第47話 グレンデルの右腕
「ヘルヘイム。来た」
アイリが呟いた瞬間、頭上にある教会の鐘がなった。
《敵性存在:確認》
オレが、ここ来ると絶対ヘルヘイム来るじゃん。
オレ達は、教会の外へ飛び出した。
墓地全体に立ち昇る黒い霧。
《敵性存在:ドラウグル複数確認》
オレが身構える前に、アイリが駆け出す。
「いい。アタシやる」
《アイリ共闘意思:確認》
はや。
「フリッグ!」
アイリは、走りながら守神の名を呼ぶと、両手を水平に広げた。
どこからともなく、その両手に現れる2本の金色に輝く剣。
《アイリ、フリッグとリンク確認》
双剣。
氷上を滑るように、金色の閃光が墓地に弧を描く。
光の軌跡が、霧を裂いた。
遅れて、“斬れた”音が届く。
斬撃の通り道にいたドラウグルが、まとめて両断された。
「速っ……!」
オレの声より先に、アイリは次の一歩を踏み込んでいた。
霧の中。
影が蠢く。
まだ来る!
アイリが囲まれた。
オレ達は駆け出した。
「ヴァルキリー!」
ミラは駆けながら、上空から落ちる白銀のレイピアを掴んだ。
「テュール!」
オリビアは、前方に突き出た真紅のロングソードを片手で引き抜いた。
「はああぁぁ!」
片手で振ったロングソードから、赤い衝撃波が地を裂き、ドラウグルの影を両断する。
その瞬間、地面が割れる。
墓地の中心。
墓石が吹き飛ぶ。
割れ目から、腐った息が噴き上がった。
その奥で、禍々しい巨大な曲刀が起き上がった。
「何だ!?」
「ドラウグルじゃない!」
《上位個体確認》
あいつか!
《敵性存在:分析》
識別名:GRENDΛL
分類:上位死霊戦士
脅威度:A
「こいつは、オレだ!」
オレの視界が緑に染まる。
《ワイルドブラッド反応値:上昇》
咆哮と霧で視界が揺れ、アイリの姿が一瞬だけ見えなくなった。
「グオォォォォ!」
グレンデルの咆哮で空間が歪む。
「関係ねえ!」
オレは飛んだ。
狙い。
グレンデルの頭。
一点……。
「おおおおおらあああぁぁぁ!!」
突き刺さった──脳天に。
《神技グリーンインパクト》
緑の光が、オレの腕を焼く感覚。
その閃光は、グレンデルを貫通して地面に突き刺さる。
その衝撃波が、周囲のドラウグルを吹き飛ばした。
フラついたグレンデル。
だが。
その体の隙間から漏れる炎をたぎらせて、再び大きく咆哮した。
耳を劈く轟音に、オレ達は耳を抑えた。
「流石に、これじゃあ終わらないよな」
ミラが呟く。
「翔くん。グレンデル、効いた」
「そうか?」
ミラが頷く。
「神話だと、グレンデルに刃は効かない。でも素手なら破壊出来る」
「じゃあ、どうやって?」
ミラはニヤリと笑ってオレの拳を指差した。
「翔くん、空手やってなかった?」
ミラが手刀を見せた。
「要は、素手で壊せばいいんだな」
「オリビアさん! グレンデルの気を引こう!」
「分かった!」
ミラが真っ先に踏み込む。
グレンデルは、曲刀を横に払う。
衝撃で墓石が砕け、地面が抉れる。
「ヴァルハラ!」
《神技ヴァルハラ・ステップ》
服の袖が裂ける。
ミラは残像を残しグレンデルの視界から消えた。
「トゥシェ!」
ミラの一撃が、グレンデルの膝を貫く。
巨体がバランスを崩して手をつく。
その瞬間、グレンデルの視界に、赤が映る。
「ジャッジメント──」
オリビアは、天高く掲げた真紅のロングソードを振り下ろした。
《神技ジャッジメントスラッシュ》
赤い衝撃波が、グレンデルを襲う。
グレンデルは右腕でその衝撃波を防いだ。
オリビアはニヤリと笑った。
「それ」
オリビアは、グレンデルに向けて手を翳した。
「私の狙い」
オリビアの手が赤く光る。
同時に、
グレンデルの右腕に赤い鎖が巻き付いた。
《神技フェンリルバインド》
《拘束:成功》
「翔くん!」
「翔!」
分かってる。
右手に緑の光が宿った。
踏み込んだ。
飛んだ。
拳を、手刀に変えて──
「悪いな、グレンデル」
緑の光が、グレンデルの右腕に弧を描いて落ちる。
ズドン!
手刀は、赤い鎖ごとグレンデルの肩口から切り裂いた。
「グオォォォォ!」
グレンデルの悲鳴で墓石が震える。
肩口から黒い炎を撒き散らしながら、グレンデルは咆哮と共に霧の奥へ退いた。
焦げた臭い。
墓地に一瞬静寂が落ちる。
オリビアが剣を下ろし、小さく息を吐いた。
冷たい夜風に木々のざわめきが戻った。
連携。
ミラ、オリビア──
北欧の戦い方、悪くねえな。
オリビアが息を吐く。
「……やった」
そう言葉が漏れた時──
オレ達の背後で、か細い声が聞こえた。
「オリビア……ごめん……後ろ、見えてなかった」
オレ達は振り返った。
オリビアが叫ぶ。
「アイリ!」
アイリの喉元に、紫の刃が光った。




