表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来世でも一緒に  作者: 霜月
本編
47/63

永遠願う日の終わり



 それは、空気の冷たい、よく晴れた日だった。


 空に向かって白い息を吐き出せば、ふわりと広がって消えてゆき、視線を空から下に戻せば、駅の人混みの向こうにどこかキラキラとした街並みが見えた。


「クリスマスだなぁ……」


 そう言いながらさらに視線を落とせば、母が好きだったマリーゴールドの花束が視界に入る。


 そう。今日はクリスマス・イヴだ。



「市川」


 駅のホームの入口で花束を抱えて立っていると、私の名前を呼ぶ智也先輩の声が聞こえた。

 今日は午後から先輩と待ち合わせて、一緒に父と母のお墓参りに行くことにしていたのだ。


「……智也先輩」


「早かったな。俺も少し早めに着くように出たんだけど。……待った?」


 その言葉に、私は無言で首を振る。


「花屋さんに寄りたくて早めに出たら、そのまま早く着いちゃって。あ、でも、本当にさっき着いたところです」


「そっか。昨日は途中で何も話さなくなったから電話切ったけど……あれから少しは眠れた?」


「あ。ご、ごめんなさい。私寝落ちしちゃったみたいで。先輩の声聞いてたら安心して……気付いたら朝でした」


「そかそか。それならよかった」


「わざわざ電話もらったのに。本当にすみません」


「俺が心配になって勝手にしただけだから気にすんなって。……って、あ、そろそろ時間だな。行くか」


 先輩が腕時計を見ながらそう言ったので、私たちは改札へと足を向けた。




 *




 街中から離れた郊外に建つお寺の境内に、父と母が眠るお墓がある。

 お寺が管理してくれているためいつも綺麗にされているが、とりあえずと、私たちも軽く掃除をして、花を供え、お線香をあげた。


 先輩と2人並んで手を合わせる。


 ――――。


 顔を上げて横を見れば、同じタイミングで先輩も私を見た。


「……行きましょうか」


「ああ」


 私は笑顔でそう言って、先輩と一緒にお墓を後にした。




 *





「やっぱ、緊張するな」


「……緊張?」


 帰りの電車を待つため2人で駅のベンチに座っていた時、不意に呟かれた先輩のその言葉に、少し首を傾げる。


「俺にとっては『彼女のご両親に初めてのご挨拶』だった訳じゃん?」


「あ……」


「変なヤツって思われたら嫌だったから、昨日の夜とかめっちゃ服装悩んだわ」


 そう言われて改めて先輩の格好を見ると。

 たしかにいつものラフな格好ではなく、シャツにダークグレーのニットソーを重ねて、ベージュのチノパンに黒のコートとという、ちょっとキレイめのファッションをしていた。


「ふふふ。そうだったんですね。……先輩、そういう格好も似合ってますよ。カッコイイです」


 私がそう言うと、先輩がフッと微笑んだ。


「本当はスーツ着ようかなって思ってたんだけど、さすがにアレかなって思って止めた。でもやっぱ、スーツ着てくれば良かったかもな」


「……なんでですか?」


「……手合わせてる時さ、万里さんを一生大事にしますって心ん中で言ったんだけど、やっぱこの格好じゃイマイチ締まらなかったかなって」


「…………一生……?」


 そう聞き返した私の頬に、先輩の手が優しく触れる。


「そう、一生。俺、市川の事、この先一生大事にしたいんだけど。……ダメ?」


 そう言う先輩のグレーの瞳が、涙で滲みぼやけて見える。


「あの、先輩、……私、まだまだ子どもで……全然自立できてなくて……」


「うん」


「就活もこれからだし……。料理とか、家事とかも、まだ未熟で……」


「うん」


「私、かなりの、寂しがり屋ですよ? ……迷惑、かけますよ?」


「そうなの? ……でも、いいよ」


「……本当に……周りに、支えてもらってばっかりだし……」


「うん。……なぁ、市川。その周りの中に、俺入ってる?」


「入ってます。……たぶん、先輩いなくなったら、私生きていけない気がする……」


