分でくちびるを噛み切ったのだ。
だれにもさとられぬよう、それをぐいと手の甲でぬぐうと、おそるおそる追いついた“わけ知り顔”、“びびり八段”、そして“可憐”を確認してから、ゆっくりと扉をひらいていく――
その先にあったのは、これまでの西洋然とした屋敷とはまったく異なる、研究室の名を冠するにふさわしい謎の機械や実験器具が散見される広大な空間であった。
そしてその奥には、何度も言及がなされてきた〈兵器〉が端然と鎮座している――
「あれは、まさか……なんということでしょう……! あそこにあるのは……」
“お嬢さま”の横からひょっこりと顔を出した“わけ知り顔”が、その〈兵器〉を――この世のものと思えぬものを見た驚愕から瞠目し、メガネをクイッとあげ、高らかに絶叫した。
「メカ畳……!!」




