三日月の夜の舞踏会 3/4
「マリー!! アレクおじ様ー!!」
ダンスフロアへ向かう途中、またしても名前を呼ぶ声がしたのでその声のしたほうを見ると、衆人の波の向こう、人々の頭より高い位置でこちらに手を振るリュカ殿下が見えた。
「殿下?!」
「リュカ?!」
驚いて、2人同時に声をあげる。
「お婆さま、見つけたよ! ラウル、あっちだ! あっちあっち!」
驚きながらリュカ殿下を見ていると、こちらを指さしながら下を向いて何か言っている。
その騒ぎに気付いた人々がどんどんと道を開けていった。
人々が割れてできた道の向こうに、近衛騎士の服を着た老齢の男性に肩車をされたリュカ殿下と、その前を歩く王太后陛下が見える。
「あれは王太后陛下か? 長らくお姿を拝見していなかったが……」
「あの子、王太后陛下をお婆さまと呼んでいたわよ? あの黒髪といい、もしかして第一王子殿下?!」
「ラウルって、前国王陛下専属近衛騎士だったラウル様か?!」
周りの人たちがザワザワと話をしているのが聞こえる。
その中を。
ルイーズ陛下たちはゆっくり堂々と歩いて来られ、私たちの前で立ち止まる。
「……お忍びで出てきたハズなのに、バレちゃったわね」
そう言って、ふふふと笑うルイーズ陛下を前に、私たちは唖然とするしかなかったのだった。
*
「……母上。あの様子をお忍びと言うのは流石に無茶ですよ」
「だって。あなたたちを見付けるにはああするのが一番手っ取り早かったのよ」
あのままあの場所で話をするには注目を集め過ぎていたので、ちょっと会場の端の方へと場所を移した。
リュカ殿下がラウル様に抱っこされながらキャッキャと私に話かけてくる横で、アレク様とルイーズ陛下が話をしている。
「まったく、父上といい、母上といい、ラウルを振り回して……」
「なによ。人を手のかかる子どもみたいに言って。どうしてもマリアンヌの姿が見たかったの。それにリュカからマリアンヌに会いたいって泣き付かれたのよ? 仕方ないでしょう?」
「それにしてももう少し登場の仕方を考えて下さいよ」
「だから言ったじゃない。あれが一番手っ取り早かったの!」
「……ハァァ」
2人のやり取りを微笑ましく思っていると、リュカ殿下が私を呼んだ。
「マリー! マリー! 聞いて! 最近ボクお勉強頑張ってるんだよ! 本もたくさん読んでるんだ!」
「まあ! それはエライですね!」
「でしょう?! 大きくなったらマリーみたいに物知りになりたいんだよ!」
「そうなんですね! すごい! 私が殿下のように勉強を頑張るようになったのは、5才を過ぎてからでしたから、殿下のほうが私よりすごいですわ!」
「そうなの? じゃあ、ボク、マリーより物知りになれる?」
「ええ! きっとなれますわ!」
やったーと喜ぶ殿下が可愛らしい。
「あ! そうだ!」
殿下はそう声をあげると、いそいそとラウル様の腕から降りた。
その様子にまだくどくどと話をしていたアレク様とルイーズ陛下もこちらを見る。
「マリー、見ててね!」
小さい殿下がさらに跪いて小さくなったかと思ったら、私に手を差し出してきた。
「え、えーと、うつくしいおじょうさん! ワタシと一曲おどってくれませんか!」
大人4人の目が点になる。
「あ、あれ? こうじゃないの? ボクちがった?」
慌てた様子で手をワタワタさせる殿下が可笑しくて、可愛くて、思わず手を取ろうとしたところで、アレク様に止められた。
そのまま手を押し戻されてポンポンとされる。
(???)
頭にハテナを浮かべていると、アレク様がリュカ殿下を抱っこした。
「リュカ、マリーをダンスに誘いたいのか?」
「うん!」
「うーん、じゃあ聞くけど。お前、ダンス踊れるの?」
「え、ヒラヒラ~ふよふよ~って、すればいいんでしょう?」
「……リュカ。マリーをダンスに誘いたいなら、自分もダンスを習って、私より上手に踊れるようになってからじゃないとダメなんだぞ」
「えー」
「えーじゃない。マリーはダンスも上手いんだ。ダンスが下手な男は嫌われる」
「やだぁー!」
「じゃあ、これから頑張れ。……私もマリーに嫌われないよう必死にダンスの練習を頑張っているんだから」
そう言ってリュカ殿下をラウル様に渡すと、少し微笑んで頭を撫でていた。
「母上、私たちはもう行きますよ。マリーの姿は見たし、リュカもマリーに会ったんだ。もういいでしょう?」
「……そうね。後は適当にあなたたちのダンスを見てから帰るわ。
マリアンヌ。またお茶会しましょうね。……うるさい男は抜きで」
「ふふふ。ぜひ」
「バイバイ! マリー! またね!」
リュカ殿下と、ラウル様までもがバイバイと手を振ってくださったので、私も笑顔で振り返す。
「マリー、行こう」
アレク様に促されて、今度こそと私たちはダンスフロアへと向かったのだった。




