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来世でも一緒に  作者: 霜月
本編
19/63

Side サラ



「マリアンヌ様、こちらです」



 マリアンヌ様がこちらの屋敷に来られてから数ヶ月経ち、夜に吹く風にも少しヒヤリとするものが混じるようになってきた。

 そんな夏の終わりを感じるようになってきた今日この頃。


 今日は、マリアンヌ様の結婚式用のウェディングドレスと、約一ヶ月後に控えている王家主催の舞踏会にて着ていただくドレスを作るために、王都で今一番人気があるショップのマダムに来てもらっている。


「こんにちは、マダム・ローズ。今日はよろしくお願いしますね」


 そう言ってマリアンヌ様がカーテシーをとられた。


(ああ……、いつ見ても美しいわ)


 その洗練された優雅さに惚れ惚れする。


「まぁまぁ! あの大公閣下がぞっこんと噂のお嬢さんね! あらぁー! こんなに可愛らしいなんて!」


「……ぞっこん? ……噂?」


 そうなのである。

 あの女嫌いとまで噂された旦那様は今やマリアンヌ様にぞっこんなのだ。帰宅して一番にジルさんに尋ねるのはマリアンヌ様の様子であり、私と会えばマリアンヌ様が不自由な思いをしてないかと確認される。


 この前のお休みの日に見せた旦那様の様子には、私もジルさんも思わず驚いて目を見開いてしまった程だ。あんなにも愛しいという感情がダダ漏れな表情は初めて……いや? 最近はよく見るか……?

 まぁ、それにしても! 旦那様が声を出して笑うなんて! それこそ初めて見た!!


 たしかに、かつての旦那様は女嫌いとの噂が流れてもおかしくない程に、その容姿に反して浮ついた噂の一つもなく、ジルさんやソフィさんを始め屋敷の人間はそれはそれは心配していた。


 それがだ。

 社交シーズン始めに開催された王宮での舞踏会に嫌々行かれたかと思ったら、帰宅して開口一番に「私はマリアンヌ嬢と結婚するぞ」とおっしゃられたから驚いた。


 それから巷では、旦那様が跪いてダンスを望み微笑みかけた女性は誰なのかと噂になり、それがシュヴァリエ侯爵家のご令嬢だと分かれば、今まで旦那様が誰も相手にしなかったのはマリアンヌ様という存在がいたからではないかという噂になった。

 最近の旦那様の雰囲気が柔らかくなったのも、ようやく正式に婚約し屋敷に招き入れたことで、可愛い婚約者と一緒にいられるようになったからではないかと言われている。


 まぁ、事実とは少し違うが、特別訂正しないといけないような噂ではないので、屋敷の人間は噂をそのままにしているのだ。


「ふふふ! いいのよいいのよ気にしないで! さぁさぁ、どんなドレスにしましょうかねぇ! 貴女はスタイルもいいし、その髪色はどんなドレスの色とも相性が良さそう! ああ、イメージがどんどん湧いてくるわ!」


 マダムはそう言うと、ものすごいスピードでデザイン画を描き上げていく。

 その間、マリアンヌ様はショップの女性スタッフによって服を脱がされ採寸をされていた。


「ソフィさん! マリアンヌ様はまだお若いですし、可愛らしい雰囲気をお持ちなので、プリンセスラインのドレスが良いと思います!」


「そうねぇ。でも、スタイルが良くてらっしゃるから、マーメイドも捨てがたいわ。レースのロングトレーンを後ろに流せば豪華だし。可愛いらしさの中に凛とした雰囲気も持つマリアンヌ様にピッタリよ」


