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衝撃の舞踏会から早くも2ヵ月ほど経ち、季節は春から夏へと移り変ろうとしていた。
閣下とはあれから一度だけ侯爵家へ挨拶に来られた時にお会いしたが、その際も無表情で、どちらかというと素っ気ない態度だった。
望まれた婚約だというのはやはり気のせいだったかと寂しい気持ちになったが、まぁ、貴族同士の婚約とはきっとこんなものなのだろうと思い直した。
婚約が決まった以上、閣下がどんな方であろうと、私は貴族令嬢としての務めを果たすために頑張っていかなければならないのだ。
そして今日。
私は花嫁修行の為、ガルシア大公の屋敷に移る。
結婚式は来年の初夏、ちょうど今頃に行われる予定で、準備期間はちょうど1年取れるかどうか、というところであった。
迎えの大公家の馬車で、ガルシア公の屋敷へと向かう。
ちなみに。
今日も閣下は仕事があって迎えに来られないと、謝罪の手紙が事前に届いていた。
その手紙を読んだ父と母、弟、アンナやマクシムまで怖い笑顔をしていて、閣下はお忙しい方なのだと、何故か私が宥めてまわったものだ。
窓の外へ視線を移す。
ガルシア公の屋敷は王都の一等地に建っていた。敷地は広く、門を通り、屋敷の前まで馬車で進む。
馬車がゆっくりと止まり御者が到着したことを教えてくれると、外から扉が開き、1人の壮年と思しき執事服を着た男性が待っていた。
その男性にエスコートされて馬車を降りると、外には、その男性の他に30代後半ぐらいと思われるメイド服を着た女性と、若い、私と同じくらいの年齢のメイド服姿の女性が立っていた。
視線で誰かを尋ねる。
「ようこそおいでくださいました、マリアンヌ様。私の名前はジルベール。ジルとお呼びください。この家の執事を務めさせていただいております」
男性が自身の胸に手を当てながらそう答えた。
「そして、こちらがソフィ。この屋敷のメイド長になります。その隣がサラと申しまして、マリアンヌ様付きのメイドとなります。本日より私どもが精一杯お世話させていただきますので、どうぞよろしくお願い致します」
ジルベールと名乗った男性が後の2人を紹介してくれて。それが終わると、3人が揃って頭を下げた。
「ジルに、ソフィに、サラね。私がマリアンヌよ。こちらこそ、これからよろしくね」
そう言って、笑顔で少し首を傾げると、3人とも少し驚いていた。
「それでは中へご案内致します」
3人に付き添われ、私はこれから暮らす事になる屋敷の中へと入った。
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「まぁ!」
玄関を抜けた先のホールには、多くのメイドやフットマンが整列して待っていた。
「マリアンヌ様、ようこそおいでくださいました。貴女様がお越しになることを、我々一同、心よりお待ち申し上げておりました」
手前の1人がそう言うと、皆が一同に頭を下げた。
「みんな顔を上げてちょうだい」
とりあえず歓迎してもらえたことに内心ホッとしながら、私は皆に声をかける。
「マリアンヌよ。これからこちらでお世話になるわ。どうぞよろしくね」
笑顔でそう伝え、ゆっくりと私も頭を下げた。
そうして挨拶が終わると、私はサラに私室となる部屋へと案内されたのだった。
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「結婚式を迎えられましたら、旦那様のお部屋の近くへと移っていただくことになりますが、婚約期間中はこちらのお部屋をお使いいただく事になっております」
そう言って通された部屋はパステルイエローと白を基調とした、日差しが程よく入る明るい部屋だった。
部屋の奥には天蓋付きのベッドと、その側にドレッサーがあり、手前にはテーブルとそれを挟むように2人掛けのソファが2つ置いてある。そして壁には3つドアがあり、それぞれがバスルームやトイレ、衣装部屋へと続いていた。
一通り見せてもらうと、ソファへと案内される。
私が横になっても十分に余裕がある大きさのソファは、ふかふかだが柔らか過ぎず、抜群の座り心地だった。
(ここで寝ても気持ちよさそう)
そんなことを考えていると、サラが笑顔で紅茶を淹れてくれた。
一口飲んで、一息つく。
「お疲れではないですか?」
「少し緊張して疲れたけれど。大丈夫よ」
サラが声をかけてきたので、笑顔で答える。
「旦那様に言われまして、出来る限りはご用意させて頂きましたが、まだ足りない物等ありましたらすぐにおっしゃってくださいませね」
「そうね……うーん、今のところは無いと思うけれど。何かあったらすぐに言うわ。ありがとう」
改めてサラを見る。
サラは明るめのブラウンの髪に、ダークグリーンの瞳をした可愛らしい女性だ。
歳は私と同じくらいだと思うが……。
「ねぇ、サラ、あなた歳はいくつ?」
「私は今年20才になります。マリアンヌ様付きのメイドが選ばれる際、旦那様がマリアンヌ様と歳が近い者がいいだろうっておっしゃられまして、私が選ばれたんですよ」
「そうなの?」
「マリアンヌ様が寂しい思いをされないようにと。歳が近いほうが色々と話が出来るだろうからとおっしゃっておいででした。こちらのお部屋も、マリアンヌ様に気に入っていただけるようにと、屋敷のメイド達に女性の好みそうな色や家具などを聞いてまわられて、急遽ご用意されたんです」
「……まぁ。アレクサンドル様がそんな事を?」
正直、意外だ。
「はい。私は2年前、旦那様が大公の爵位を得られ、この屋敷へ移られた時からこちらで働かせて頂いておりますが、あの様な旦那様は初めて見ました。マリアンヌ様のことをとても大事に思われているようですわ」
サラがとびきりの笑顔で言った。
(私の事を……大事に……?)
それにしては、余りにも素っ気なさ過ぎではないだろうか?
閣下の人柄がいまいち掴みきれない。
(まぁ、お会いした事も、言葉を交わした事も2回しかないのだから当然だわね。……今日、閣下が帰ってこられたら、もう少しお話が出来るといいのだけれど)
そう考えながら、私はもう一口紅茶を飲んだのだった。




