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第一章 8


「どうだ?綺麗な岩だろう。コイツを少し加工して墓標代わりにしようと思ってな。」


「ええ!キラキラと虹色に輝いていて、なんて美しいのかしら。それに表面も滑らかでスベスベしています。」


「これは虹光石といって、何万年と水に溶け込んだ虹の光を取り込んで生まれる自然の石なんだ。この辺では川によく転がってるから珍しいものではないんだが、この大きさのはなかなかないな。」


確かにこの森に住む者にとっては珍しくも無い鉱物である。

この森の外の者にしたら命を掛けないと手に入らない貴重な鉱物だが。


「でもこんなに大きな岩、どうやって加工するのですか?道具もなにもありませんよ?」


一庶民のファティもただ綺麗な石くらいの認識である。


「ん?まぁなんとかなるだろう。少し離れていてくれ」

「?・・はい」


少し不思議そうな顔をしてファティはオーキーの身長分程の距離を取った。

それを見てオーキーは手刀のようにした手の指先を岩の方へ向ける

途端に身体が発光し始める。


「わぁ!」

ファティは思わず声が出てしまった。


「―切―〈タリエンテ〉」

オーキーがそうつぶやくと、半月状の光が凄まじい速度で真っすぐ岩石の方向へ飛んでいき、その表面を薄く、滑らかに切り取った。

オーキーは岩石の周りを回りながら微調整しつつ、それを四度繰り返す。

するとそこには虹色に輝く、美しい三角錐のモノリスのような物が出来上がっていた。


「父親の名前はなんと言うんだ?」

「オルタナです」

「オルタナだな、わかった。」


すると今度は全身の光が人差し指に収束していく


「―穿―〈マルテラ〉」


一閃、光の粒子が細く長く、まるで糸を引っ張ったように伸びた。

それは真っ直ぐに岩へ伸び、その表面を削った。


本来この魔法は掌から放出し頑強な壁等に孔を穿ち、そこから弓などを放つなど、戦略的に行使される魔法である。


それを孔が空かないように微調整をしながら、行使している。それも指先でである。

これは熟練の魔導師であっても、そう易々と出来ることではない。


更にオーキーは魔法を重ねる

「―連―〈パラディドル〉」

魔法というのは本来詠唱を必要とするため、一人で連続発動など出来ない。

しかし、この魔法は事前に放った魔法を連続的に発動させることの出来る補助魔法

魔力消費も少なく非常に便利だが、事前発動魔法の魔力は等しく消費する

これはオーキーの自作魔法であり、無詠唱で魔法を行使できるオーキーだからなせる業である。


連続する光が余りの速さに途切れることなく繋がっていき

切り取られた滑らかな断面の一箇所に文字を刻んでいく


『ファティの父 オルタナ 愛だけを残し此の地に眠る』


完成した墓石の形は三角錐でその一面に文字が刻まれている

虹光石で作られた墓石は淡く虹色に輝きどこか神聖な雰囲気を醸し出す


「出来た、こんな感じでいいか?」

オーキーは自信なさげに聞いた


「ありがとう、ありがとうございます。」

ファティはぼろぼろと大粒の涙を流しながらお礼を言った


ほっとしたオーキーは


「あとは位置を調整して・・・」

広場の真ん中へ墓石を移動する


「切り出した岩の破片を墓石の周りに・・・」

そう言いながら自らで作り出した岩石の破片を墓石の周りに配置していく


そしてまた、つぶやくように

「―打―〈フラーペ〉」

岩石の破片が粉々に砕け散った。


砕石となった虹光石はそのまま墓石の周りに敷き詰められ、取り込んだ光を反射させ、色取り取りに輝きを放ち、幻想的な風景を生み出す。


「これで、よしっ」

「すごい・・・なんて美しいの・・・」


いつの間にかオーキーのすぐ横まで来ていたファティが、口を両手で抑えながら涙を拭うことも忘れて佇んでいた。


オーキーは仕上がりに満足そうに頷いていたが、ふと或る考えが脳裏を過った。


先程聴いた歌がまだ胸を焦がして求めている。

恐らく彼女の歌ならば届くのではないか。

そんな根拠のない確証があった。


「ファティ」


瞳を真っ赤にして、眦からはぼろぼろと水滴を溢れさせて、オーキーを見上げるファティ。


「ファティ、最後の仕上げは自分でやってみないか?」

「・・しあげ?」


涙で震える声で何を言っているのか分からないというような表情で聞き返す。


「そう、仕上げだ。どうせならちゃんと見送ってやりたいだろう?だから君がちゃんと送ってあげた方がいい。」

「私が・・送る」


「ファティの父親が宝物だと言ったそれを贈り、送ってあげたら良いんじゃないか?」


「宝物・・・歌」


「ああ、父親が道に迷わないようファティの歌で導き、大地へ還して上げるんだ。」


「私の歌で、お父様を・・」


「ああそうだ、出来るかい?」


「やります!」


止めどなく流れていたその涙を、袖でぐじぐじと乱暴に拭い去り真っ直ぐな瞳で応答する。


美しい新緑の眸は一切の迷いを映さない。


ファティは一歩前へ踏み出し墓石の前に立ち、スーッと体に風を送り込む。

小さな唇を一度引き締めて、開き、鈴を振るわせる。




声量は低く穏やかに、静かに、そして厳かに鎮魂の歌が森中に響き、風は共鳴する。


光の粒が淡い輝きを伴って大地からゆっくりと立ち昇っていく。

それは少しずつ数を増やし、森中から集まってきた。

光の粒が広場を埋め尽くす。



そしてファティの前に集まり、塊となって大きな光球を作った。


「これは予想以上だ、やはりファティの歌には特別な力が宿っている。」


耳を優しく撫でていく鈴の声音に魅了されながら、呟いていた。


光球がぼんやりと瞬くと、瞬間急激に拡散して空に昇る。

昇った空で帯状になりそのまま墓石に降り注ぐ。

大地に染み込みながら広がっていき、森が光り輝く。



そして美しき旋律が止むと、同時に光の粒も儚く消えた。


「お父様、私は、生きていきます。」


頬をつたう涙に憂いを残し、それでも彼女は強く言葉を結んだ。



第一章―完-




これにて第一章は完結となります

章のタイトルはあえてつけていませんでしたが

付けるとしたら『邂逅と葬送』でしょうか


第二章についてはしばらくお待ちください

また更新する時にはXでお知らせいたします


ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ああいう、淡々とした感じの詠唱も良いですなぁ~(*‘∀‘)✨
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