「ああー、なるほど! マーメイドも有りですね! スレンダーラインも清楚さが醸し出されて良き!!」


「ふふふ。本当にどんなドレスもお似合いになるでしょうから迷ってしまいますわね。私も腕が鳴りますわ!」


 今日は私だけではなく、メイド長のソフィさんも一緒だ。

 2人で熱く語り合っていると、そこにマダムも加わり一緒になってワイワイと話し合う。


「まあ! なんて綺麗なお(ぐし)! 柔らかでサラサラで! お肌だって本当に白くてしっとりすべすべで羨ましいですわぁぁ!」


「手も足も長くて、ほっそり! ウエストはキュッとしてるのに、お胸は程よくお有りで! ちょっと失礼……まぁぁ! なんて柔らかさ! 大公閣下が羨ましいわ!」


 その横では下着姿のマリアンヌ様がスタッフの餌食になっていた。


 マリアンヌ様はこの屋敷に来られた時には既に美しく磨き上げられていた。

 シュヴァリエ侯爵家のメイドの腕にも感心したが、どうやら、マリアンヌ様自身も相当努力されているようで、よくお部屋でストレッチやマッサージをされている。ダンスも頑張っておられるし、食事にも気を使われているようで、コックのポールと話をするために厨房へ行かれる事も多い。


(当然よね! マリアンヌ様の努力に見合うよう私たちも頑張って日々磨かせていただいているんだから!)


 それに、この屋敷に来られてから確実に、内側から滲み出る美しさに磨きがかかっている。

 愛されている女性特有の美しさといったところだろうか、旦那様と一緒にいる時の、少し恥じらいを含んだ笑顔のなんと愛らしいことか! お互いに顔を見合わせて微笑まれている時のお2人は神々しさすら感じる。


(はぁぁ……! マリアンヌ様を『奥様』とお呼びできる日が待ち遠しいわ!)


 そんな事を考えていると、マリアンヌ様の慌てた声がしてハッとする。


「み、みんな! ありがとう! でも、ちょ、ちょっと落ち着いて!」


 慌ててマリアンヌ様を見ると、スタッフに押し倒されんばかりのマリアンヌ様が見えた。


「あああ! 申し訳ありません! マリアンヌ様があまりにお美しくてつい!」


「こんな美しい方のドレスが作れるなんて光栄ですわ! 絶対に素敵に着こなして下さいますもの!」


 まだ興奮冷めやらぬスタッフからマリアンヌ様を助け出す。


「あ、ありがとう……っ。サラ」


 …………。


 これは、あれだ。目の毒だ。

 こんな、下着姿で縋り付いてきて、頬と耳を赤く染め、潤んだ瞳で見上げてくるマリアンヌ様は、ソッチの趣味がない私でもクるものがある。


「……サラ、顔が真っ赤よ」


 ソフィさんがマリアンヌ様にローブをかけながら声をかけてきた。


「いや、でも、これは仕方ないでしょう?! ……危なかったー。もう少しで落ちるところでした」


「「「「たしかに」」」」


 みんなの声がハモる。


「……?? みんな何の話をしているの?」


「「「「マリアンヌ様は可愛らしいという話ですよ」」」」


 みんないい笑顔である。


「さぁさぁ! 採寸も終わった事ですし、デザインとドレスに使う布やレースを決めていきましょうね!」


 マダムがパンパンと手を叩いて促してきたので、今度はマリアンヌ様にも加わっていただき話し合う。


 最終的に。

 ウェディングドレスは、お2人が出会われた舞踏会にて、マリアンヌ様が着ておられたドレスに似せた純白のAラインのドレスになった。

 

 また、今度行われる舞踏会に着ていくドレスは、スレンダータイプに決まった。

 メインカラーは旦那様が普段着ている騎士服と同じ濃紺で、裾に行くにつれて黒くグラデーションになるようにレースが重ねられる予定だ。胸元には旦那様の瞳と同じ色のグレーダイヤを使ったネックレスをつけたいと、マリアンヌ様が希望された。きっとドレスとも合うだろう。


 ああ、結婚式も舞踏会も楽しみだ。


 ただ、舞踏会でこんなにも自分を意識した色を纏うマリアンヌ様を見て、旦那様が耐えられるかどうか……。


 それだけがちょっと心配になったのだった。

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