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サンドイッチやナポリサンドを乗せたお皿と紅茶のセットをトレイに乗せ、1人でアレク様の書斎へと向かう。
サラは「お邪魔になってはいけませんから」とウインクをした後、厨房の入り口前の廊下で手を振ってきた。
ちなみに、その横でポールもいい笑顔で手を振っていた。
書斎の扉の前に着く。
(……そういえば、アレク様と2人きりになるのは初めてではないかしら?)
朝食の際もジルやサラが側にいるし、護身術を習う時やダンスの練習の時も誰かしらが側にいる。
(うぅ……なんか緊張してきた)
早くなりだした心臓の鼓動を落ち着けるため、1つ深呼吸をしてから扉をノックする。
……コンコン。
「……誰だ?」
「アレク様、マリアンヌです。……入ってもよろしいでしょ
ガチャリ
言葉を言い終わる前に扉が開き、慌てた様子のアレク様が顔を出した。
「マリー? どうしたんだ? 何かあった?」
「い、いいえ! あの、そろそろ休憩をとられないかなと思いまして。軽く食べられそうな物をお持ちしたんですが……」
そう言って、トレイを見せる。
「え、あ、ああ。そうだったんだね。ありがとう。ちょうど腹が減ったなと思っていたところだったんだ。……入って」
「……失礼します」
部屋に入ると、応接用だろう、右側に2人掛けのソファがテーブルを挟んで2脚置いてあり、そして左側には大きめの書斎机が置いてあった。
机の上には書類や資料用と思われる本が整えられて置いてあり、机の後ろにはびっしりと本で埋まった本棚が置いてある。
アレク様からソファに掛けるよう促された。
テーブルにトレイを置き、紅茶の用意をしようとティーカップに手を伸ばしたところでアレク様が横に座る。
……たしかに。
大きめのソファなので2人で並んで座っても十分余裕があるが、横にこられるとは思ってなかったので心臓がドキリと跳ねた。
横でアレク様が私の動きを見ていると思うと緊張して手が震えそうになるが、なんとか堪えて紅茶を淹れる。
「……紅茶をどうぞ」
「ありがとう。ああ、いい香りだ。マリーは紅茶を淹れるのも上手なんだね」
笑顔でアレク様に紅茶を出すと、アレク様もふわりと微笑んで褒めてくださった。
「甘いものにしようかと悩んだのですが、男性ならもう少しボリュームのあるほうがいいかと思いまして、サンドイッチにしましたの。お口に合うといいのですが……」
「ああ、どれも美味しそうだ。さっそくいただこう」
そう言うと、アレク様は本当にお腹が空いていたのか次々とサンドイッチを食べていく。
「……ああ、これ好きだな。……うん。これも美味い」
さすが騎士団を率いる男性と言ったところか。
その細身の体型に反してペロリとサンドイッチを食べてしまった。
「ところで、これは? 初めて見る……サンドイッチ? だね?」
アレク様がナポリサンドを指差して聞いてきた。
「えっと、それは、ナポリサンドといいまして、……私が作りましたの」
「ナポリサンド? ……名前も初めて聞くな。でも、これも美味しそうだ。いただくよ」
アレク様がナポリサンドを食べる。
「……美味い。マリー、これ美味しいよ。でも、なんだろう? 初めて食べるはずなのに、どこか……懐かしいような……?」
そう言って、アレク様はお皿に乗っていたナポリサンドをこれまたペロリと食べてしまった。
「うん。気に入った! また作ってくれないか?」
「もちろんですわ」
私がそう言うと、アレク様は満足そうに頷いて紅茶を飲み干した。
「マリー、ありがとう。君のおかげで腹も満たされたし、元気も出たよ」
アレク様が膝の上に置いていた私の手をポンポンと優しく叩きながらそう言ってくれる。
「……いいえ、アレク様。お礼を言うのは私のほうですわ」
そう言って、私はアレク様の手を両手で握り返した。
「アレク様。今日に限らず、お忙しいのにいつも私の事を気にかけてくださって、ありがとうございます。……私、以前は、貴族の令嬢として愛のない結婚を命ぜられても吝かではないと思っておりました。それが私の役目だからと。でも、実際に婚約が決まりこの屋敷に来た時は……情けなくも、正直、不安でいっぱいでしたの。
しかし、アレク様はそんな私にお花を用意してくださり、私を護ってくださると、愛してくださるとおっしゃった。そしてその言葉通り優しく私に歩み寄り、寄り添ってくださっていますわ。
……アレク様。私、今、本当に幸せですの。私を選んでくださって、本当にありがとうございます。今更かもしれませんが、……心からお慕いしております。これからもお側に置いてくださいませ。」
そう言って頭を下げた後に顔を上げると、少し目を見開いて驚いた表情のアレク様と目が合った。
アレク様の手がゆっくり伸びてくる。
そのまま、ゆっくりと。
まるで私の存在を確かめるように抱き締められた。
ギュッとされているのに苦しくないところがなんとなくアレク様らしくて、無性に愛しさを感じて涙が出そうになる。
私も背中に腕を回すと、一瞬、彼の体が震えたのを感じた。
「おかしな事を言うかもしれないが、……私はずっと前から君を探していた気がするんだ。幼い頃から心に穴が空いているような気がして、ずっと苦しかった。
でも、嗚呼、苦しかったけど……諦めなくて良かった。君が腕の中にいるというだけでこんなに満たされた気持ちになるなんて。本当に……。
マリー。私からもお礼を言わせて。……婚約を受けてくれて、ありがとう。これからもずっと、必ず、君を護り続ける。だから……これから先も側にいてくれ。…………愛してる。マリー」
そしてその言葉と同時に、更にキュッと抱きしめられた。
しばらくしてからアレク様の体が少し離れる。
顔にかかっている髪を優しく耳に掛けられた後、顎にアレク様の指が添えられて。
その指に促されるように顔を少し上げれば、息がかかりそうな距離にアレク様の顔があって。
――――私は自然と、目を閉じたのだった。




