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来世でも一緒に  作者: 霜月
本編
34/63



(うーん、伊藤先生が言ってた本……どこだろ……?)


 私はあれからすぐに適当な教室でサンドイッチを食べ、大学の図書館へと来た。


 伊藤先生とは私がこれから見学に行く研究室の教授で、夏休みに入る前にあった講義の際に、先生がオススメだと言っていた本を探しに来たところである。


(誰かが借りちゃったかな……って、あった!)


 天井近くまである本棚が立ち並ぶ中、大体の目星をつけて探していると、とある棚の上から3段目のところにお目当ての本のタイトルを見つけた。


(……くぅぅ~っ! 届くけど、取れないぃ~!)


 手を伸ばすと辛うじて届く位置にはあったが、棚に本がピッチリ収まっていてなかなか取れない。


 一度諦めて踏み台を探したが、残念ながらその辺には見当たらなかった。


(あと、ちょっと……「ひぇっ!!」


 腕を伸ばして爪先立ちになり、目を閉じて指先の感覚に意識を集中させてなんとか取ろうとしていると、不意にその本が引き抜かれた。


 驚いて目を開けると、いつの間にか自分の後ろに人が立っていて、慌てて後ろを振り返ると1人の男性が私に本を差し出していた。


(あれ? この人さっきの売店の……ナポリサンドの人……?)


 ジーンズにTシャツ、見た目にあまり気を使わないタイプなのか、伸ばしっぱなしと思われる長めの黒髪にネイビーの眼鏡。


 その姿に見覚えがあるなと思っていると、彼が口を開いた。


「本」


「え?」


「……取りたかったんじゃないの?」


「え、あ、ありがとうございます!」


 慌てて受け取りお礼を言うと、小さく「いえ」と言って彼は去って行った。


(取ってくれたのは助かったけど……なんか無愛想な人だったな……)


 本の表紙を開き中を確認しながら、私はそんな事を思ったのだった。




 *




 ……コンコン。


 研究室のドアをノックすると、「どうぞ~」と言う声が聞こえたのでドアを開けて覗いたが、中は無人だった。


 あれ? と思い、部屋の中を見渡す。


 正面にはブラインドがかけられた窓。

 そして、左右には作業机が2つずつ壁に向かうように置いてあり、さらにその手前には左右1つずつドアがあった。

 左の机の上には2つともパソコンやら本やらが置かれているが、その机の主たちも今は居ないようだ。


「……伊藤先生? 市川です」


 私が声をかけると、右の机の手前にあったドアが開いて先生が顔を出し、「ああ、市川君、よく来たね」と笑顔でそう言った。




 *




「……と、言うわけで、実験を何度も繰り返し、ただひたすら値を記録していく。地味な作業だけど、まぁ、研究というのはそういうものだよね」


 研究室入って右のドアは、先生用の部屋へと続いていた。

 今はその部屋で資料をすこし見せてもらいながら、研究室の説明を受けているところだ。


「なるほど……」


「えーっと、それで……どうする? 他の研究室のような派手さはないけど、やる事は意外と多くてね。市川君が手伝ってくれるならウチとしても助かるんだけど」


「……。はい。お手伝いと呼べる程の事が出来るかは分かりませんが、精一杯頑張ります。よろしくお願いします」


 実は、1年の時に伊藤先生の講義を受け、その時から先生の研究室に興味があったのだ。

 今までに他の研究室の話も聞いたりはしたがいまいちピンと来なかったし、やはり来年は先生の研究室に入ろう、だったら今のうちから慣れていたほうが良いかもしれないと、そう思って私は先生からの提案に同意した。


「本当かい?! いやぁー、助かるよ! ほら、ウチの研究室って地味でしょう? 他に生徒が流れちゃってさ、今3年生が2人いるだけだったんだよね! もうじき彼らも就活が始まって忙しくなるし、2年生の夏休みから見学に来てくれるような熱心な子が手伝ってくれるなら、彼らも助かると思うよ!!」


