第53話 ビフレストへ
ホテルに戻ったオレとミラは、オリビアのために三人部屋へ移動した。
目の前には、金髪と銀髪の女子が二人。
普通なら浮かれるような状況なのに、部屋の空気はどこか重かった。
ミラは髪をとかしながら、静かに鼻歌を歌う。
オリビアは厳しい表情で、窓から見えるストックホルムの夜を見つめていた。
ミラが鏡越しにオレを見る。
「ねえ、翔くん」
「ん?」
「明日どこ行こっか? ヴォルヴァ会の屋敷には近寄るなって言われちゃったし、ヴィーゴもゼルも逃げちゃった……神様に会うって言っても……」
オリビアが横目でオレを見た。
実は、オレには気になっている場所がある。
「ビルカ遺跡……オリビアと初めて会った場所」
オリビアが静かに呟く。
「ブリッジ・オブ・ガルズ。アースガルドへの橋……か」
「ああ。あの時はグラムに邪魔されたけど……なあ、ミラ。あそこがアースガルドへの入口なんだろ?」
「うん、そう言われてる」
オリビアが窓の外へ目をやりながら呟く。
「ビフレスト……」
「ビフレスト?」
「アースガルドにかかる、神々しか渡れない虹の橋。そう呼ばれてる」
ミラの顔に笑みが浮かんだ。
「ヴォルヴァのくせに、ビフレストの存在を信じてなかった、私。なんでだろう、今すごくリアルに感じてしまう」
オリビアはミラの顔を見て、ふっと笑った。
「ミラ。あなたは不思議な子ね」
「不思議?」
「暖かい家庭で、優しい両親がいる。そんなあなたが、躊躇なく戦い、神話に切り込んでいく……」
オリビアの一言に、オレは初めてミラに疑問を感じた。
確かに、オリビアの言う通りだ。
オレといるだけで、ただでさえ命のリスクがある。
なのに、いつも楽しそうで、不自然なほど前向きで。
言われてみれば、不思議だ。
ミラは視線を窓の外へ移し、一瞬黙った。
「……そうかなあ?」
そう呟くと、オレの方を振り返る。
「誰かさんの影響かな。フフフ」
「いや、オレのせいかい!」
オリビアも頷く。
「確かに」
「オリビアまで……」
オレの影響?
そうとは思えないんだが……。
ミラはベッドの上に飛び乗った。
「よし! じゃあ明日はブリッジ・オブ・ガルズで、ビフレストを渡ろう!」
ビフレスト。
神々の世界へ繋がる橋。
空に浮かぶはずのない道。
本当にあるのか?
渡る?
どうやって?
わからないことだらけだった。
でも、ホッとした。
とりあえず、立ち止まらなくていい。
それだけで、今はよかった。
翌朝──
「こりゃあ……予想外」
大雨だった。
まるで、アースガルドへ向かうオレ達を拒むかのように。
ミラがスマホを手に取る。
「連絡船は大雨の影響で運行延期だって」
オリビアは窓の外を見つめる。
「とりあえず、雨が止むのを待とう」
オレはスマホを開いた。
────────────────────
《世界階層データ・シンクロ率》
《北欧神話》
アースガルド 22%
ヴァナヘイム 80%
アルフヘイム Locked
ミッドガルド 65%
ヨトゥンヘイム Locked
ニザヴェリール 20%
ヘルヘイム 55%
ニブルヘイム Locked
ムスペルヘイム Locked
────────────────────
とにかく、関わることで上がっていくこのシンクロ率。
アースガルドは22%……。
本当に北欧神話の神は、オレとは関わりたくないらしい。
────────────────────
《WORLD TREE RECONSTRUCTION》
Progress : 242 / 900(26.8%)
Status : Incomplete
Error:統合プロセスが未定義です
────────────────────
世界樹の再構築、26.8%。
再構築の意味はいまだにわからんが、各世界とのシンクロ率を上げれば世界樹を再生できるってことなんだよな……?
それって、いいこと……だよな?
────────────────────
《SYSTEM NOTE》
複数世界との共鳴を確認
警告:世界構造の再編兆候を検出
推奨:不要な干渉を避けてください
────────────────────
不要な干渉を避けてくださいって、シンクロ率を上げるには避けられないじゃん。
まあ、とにかくこの神話の神々に会う。
サニワのオレのやるべきことは、そこからだ。
その瞬間、首筋に一瞬、冷たい感覚。
ああ、わかってる──
「見てるなら、出てこいよ。」