 私が涙声でそう言うと頭をフワリと抱き寄せられて、頭上で「ハハッ……熱烈……」と先輩の嬉しそうな声がした。



「……先輩、好きです」


「……うん。知ってる」


 ふと零れた告白を、きちんと拾って受け止めてくれる人が側にいる。


 その事実が幸せで。


 ただただ幸せで。


 その後は。

 静かに2人で寄り添い、電車が来るまでそのままでいた。




 *




「えっと、これからどうする?」


 改札から出た、駅のホーム。


 辺りは既に夜の気配が漂い始め、イヴに帰宅を急ぐ人々が沢山行き交っていた。


「食欲あるなら、メシ食べに行こうか?」


「……予定大丈夫なんですか?」


「……? 今日はイヴだぞ? 目の前に可愛い自分の彼女がいるのに、それ以外に優先する予定がある訳ないじゃん?」


 先輩が怪訝な表情をしている。


「……一緒にいてくれるんですか?」


「いてくれるって言うか、いたいんだけど。……今日は一緒にいさせてくれる?」


 先輩が少し微笑んでそう言った。

 でも、微笑んでいるのに、その顔にはどこか不安が入り混じっていて。


 その表情を見て、……すこし、心臓がドクリとした。


「……はい。……一緒にいて下さい」


 声が掠れてしまう。


「じゃあ、まずはメシかな。……って、その前に、市川にお願いがあるんだけど」


「なんですか?」


「あー……あのさ、名前の呼び方なんだけど、……そろそろ市川じゃなくて――――


 それは。


 先輩が私から少し視線を外して、そう話す途中だった。


「……先、……ッ!!?」


 それは。


 途中で言葉を切った先輩を不思議に思い、話しかけようとした瞬間だった。


 先輩に体を押されて。

 尻餅をついて。

 ビックリして顔を上げた。


 その瞬間だった。


 先輩に、黒いパーカーのフードをかぶった人が、ぶつかった。




 *




 その人の顔はフードで隠れて私の位置からはよく見えなかった。


 ただ。

 その人が先輩から体を離し静かに立ち去るその手に、何か赤い物が握られているのがよく見えた。


「……先輩?」


 なんとか絞り出した私の声に、先輩が私に視線を戻す。


「……市川……よかった……」


 先輩がそう言った気がしたその次の瞬間には。


 先輩はその場に崩れるようにして倒れていた。


「……え? 先輩? ……智也先輩?!」


 這うようにして先輩の側まで行き、呼びかける。


 先輩は脇腹を手で押さえていて。

 見ると、その指の間から血が溢れ出していた。


「……え、嘘。……嘘、嘘嘘嘘っ! 嘘だ! ねぇ、先輩!!!」



 きゃぁああーーー!!!

 うわぁぁ!

 やべぇ!逃げろ!!刺されてる!!

 警察!警察!だれかっ!助けてーー!!

 おい!!救急車呼べ!!!!



 音が遠くに聞こえる。


 周りの多くの人たちが逃げ惑う中。

 私は自分の腕の中でかたく目を瞑り、浅い呼吸を繰り返す先輩に必死で声をかける。


「せんぱいっ!! 先輩!! いやだ、目を開けて!! ……誰か助けて、先輩が!! ……ッ……お願い! 死なないで!! 先輩っっ!!」


 手で必死に押さえても、指の間からドクドクと血が流れて服の染みを大きくしていく。

 手のひらに感じる温かい血の温度に対して、冷えていく先輩の体温に、私の心も冷えていく。


(嗚呼、お願い神様。先輩を連れて行かないで。……もう私を、1人にしないで――――)


「……ッ、先輩、1人にしないって言ったじゃん! 一緒にいてくれるって言ったじゃん!! ねぇ!!!」


 私がそう言った時、先輩がゆっくり目を開けて私を見たので。


 ああ、良かったと思った。

 生きてるって思った。


 でも。

 そう思った私が寄り添おうとしても、何故か先輩が私を押し返そうとする。


 先輩が赤黒い血を吐きながらも、何故か「にげろ」と言う。


 それでも側を離れたくなくて。

 強烈な血の匂いにむせ返りそうになった時。




 私の後ろに人が立った事に気が付いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