表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来世でも一緒に  作者: 霜月
本編
39/63



 あれからしばらくの間は微妙に気まずい雰囲気があったが、特に突っ込んで聞かれることもなく、試験や課題、レポートに追われるうちにすっかり冬となっていた。


 ホッとしたような、なんとなく残念なような、そんな気持ちのまま自分から話を蒸し返すことももちろん出来ず、智也先輩との仲も当然のように進展していなくて。

 というか、髪のことはもちろん、私に対する態度を柔らかく感じるのも、私の勝手な思い込みなんじゃないのかとすら考えてしまう。


 そんなモヤモヤとした日々を過ごし、昨日からは冬休みが始まった。


 今日は12月24日、クリスマス・イヴだ。



「……ふう。そろそろ行こうかな」


 世間のクリスマス独特の雰囲気から離れ、私は1人で研究室にいた。

 智也先輩も涼先輩も今日は特別講義があるらしく、部屋には来ていない。


 スマホを見ると12時を少し過ぎたところだった。


(約束は1時半だから、どこかでお昼食べたほうがいいかな……)


 そんな事を考えながら荷物を纏め部屋から出ようとしたその時、ちょうどドアが開いた。


「あれ? 市川?」


 驚いてドアの先を見ると、同じように驚いた表情をした智也先輩と目が合う。


「智也先輩? 今日講義じゃ……」


「ああ、昼休み。忘れ物して、取りに来た。……市川は? もう帰るとこ?」


「はい。ちょっと今日……用事があって」


「そう」


「「…………」」


 少し気まずい沈黙が流れる。

 耐えきれずにここから離れようとした瞬間、先輩が口を開いた。


「……大丈夫か?」


「え?」


「いや、なんか最近……元気がないから」


「……大丈夫ですよ。最近ちょっと忙しくて寝不足なだけです」


 すこしドキリとしたのを誤魔化すように、私は笑顔で答えた。


「市……「えっと、じゃ、私、帰りますね! 先輩、講義頑張ってください。……お疲れ様でした」


 先輩が何かを言いかけたのを遮って、私は先輩の横を擦り抜け足早に部屋を後にした。




 *




 途中で花屋に寄り、マーガレットの花束を買った。


 なんとなく食欲が湧かず、結局何も食べずに駅へと続く道を歩く。


 タメ息をつけば自分の白い息が空気に溶けてゆき、それを追って顔を上げれば、クリスマスのキラキラとしたどこか楽しげな光景が目の前に広がっていた。


(クリスマスか……)


 そんなことを考えながら歩いていると、駅に着いた。


「万里!」


 ホームに入るとすでに知佳が待っていて、私に気付くと手を振ってきた。


「知佳。ごめん、待った?」


「大丈夫だよ。今来たとこ。あ、お花、もう買ったんだね」


「うん」


「えーと、じゃ、とりあえず行こうか。電車が来ちゃう」


「……うん」


 知佳の言葉に私が頷き、私たちは改札へと歩いた。




 *




 さっき先輩に言った、寝不足だというのは本当で。

 昼過ぎの少し人が少ない電車の中、知佳と座席に並んで座り揺られていると、すこしぼんやりしてしまう。


「……知佳、なんか、ごめんね」


 ぼんやりとした意識の中、言葉がポロリと出た。


「ん?」


「……イヴなのに……。予定とか大丈夫だった?」


 チャラ男とはあれからどうなったんだろう。

 彼氏ができたらちゃんと教えてくれるのが知佳だけど……。


「ああ、大丈夫大丈夫。気にしないで。今は万里のほうが大事だから」


「知佳……」


「……最近、眠れてないんでしょう? 夜、ウチ来ていいよって言ってるのに。お母さんとお父さんも心配してたよ。今日は絶対ウチに泊まりなね」


「でも、迷惑……」


「もー。ウチらそんなこと気にする仲じゃないじゃん。ご飯だってちゃんと食べてないんじゃない? 顔色、悪いよ?」


「…………ふ……っ……」


「ありゃりゃ。泣かない泣かない」


「だって……もう3年経つのに、私全然で……。心配かけてばっか……」


「万里。『まだ』3年だよ。……大丈夫、万里をちゃんと支えてくれる人ができるまで、私が側にちゃんといるから。それまでは私に甘えな? ね?」


 知佳がそう言って、ハンカチを目に当ててくれる。


「それ以上泣いたら目が腫れちゃう。そんな顔見せたらおじさんもおばさんも心配するよ? ……着いたら起こしてあげるから、ちょっと寝なさい」


「……うん。ありがと」


 知佳の優しさにさらに涙が溢れそうになりながら、私は知佳の肩に少しもたれて目を閉じたのだった。



 ――――電車の揺れに体を任せる。







 今日はお父さんとお母さんの、命日だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