「彼らってことは、男の先輩ですか?」


 先ほど見た机の上を思い出す。

 たしかに言われてみれば、置いてあった小物もモノトーンな物が多く、男性が使っているようだったなと思った。


「そうそう。長谷川君と小柳君っていってね。大丈夫、優しい子たちだよ」


 先生がニコニコとその名前を出したちょうどその時、先生の部屋のドアをノックする音がした。


「はい」


 先生が返事をすると、「ただいま戻りました~」と言いながら1人の茶髪の男性が顔を覗かせ、さらにその後にもう1人、黒髪の男性が顔を出す。


 その黒髪の男性と目が合った瞬間。


「「あっ」」


 私とその男性が同時に声をあげた。


「ん、何? 智也の知り合い?」


 茶髪の男性が黒髪の男性に声をかけるが、ふるふると黒髪の男性は首を横に振った。


「あれ? そうなの? じゃあ、紹介しなきゃね」


 今度は先生がそう言って、その男性たちを少し手招きした後、私とその人たちの間に立った。


「市川君、こちらがさっき話した長谷川君と小柳君。2人とも3年生だよ。結構優秀な子たちだから、分からない事があったら彼らに聞くといいよ」


 先生がそう言うと、長谷川と呼ばれていた黒髪の先輩が無表情でペコリと頭を下げ、小柳と呼ばれていた茶髪の先輩がニコやかに手をヒラヒラさせてきた。


「長谷川君、小柳君。こちら、市川君。今2年生でね、来年ウチの研究室に入りたいって言って見学に来てくれたんだ。今夏休みだし、今度からデータ取り手伝ってくれるって!」


「あの、市川です。研究は未経験で分からない事ばかりですが、足手纏いにならないように頑張りますのでよろしくお願いします」


 先生が私を紹介してくれたので、私もそう言って頭を下げた。


「わー! いい子ー! え、なに、今度から来てくれるの? マジ助かる!! あ、オレ、涼っていうの。小柳涼。よろしくねー!!」


 茶髪の先輩がフレンドリーに声をかけてきたかと思えば、肩を叩かれた。

 耳にはたくさんのピアスが付いており、話し方も相まって若干チャラい印象を受ける。


「おい、涼。その子引いてんぞ。……やめてやれ」


 私が固まっていると、黒髪の先輩が間に入って肩を叩くのを止めさせてくれた。


 ちなみにだが、茶髪の先輩は少し驚いた後に黒髪の先輩を凝視して固まっていた。


「教授は早く作業に戻ってください。後の説明は俺たちがしときますんで。あ、机、使ってもらいますよ?」


 黒髪の先輩が先生に声をかける。


「いいよいいよー。余ってるし! ごめんね、市川君。もう少し話をしたかったけど、僕、これからちょーっと学会の準備があってね」


「いえ! 今日はお時間を取って頂いてありがとうございました!」


 先生がこちらを向いたかと思えば申し訳なさそうに眉を寄せて微笑んだので、私は慌ててそう言い、先生にお辞儀をした。


「いいっていいって。これからよろしくね! ……じゃあ、長谷川君、小柳君。市川君と仲良くね! 後よろしくー!」


 先生はそう言うと、私と先輩たちを先生の部屋から出し、パタリとドアを閉めてしまった。


 何となく先輩たちと顔を見合わせると、黒髪の先輩が口を開いた。


「今日のこれからの予定は?」


「今日は夕方からバイトが入ってて。……すみません」


「ああ、いいよいいよ。こっちもまだ何も準備できてないし。えーっと、じゃあ、詳しい説明は次来た時ってことで。……それでいい?」


「はい。ありがとうございます。あ、先程も……ありがとうございました」


「え、何? やっぱ知り合いなの?」


 私がもう一度黒髪の先輩に頭を下げてそう言うと、茶髪の先輩が間に入ってきた。


「あ、ちょっと、図書館で高いところにあった本を取っていただいただけで……」


「え?! 智也が?! 女の子に本を!!?」


 茶髪の先輩の驚きぶりに私も少し驚く。

 ちょっと助けてもらっただけだが、そんなに驚くような事だったのだろうか。


「マジで智也が?! ええーー!!」


「……涼、うるさいぞ。……じゃあ、……市川、さん? とりあえず今日はこの辺で」


「あ、はい」


 その後、黒髪の先輩に促されて次の予定を確認し、私は研究室を後にした。


 ちなみに。

 その間茶髪の先輩は1人でワーワー言っていて、黒髪の先輩にずっと無視をされていたのだった。

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