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「智也先輩、この分のデータ打ち込み終わりました」
「ん? ああ、ありがとう。助かるよ」
あの見学の日からもうすぐ1ヵ月が経とうとしている。
あれから私にも研究室の机を1つ与えられ、課題やレポートもここでしていいよと言われてから、バイトのない平日の日中はほぼ毎日大学のこの部屋へと来ている。
黒髪の先輩こと智也先輩もほぼ毎日大学へ出てきているようで、自然と顔を合わせることも多く、会話にも慣れてきた。
と言っても。
智也先輩は基本無口であまり沢山は話はしていないのだが、それでも、同じ空間に居てお互い無言でも特別居心地悪く感じないのは寧ろ楽だなと思う。
その一方で、茶髪の先輩こと涼先輩は夕方から出て来ることが多く、帰りにすれ違うことはあっても部屋で一緒になることはなかなかない。
その為会話の回数は少ないのだが、涼先輩の持ち前のチャラ……フレンドリーさから、会えば普通に会話もでき、2人を『名前+先輩』呼びするようになったのも涼先輩に「下の名前で呼んでよー!」と、お願いされたからだ。
ちなみに机の配置としては、部屋に入って左奥が智也先輩で、その隣が涼先輩、右奥の机を私が使わせてもらっていて、私の隣の机は空いているのでみんなのちょっとした荷物置き場と化していた。
「えーと、今日はこれで終わりかな。ありがとう」
智也先輩がそう言った。
「分かりました。じゃあ、えーと、どうしようかな……」
スマホを見ると、『14:21』の数字がロック画面に映し出されている。
(バイトに行くにはちょっと早いし……。あー、レポート書かないといけないんだった。資料探しに行かなきゃ)
そう思い、私は荷物を纏めながらPCに向かって何かを打ち込んでいる先輩に声をかける。
「智也先輩、私、今日はあがりますね。図書館行ってそのままバイトに行ってきます」
すると、智也先輩が顔をこちらに向けた。
「図書館か……俺も行こうかな」
智也先輩はそう言うと、PCをスリープ状態にして立ち上がった。
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「「……雨?」」
研究室がある学生棟を出ると、太陽が出ているのにサァッと小雨が降っていた。
「……狐の嫁入りだな。」
「ですね」
「傘は持ってないし。……走るか」
「はいっ」
図書館まではそう遠くはないし、雨も然程強くはない。
私たちは顔を見合わせて頷くと、2人で雨の中へと駆け出した。
*
「やべぇ。結構濡れたな」
「なんか途中で強くなりませんでした?」
「なったなった。……あーもー」
私たちが走り出してすぐに雨が少し強くなり、私たちは思っていたより濡れてしまった。
ただ、図書館に着く頃には雨はあがり、すでにカラリと晴れている空が恨めしい。
見ると、智也先輩は眼鏡を外しTシャツの袖で顔を拭いていた。
「ああ、先輩、私タオル持ってます。使って下さい」
タオルを1枚持っていると何かと使うので、ハンカチとは別にいつも清潔なタオルを常備するようにしている。
(カバンに入れといて良かった)
そう思いながらタオルを差し出すと、先輩がこちらを向き、目が合った。
「悪いな。助かる」
先輩はそう言って私のタオルで濡れた所を拭いていく。
(……智也先輩って、目の色、グレーなんだ。珍しい)
私も自身をハンカチで拭きながらそんな事を考える。
眼鏡が外され、顔を拭くために前髪もかき上げられていて、初めてまともに先輩の顔を見た気がする。
整った顔をしてるなぁとは前々から思っていたが、眼鏡を外すと想像以上にイケメンで、その瞳の不思議な色も相まってちょっとドキッとしてしまった。
「市川、ありがとう。えーっと、洗って返すわ」
「いや、大丈夫ですよ。私もこれ洗いますし、1枚も2枚も変わらないので」
笑顔で自分が持っていたハンカチを見せると、「じゃあ、今度なんか奢る」と言いながら、先輩がタオルを返してきた。
「……先輩の目、珍しい色ですね」
なんとなく、タオルを受け取りながらその言葉を口にする。
「あー……、そう? ……変な色じゃねえ?」
「え?」
先輩から返ってきた言葉を受けて、じっと瞳を見つめてしまった。
変な色だなんてとんでもない。太陽の光を反射して煌めくその瞳は見惚れる程に綺麗だ。
「……変な色じゃないです。すごく綺麗じゃないですか。まるで磨かれたグレーダイヤみたい。とっても素敵で、私は好きです」
気付いたらそう言っていた。
「グレーダイヤ……?」
「知りません? グレーダイヤモンド。……名前の通りグレーカラーのダイヤモンドなんですけど、『運命の人と巡り合う』とか『永遠の愛』とか。後は……『持ち主の願いにリンクして必要なパワーを与える』だったかな? 他にも色々と良い意味と効果を持つ石らしくて、ウチの両親の結婚指輪に使われてたんです。光を当てるとキラキラ光って、先輩の瞳みたいにすごく綺麗なんですよ」
(指輪見せてもらうの、好きだったなぁ……)
「そう、なんだ。いや、俺、あんまりこの目好きじゃなくて。隔世遺伝らしいんだけど、珍しい色だろ? 昔よくからかわれてさ。……俺、兄貴がいるんだけど、兄貴はきれいな青い目してるから余計、なんか、なんで俺だけこんな変な色? って思ってて……。でも今の話聞いて、ちょっとこの色好きになった。……サンキューな」
そう言って目元をほんのり赤くして笑ったその笑顔を見て、……ちょっとキュンとしてしまった。
というか、ヤバイなって思った。
「い、いえ! なんかすみません、急に語っちゃって! えっと、あ、服乾きましたし、中に入りましょ!!」
耳と頬に熱が集まるのを誤魔化すように、私は慌てて先輩に図書館へ入るよう促したのだった。




