第52話 勝手にオレが来た
ノアがオレを睨みながら呟く。
「ヘルズ・エクリプス……」
なんでオレの方見るんだよ。
スマホが震えた。
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《レベルUP》
Lv8 → Lv9
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「でしょうね」
アイリが、オリビアに聞く。
「ヴィーゴとゼル。どうする?」
オリビアはミラに支えられながら立ち上がると、ヴィーゴが消えた先を睨んだ。
「ヴォルヴァ会との繋がりを調べる必要がある。今は動かないで。仲間全員に伝えて──ヴィーゴとゼルはオルド・イージスから除名したと」
アイリとノアは顔を見合わせて頷いた。
ノアがオリビアに視線を戻す。
「お前は?」
オリビアは少しだけ黙って、オレとミラを見た。
「……ヴィーゴとゼルを追う。翔、ミラ、ついて行かせて」
「ああ、行こうぜ」
ノアは訝しげにオレを睨んだ。
なんだよ。
「ノア、アイリ。何かあればすぐに報告は入れて」
アイリは、言葉の代わりに“OKサイン”を出した。
オレ達三人は、ノアとアイリを置いて教会を出た。
「うん、大丈夫。無事だよ」
ホテルに向かう帰路、ミラはエリクに電話をした。
オリビアは自分の指輪を眺めていた。
「なあ、オリビア」
「ん?」
「その指輪、どう?」
「うん。これ……」
オリビアは両手で剣を握る仕草をして見せた。
重なる二つの指輪。
カチ。
「あ」
「そうなの。両手で剣を握ると、紋様がピッタリ合う。そうなるように作られてるみたいに……」
「へえ……。もしそうだとしたら、すげえな、あの鍛冶屋」
オリビアはオレの顔を見た。
「その鍛冶屋、気になる」
「じゃあ、今度行ってみようぜ」
「うん」
また指輪を眺めるオリビアの横顔。
さっきまでの険しい顔が嘘みたいに優しくなっている。
オリビアは何度も指輪を見て、口元に笑みを浮かべた。
その横顔は普通の女の子にしか見えなかった。
バカ強いけど。
「なあ、オリビア。ノアの守神って誰?」
オリビアはクスッと笑った。
「フフッ。フォルセティ」
やっぱり。
「はは、どうりでオレのことが嫌いなわけだ」
「秩序の神だからね。でもみんないい奴だよ」
「そうだな。てか、オルド・イージスのメンバーって何人いるの?」
「ヴィーゴとゼルが抜けたから、179人」
「ええぇ!? そんなにいるんか!? ……すげえな」
「でも、私はもうオルド・イージスには──」
オリビアは、言いかけて言葉を止めた。
オリビアの指先が、無意識に指輪をなぞった。
「うん、わかった!」
ミラは、電話を切った。
「エリクさん、なんだって?」
「ヴォルヴァ会の屋敷は特に変化無し。今は、屋敷には近づくなって」
オレは頭を掻いた。
「そう言われてもなぁ……」
その時、オレのスマホが震えた。
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《世界階層データ・シンクロ率》
《ヴァナヘイム シンクロ率:増加》
ヴァナヘイム 78% → 80%
《ミッドガルド シンクロ率:増加》
ミッドガルド 60% → 65%
《ヘルヘイム シンクロ率:増加》
ヘルヘイム 45% → 55%
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ヴァナヘイム、80%か。
「それにしても……この北欧神話のことがますますわからねえ」
静かに呟いたオレを見て、ミラが顔を覗き込んできた。
「わからない?」
「ああ。そもそもなんでラグナロクが起きるんだ?」
ミラとオリビアは顔を見合わせた。
「世界樹。ユグドラシルが枯れている」
オリビアが静かに口を開いた。
「ユグドラシルが衰弱すると、九つの世界の均衡が崩れ、境界が壊れる。本来交わらない力が漏れ出し、戦が広がる……北欧神話はそう警告している」
「そもそもなんで、世界樹は衰弱してんの?」
ミラが呟く。
「世界樹が衰弱するからバランスが崩れるのか、バランスが崩れたから衰弱してるのか、実際はわからないよね」
オレは大きなため息を吐いた。
「うん。ますますわからん。こうなったら──」
「こうなったら?」
「聞きに行こう」
「え?」
「それを知ってるやつに。神とか」
ミラは一瞬、オリビアを見た。
「オルド・イージスの件はどうする? ヴィーゴとかゼルとか、ヴォルヴァ会とか……」
オレの代わりにオリビアが答えた。
「神話は繋がってる。もしかしたら、それが近道だったりして……」
「決まりだ! 行こうぜ、ミラ! オリビア!」
ミラがポカンとオレを見つめた。
「どこに?」
「……いや、知らん。とりあえず......その世界樹ってのは、どこにあるんだ?」
「え?」
複雑で、掴みどころのない北欧神話。
謎、陰謀、神。
ぜんぶ“後出し”で振り回されてる気がする。
まあ、勝手にここに来たオレが悪いんだが。
……正直、ムカつく。
オリビアの手前、神に聞きに行くとは言ったが......ここは、神々が勝手に世界を動かしてる。勝手に決めてやがる、世界の行末も、人の運命も。
それが、とんでもなく胸糞悪い。
──喧嘩だな、こりゃ。
ストックホルムの景色が、歪んで見えた。
まるで、世界そのものが瞬きをしたみたいに。




