第51話 勝って入る迷宮
「もうアリスの意思は誰にも奪えない!」
次の瞬間──
地面に突き立てられた赤い剣から、緑と赤が混ざった衝撃が爆ぜた。
床を這うように広がった衝撃波が、ヘルジャッジの足元を真正面から打ち上げる。
「グ──ッ!?」
大剣の軌道が逸れた。
振り下ろされた刃はオリビアの肩を掠め、背後の床を砕く。
砕けた石片と青白い死火が舞う。
オリビアは踏み込んだ。
地面に刺したロングソードを引き抜きざま、低い姿勢のままヘルジャッジの懐へ潜る。
「テュール……!」
赤い閃光が、ヘルジャッジの胸を横一文字に走った。
オリビアの剣が、鎧を裂く。
裂かれた鎧の隙間に、緑の光が食い込んでいた。
ヘルジャッジがたじろぐ。
「なんだと!?」
オリビアの目が、燃えるように細くなる。
もう一閃。
今度は斜め下から、鎧の継ぎ目へ正確に斬り上げる。
青白い死火が噴き出す。
ヘルジャッジが咆哮し、空いた左手を振り下ろす。
オリビアは両手で握ったロングソードで受ける。
接触した瞬間、緑の光が弾ける。
「ぐっ……!」
仰け反るヘルジャッジの腹に、赤い閃光が突き抜ける。
腹に刺さったロングソードを掴んだヘルジャッジは笑った。
「フン! ここはヘルヘイム。我を倒すことは──」
「黙ってろ!」
オリビアの背を越えて、オレは飛んだ。
ヘルジャッジの顔面に、空中から拳を叩き込む。
《グリーンインパクト》
「グフゥ……!」
顔が跳ねた。
その一瞬の仰け反りを、ノアが見逃さない。
「拘束」
純白の光が、ヘルジャッジの胴と腕に巻きついた。
「今」
低いノアの声に、アイリが滑り込む。
金の閃光が二本。
肩口の継ぎ目へ、寸分違わず突き刺さる。
「痛い?」
アイリは、刺した剣を踏みつけて飛び降りる。
「グオォォォォ……!」
悲鳴を上げて顎が開いた、その喉元に──
「トゥシェ」
上から落ちた白い閃光。
ミラのレイピアが、喉を正確に貫いた。
喉を貫かれてなお、ヘルジャッジの大剣が持ち上がる。
だが、その刃が振り下ろされる前に──
「オリビア! 終わらせろ!」
オレは叫んだ。
オリビアが飛んだ。
赤と緑のオーラを纏って。
その背中に、アリスの気配が一瞬浮かぶ。
「アースガルドより──」
ヘルジャッジの兜の奥で、青白い火が見開かれる。
オリビアの瞳は、赤く燃えていた。
その奥に、淡い緑が宿っている。
「──ジャッジメント」
真紅の稲妻が落ちた。
ズドン。
一瞬、音が消える。
次の瞬間、衝撃波だけが遅れて教会跡を駆け抜けた。
真紅の稲妻が消えたあと、教会跡に静寂が落ちた。
ヘルジャッジの巨体がぐらりと揺れる。
兜の奥で燃えていた青白い死火は、ひび割れた鎧の隙間から漏れ出し──ふっと消えた。
ガシャァン……。
重い音を最後に、ヘルジャッジの身体は黒い霧になって崩れ落ちる。
それに合わせるように、周囲のドラウグル・ソルジャー達も輪郭を失い、青白い火を散らしながら消えていった。
教会の壁が軋み、
天井の埃がさらさらと落ちた。
空気が、軽くなる。
「……終わった?」
アイリの声に、しばらく誰も答えなかった。
ノアは、何も言わずアイリの肩をポンと叩いた。
オリビアは剣を握ったまま、ヘルジャッジが消えた場所を見つめていた。
赤と緑の光が、刃からゆっくり薄れていく。
「オリビア……」
オレが呼ぶと、オリビアの肩がわずかに揺れた。
次の瞬間、オリビアはその場に膝をつく。
「……ふう」
オリビアの吐息が静かに教会に響いた。
ミラは何も言わず、オリビアの肩を抱いた。
オレのスマホが震えた。
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《SYSTEM LOG》
敵性存在:全滅
ヘルズ・エクリプスフィールド効果:消滅
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……勝った。
そう思った瞬間、ようやく全身の力が抜けた。
「勝ったんだが……」
オレは気付いた。
何一つ終わってない。
何一つわかってない。
それどころか──
俺は、一体誰の物語に巻き込まれている?
北欧神話の迷宮。
深すぎる。




