第二章 1
それは、唐突に訪れた
日課の薪割りをしていた少年の耳に
荘厳な鐘の音が聞こえた
突如、自宅前の景色は消え去り
視界は真っ白になった
その瞬間、爽やかな風が顔を凪いだ
気づくと遠くにぼんやりと光る何かがみえる
徐々にその光は像を結びはじめ
かろうじて人型とわかる形に納まった
人型ではあるが顔はない
輪郭もぼやけている
『・・・イ』
その光は声のような音のようなものを発した。
口はどこにも見当たらないのにどこから聞こえるのだろうと不思議に思った。
『・・ロ・・・ィ・・』
「僕の名前?」
光がいつの間にか目の前にあった
『ロイ』
今度はハッキリと聞こえた
「は、はい」
埒外のものから自分の名前を呼ばれ
驚いてどもってしまった
『対象者【ロイ】の適合を確認しました。これより認証を行います。』
無機質な声が頭に響く
頭の中に直接話しかけられているような
そんな感覚を覚える
「へ?」
状況も言っている意味も理解出来ず
少年ロイから気の抜けた声がもれる
『認証中・・・』
「あ、あの、あなたは、誰です・・・か」
理解できない状況に、当然の疑問を口にする。
『認証を取得しました』
『これより救済機構、賢者の実行に移ります』
「え? え? 救済って、わいず? なに言って・・」
その瞬間、頭に様々なイメージが流れ込んできた。
動物や植物、人間などの生きるものすべての成り立ちや構成
水、土、風、火、光、闇、自然現象の理
世界を巡る魔力の摂理
そのすべてが奔流となって頭の中に押し寄せる
「ああ・・・が・・」
少年は白目をむき、体は痙攣し頭を抱えてもがき苦しむ
凄まじいまでの情報の波に破裂しそうな脳を掻き出そうとするかのように
髪を引きちぎり声にならない叫びをあげのたうち回る
仰け反り、転がり、頭を叩きつけ、失禁し、泡を吹く
鼻から、目から、口から、耳から血が噴き出す
「あばばば、がが、あが」
消え入る意識の中、人型の光の声が響いた
『宣託は完了しました』
その声を合図にロイの意識はプツリと途絶え、世界は真っ暗になった。
***************
「そっち抜けたぞ! アイネ!」
ごつごつした足場、周りを見渡しても岩しか目に入らない茶色の荒野で
活発そうな赤髪の青年が後ろに向かって叫ぶ
「まかしてなの!」
同じく赤髪の少女が剣を振りかぶり揚々と応える
「カノンさん、防御膜を展開しますので、安心して突っ込んでください!」
深緑のローブを纏った少年が杖を構えて、前にいる美しい女性に声をかける
「あらぁロイちゃんたらやる気満々ね、おねぇさんに突っ込むとか。私、聖女ですのよ」
自分の体を抱くようにし、くねくねと腰をふる見目麗しいその神官服を着た自称聖女は、何もせず口を開かなければ完璧な聖女と呼ぶにふさわしい見た目の黒髪美女であった。
「戦闘中に何言ってんですかこの色ボケ聖女!」
そう、時と場合を考えずいつもこんな調子なので仲間からは『性女』だの『性色者』だのと呼ばれている
「いやん、ひどーい」
そんな悪態も気にする様子はなく、いつも通りの受け答えにロイはため息を吐く
「ふざけてないで早くジークさんの援護に入ってください。さすがにあの数を相手はジークさんでも危ないです」
現在、彼らはこの広い荒野で岩喰鬼と呼ばれる全身を硬い岩で覆われた猿のような魔物に囲まれ、絶賛戦闘中なのである
「はぁーい」
片眼をつむり仕方ないといった風に間延びした声で返事をした。
「アイネの方は僕が何とかします」
ロイは少しイラっとしたが、表情には出さず、しかし少し声に怒気がこもってしまった
「じ、じゃあ、行ってくるわねぇ」
さすがにからかい過ぎたかと冷や汗を一筋垂らしたカノンは凄まじい速度で魔物の群れに突っ込んでいった。
「まったく、あの人は普通にしていればちゃんと聖女に見えるのに」
といっても本来回復役なのに肉弾戦上等な聖女など聞いたこともないが。
やれやれと頭を振り、溜息をついたその時
「ロイ! こっち手伝ってなの」
赤髪の少女から助力要請がきた
「あ、アイネ、ごめん今行くよ!」
急いで詠唱を済ませ、防御膜を自身に展開し、少女のもとへ駆けつける
「こいつら結構硬くて厄介なの」
「全身岩の魔獣か。よし、それなら」
ロイはぶつぶつと何かをつぶやき、最後の一言で締めくくる
「―共振―〈レゾナンス〉」
瞬間、空気が震え、前方に見えない波が広がる
両手を組み、今まさにそれを振り降ろさんとしていた目の前の岩喰鬼が、突如動きを止めた。
その体は細かく激しく揺れ、ついには罅が入った。
「今だ、アイネ! 罅のところを狙って」
「わかったなの!」
岩喰鬼の真ん中に入った罅をめがけて、赤髪の勇者アイネは鋭く重い一撃を叩きこむ
「砕けろなの!!」
突き刺した刀身が眩いほどの光を放つ
全身を内側から切り裂かれるように、岩喰鬼はブツ切りに砕け散った。
第二章、始まりました。始まってしまった。
次話更新はいつになるやらですが、気長にお待ちください。
更新情報はXにてお知らせいたします。




