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来世でも一緒に  作者: 霜月
本編
41/63



「えーっと、改めまして、今日から正式にウチの研究室で頑張ってくれることになりました、市川万里君です」


「市川万里です。引き続きよろしくお願いします」


 伊藤先生の声を受けて私も挨拶をして頭を下げる。

 目の前にはいつもの2人、智也先輩と涼先輩が立っていた。


「よろしくねー」

「よろしく」


 時は過ぎ、4月。

 私は3年生に、先輩たちは4年生になった。


 結局、伊藤先生の研究室に入った3年生は私だけで、これから先輩たちが卒業するまでいつものメンバーで過ごすことになる。

 まぁ、と言っても、先輩たちは既に就活で忙しい身なので、落ち着くまではすれ違うことのほうが多いだろう。


「俺も研究残ってるし、できるだけこっちに顔出すから。しばらく大変だろうけど、よろしくな」


「先輩たちが忙しいのは分かってますから。それに去年から来てますし、伊藤先生もいらっしゃるから大丈夫ですよ」


 智也先輩の言葉に、笑顔で答える。


 私は2年の夏から手伝った結果、智也先輩の後を引き継ぐ形で研究を進めていくことになった。

 つまり、これから1年間は先輩との共同研究となる。


 あの学食の時からしばらくは、智也先輩と一緒になると正直ドギマギしていたが、時間の流れに身を任せているうちに先輩とは以前のような穏やかな雰囲気に戻った。


 たしかにたまにドキドキすることやキュンとしてしまうことはあるし、智也先輩からのスキンシップが増えたような気だってするが、特別期待はしないようにしようと自分に言い聞かせている。


 正直、まだ少し、私から告白をする勇気もない。


「よし。じゃ、今日はちょっとだけ頑張って夜は飲みに行こう! 市川君の歓迎会だ!」


「いぇーい! 教授の奢りだー! 飲むぞー!」


「小柳君、君の歓迎会じゃないから! 市川君のだから! っていうかキミ、たまに私の部屋のお酒飲んでるでしょ?! 隠してたのに!!」


「あー! えー?! き、気のせいじゃないっすかー?!」


 先生と涼先輩のジャレ合いを微笑ましく見ていると、智也先輩が話しかけてきた。


「市川は今日は家庭教師のバイトないのか?」


「はい。前受けもっていた子も無事に高校に合格したので。私も就活の準備が始まりますし、よっぽどの事がない限りはお休みです」


「なるほど」


「先輩たちこそ忙しいのに。今更私の歓迎会なんて。……なんかすみません」


「いや、いい気晴らしになるから……気にすんな」


 先輩が私の頭をポンポンとしながらふわりと微笑む。


(本当に。相変わらず心臓に悪い……)


 その顔を見ながら、智也先輩の笑顔には弱いんだよなぁと思っていると。


「智也と万里ちゃんがイチャイチャしてる……」


 涼先輩がボソリと何かを言ったので、ハッとして涼先輩を見れば、涼先輩と先生の会話は終わっていて。

 生温かい目をした先生と、ニヤニヤした笑いを浮かべる涼先輩がこちらを見ていた。


「えーっと、邪魔してごめんね。……そろそろみんな、作業に戻ろうか」


 伊藤先生の言葉を受けて、ワタワタと私たちはそれぞれの作業に戻ったのだった。




 *




「えーっと、じゃ、おじさんな私はこの辺で帰るよ。長谷川君、小柳君。市川君をお願いね。ちゃんと送って行ってあげてね」


「「はい、分かりました」」


「じゃあ、お疲れ様ー」


「「「お疲れ様でしたー」」」


 夜になり、私たちは大学の近くにある居酒屋へ行った。

 先生と涼先輩のジャレ合いを智也先輩と一緒に眺めたり、3人が研究について話をしているところへ私が質問したりして、それなりに楽しい時間を過ごすことができた。


「あ!」


 先生と別れ私たちも帰ろうかと話をしていた時に、急に涼先輩が声をあげた。


「?? どうされました?」


「あー、いや、オレちょっと明日の朝イチで用事があったんだった。智也、悪いんだけど万里ちゃんお願いしていいかな」


「「え?」」


「やーもー、オレも送って行きたかったんだけどさー! ホント! ごめんね!!」


 涼先輩はそう言って両手を合わせ「ごめんごめん!」と言った後、私たちが止める暇なく足早に帰って行ってしまった。


 ……なんとなく、智也先輩と顔を見合わせる。


「……とりあえず、帰るか」


 智也先輩のその言葉に私は黙って頷いた。




 *




 居酒屋から駅まで行くために、私たちは大学内を通って行くことにした。


 桜が綺麗に咲く中、学内の道を2人で並んで歩く。


「あー、市川、ちょっと待って。」


 不意に智也先輩がそう言って、近くの自販機へと走って行った。

 その姿を見ていると、戻ってきた先輩からペットボトルの水を渡される。


「気分、悪くねえ? 大丈夫?」


「……すこしフワフワしますけど、大丈夫です。ふふふ。智也先輩が優しい。ありがとうございます」


 ペットボトルを両手でしっかり持ち、笑顔でお礼を言った。


「……俺、普段、優しくない?」


 再び歩きだしてすぐにそう尋ねられた。


「いいえ。優しいですよ。……いつも色々優しく教えてくださいますし。さっきお店にいた時も、今も、いつも私を気にかけてくださっていて、フォローしてくれて。とても頼もしいです。……かっこいいなぁって思います」


「市川……」


 その時、風が吹いて桜の花びらが辺りに舞った。


 花びらが吹いてきたほうを見ると、一際綺麗に花を咲かせた桜の木が外灯に照らされているのが見えた。


「……ちょっと見て行くか?」


「はいっ」


 2人でその桜の側まで行くと、ちょうど木の下にベンチがあった。


 並んで座り、見上げる。


「……きれい……」


「……ああ」


 外灯に照らされ白く浮き上がる桜に、ひらひらと舞い落ちる花びら。

 その桜の後ろには夜空が見えて、綺麗な三日月が浮かんでいる。


 しばらく2人でその光景に見惚れた。



「……そろそろ行くか」


「……そうですね」


(もう少しだけ、一緒にいたい……)


 そう思ったが、先に立ち上がった先輩が私に手を差し出してくれているので。


「すみません。先輩忙しいのに、引き留めちゃって」


 そう言いつつ、のろのろと先輩の手を取る。


「いや、俺はいいんだけど。市川がダメだろ?」


「え?」


「だって、ほら、あんまり遅いと親御さんが心配する」


 先輩のその言葉を聞いて。


 結局私は立ち上がることも出来ず、差し出された手を握りしめることだけしか出来なかった。

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