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来世でも一緒に  作者: 霜月
本編
33/63



 ――――そこは真っ暗な世界だった。



 落ちているのか、浮上しているのか、留まっているのか。

 それすらも分からない、そんな世界で。


 不意に、何か音がしていることに気が付いて、何故だかその音を止めなければならないと思った。


(止めなくちゃ。うるさいから。……早く、早く)


 その衝動に急かされるまま浮上する意識とともに、私は真っ暗な世界に手を伸ばしたのだった。



 

 *




 ピピピピピ……ピピピピピ……


(うー……もう朝ぁ……?)


 浮上した意識の先では、カーテンの隙間から差し込む光が目に眩しくて、私は手探りで枕元に置いてある筈のスマホを探した。


(……あった。…………あれ?)


 ……ピピピピピ……ピピピピピ……


 目をショボショボさせながらスマホの画面を見ると、私のアラームは既に止まっており、音は別のところから鳴っているのだということに気が付いた。


「暑っ……」


 今は夏。

 つけていた筈のエアコンはいつの間にか止まっていて、部屋には熱気が籠りつつあった。


(あー、そっか。昨日久しぶりにバイトが休みだったから知佳(ちか)の家で話してて……泊まったんだっけ)


 体を起こしながら、そんなことを考える。


 知佳とは家が隣同士という、幼稚園からの幼なじみだ。

 高校までは一緒だったが大学では別々になってしまい、たまに時間が合えばどちらかの家に行って近況を報告しあっている。


 夏休みに入りお互いバイトや課題で忙しくしていたが、昨夜はたまたま時間が合ったので、久しぶりに知佳の家でおしゃべりをしまくったのだった。


 ピピピピピ……ピピピピピ……


 未だ鳴り続けるアラーム音の出所を探すと、テーブルの向こう側に転がるタオルケット芋虫の横で、ピンクのスマホの画面が明るくなっているのが見えた。


「知佳、起きて。朝だよ。アラーム鳴ってる」


「んー……? 万里(まり)ぃ? 今何時……?」


 私が声をかけると、芋虫がモゾモゾと動いた。

 タオルケットの隙間から手が生えたかと思ったら、スマホを探してラグの上を彷徨っている。


「何時って、自分のアラームの時間も忘れたの? ……えっとね。9時。……9時?!」


 一気に寝惚けた頭がクリアになった。


「ご、ごめん、知佳! 私もう行かなきゃ! 今日は研究室の見学をさせてもらうって先生と約束してたんだった!」


 寝汗をかいていてベタベタするから、シャワーを浴びてから大学に行きたい。

 その為には一度家に戻らなくては。


「んー。わかったぁ~。私今日……ふぁぁ……バイト昼からだから、まだ寝とく~……」


「わかった! じゃ、おばさま達によろしく言っておいてね! おやすみ! 行ってきます!」


 私はそう言って、「いってらっしゃ~い」と言いながら手をヒラヒラさせる芋虫がいる部屋を、慌てて後にしたのだった。




 *




「ただいまー」


 知佳の家の隣。

 自分の家に帰って玄関のドアを開ける。


 誰からの返事もないが、特に気にする事なく自分の部屋に行き着替えを取ると、お風呂で軽く汗を流した。


(干したりしてる時間ないから、乾燥までかけちゃうか……)


 そう思い、脱いだ服やタオルを洗濯機に入れ、『洗濯~乾燥』のスイッチを押して私は大学へ行く準備に取り掛かった。




 *




 いつものように電車に乗った後しばらく歩くと大学に着いたので、そのタイミングでスマホを見ると時間は昼前だった。


(うーん、研究室の見学は1時の予定だし、その前に図書館行きたいんだよなぁ。っていうか、お腹空いた……。夏休みだけど、学食どうかな? それとも売店で何か買ってどっかの教室で食べちゃおうか)


 そう思い、学食の横にある売店へ向かう。


(……ナポリサンドあるかな?)


 ナポリサンドは、学食のおばちゃんたちが作っているこの売店の名物の1つだ。

 焼きそばパンのナポリタンバージョンのようなやつで、ピーマンや玉ねぎ、ウインナーがたっぷり入った甘めのナポリタンが、細長いコッペパンに挟まっている。


 ボリュームがあるのに安くて美味しいので、男の人たちに特に人気があって、焼きそばパン派とナポリサンド派に分かれ、白熱した討論を繰り広げている人たちをたまに見かける。


 私は特にどちらが好きと言うのはないが、まぁ、たまに無性にナポリサンドが食べたくなる時があるのは確かだ。


 ……年頃の乙女としてカロリーが少々気になるので、本当にたまにではあるのだが。


(あちゃー。やっぱ、なかったか)


 夏休みで、元々作っている数も少ないのかもしれない。


 食べられないと分かると余計食べたくなるが、無いのなら仕方がないと、私はサンドイッチと紙パックのコーヒー牛乳を手に取りレジへと向かった。


 レジには店員のおばちゃんがいて、学生らしきTシャツにジーンズというラフな服装をした黒髪の男の人と、Tシャツに短パンとビーサンを履き、明るめの茶髪を一つ結びにした男の人が何かを買っている。


 レジに並ぼうとその男性たちの斜め後ろに立った時に、黒髪のほうの男性の手にナポリサンドが握られているのがチラと見えた。


(!!! この人が最後の一個を買ったんだ! ……もう! あなたのせいでナポリサンド買えなかったじゃん!!)


 理不尽とは分かっていても、恨みがましい目でちょっと睨んでしまう。


 と、その時。

 その黒髪の男性が少し振り返り、長い前髪とネイビーカラーの眼鏡が見えた。


(ヤバっ)


 慌てて顔を逸らす。


 しばらくすると、会計が終わったのだろう、その男性たちはそのまま何かを喋りながら売店から出て行ったのだった。

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