初めての召喚獣。
や、デッカイな……!?
それが初めて自分の召喚獣を見た感想だった。
身体が熱くなって、根拠なく“出来る”って思って。
天に差し伸べた手の先、太陽を、昼間の星を巻き込んでソレが形を成した。
“ふわふわしてて、可愛くて、黄色いキラキラした”その子は、学園を覆い尽くすサイズで。
“小さい”はどこいったのかなァ!?
召喚獣に命令する方法も知らないから、ただひたすらに『小さくなぁれ、小さくなぁれ……!』って念じた。
実際はどうするのが正しいの!?
あああ、お義兄さまに聞いておくんだった!
涙目になって念じ続けていたら、何がどう作用したのか、その子はどんどん小さくなって……わたしの手のひらサイズまで縮んでくれた。
呆然としていると、ノクトス先生がちょっと離れたところから「な、名前を!召喚獣に名前を与えて下さい……!」って。
なんかペットの名付けみたい。
わたしはお椀の形にした自分の手の中で『ぴっ、ぴっ』とご機嫌に鳴く──ヒヨコを見つめた。
「え……ぴーちゃん、とか……?」
『!ぴっ!』
まばゆい光とともに、ヒヨコに冠羽根と長い尾羽根が生まれる。
「ちょ、ちょっと待って!?いやいやいや!いまのはお試しと言うか!?もっとカッコいい名前をちゃんと考えるから──」
『ぴぴーっ!』
ぴょんと飛び上がり、くるりと回ってヒヨコが冠羽根と尾羽根をなびかせて……ぽすんと手の中に戻った。
「……ゴンザレス」
『……』
「……ステファニー」
『……』
「…………ぴーちゃん……」
『ぴぴっ』
あああああああ!ぴーちゃんになっちゃったよ──っ!
生まれて初めて魔力を使い、規格外の召喚獣を召喚した。
その結末がコレか……!
気力、体力を使い果たしたわたしはふらりと揺れて、ぴーちゃんを手に持ったまま前方に倒れ込んだ。
「ルルさま!」
「ルルっ!」
バミとディーが駆け寄るより速く。
ぽんっ。
ソファくらいのサイズに変化したぴーちゃんが、ぽふんとわたしの身体を受け止める。
あ……ふかふか……てか、疲れたよ……。
ちょっとだけ、休憩させて……。
少しだけ、と目を瞑ったわたしは、そのまま意識を手放した。
夢を見ていた。
大きく変化したぴーちゃんの背中に乗って、大空を飛ぶ夢。
朱雀が一緒に飛んでいた気もするけど、ぼんやりしていて……良く分からない。
空を飛ぶ夢って、夢占いでなんかあったよね?
なんだっけ……「現状を変えて自由になりたい」とか、解放を望む心理の現れだっけ……。
んー、いまのわたしにぴったりの夢かも。
“顔だけ令嬢”の呪縛から自由になりたいな……。
でも、今日のわたし頑張ったのでは?
──お義兄さま、褒めてくれるかなぁ。
どれくらい飛んだのか、大きな屋敷の上空に……あれ、なんかロックフェルド公爵邸に似てるような……おお、真っ青に光る龍が飛んできた。
夢ってすごい。
……夢の中でも眠たくなるとか、ほんとスゴイ。
ふわぁ……お休みなさい……。
「ルル!?──朱雀、何があったんや!」
『落ち着いて、主。ルル様が召喚の儀式を成功させて……この子を得たの』
『なんと……これほどに強大な召喚獣を得るとは。初めてでこの成果。末恐ろしいですな』
「……急激に魔法を扱って、体力切れ起こしたんか。召喚した相手がコレやったらしゃあないわな……」
誰かが優しく頭を撫でてくれる感覚。
そして温かいふわふわの綿毛に埋もれているような感触。
はわ……幸せ。
「青龍、学園に連絡を。しばらく休ませなあかん」
『かしこまりました』
ん……?学園……?
って言うか、さっきから関西弁が聞こえるんですけど……?
「う、んん……」
「!ルル!」
「え……お義兄さ、ま?」
そぉっと目を開いた途端、至近距離の金の瞳に吸い込まれそうになる。
ひゃっ!?
お義兄さま!?なんで、え!?
ち、ち、近ァ!
えええ!これって、どーゆー状況!?
焦るわたしとお義兄さまの間に、バミが身体を割り込ませる。
「ルルさま!大丈夫!?痛いところはない!?」
「え、あ、バミ……う、うん大丈夫だけど……なんか、ふわふわする」
「早くお部屋へ!あるじ……セレスさま!ほらほらぼけっとしてないで、しっかりしてくださいなっ」
「お、おう」
なぜかあたふたしているお義兄さまを、慣れた感じで叱り飛ばすバミ。
うーん、式神が強い。
『ぴぃ……?』
心配そうな鳴き声が身体の下から聞こえ、ハッと顔を向ける。
「ぴーちゃん!……あれ、大きくなってる……?」
「──ルル、その子に部屋に運ぶように命じてごらん」
「え?は、はい」
部屋に運んでって?でも……。
「大丈夫。主の匂いが一番濃い部屋にちゃんと向かうから」
「……ぴーちゃん、わたしの部屋に、運んでくれる?」
『ぴぴっ』
バサッ!
「うわっ」
視界が一気に変わり、強い風に身体が傾き、ぴーちゃんの羽毛に必死にしがみつく。
あわわわ、と、飛んでる!飛んでますヨ!?
しかもほんとにわたしの部屋に向かってるし!
でもロケットスタートは心臓に悪いからヤメて欲しいな──っ!
『ぴぴぴーっ』
なぜか自動で開いたバルコニーの窓から、風そのものになったぴーちゃんが部屋に飛び込む。
そしてその勢いのまま、わたしを背に乗せたままベッドに着地する。
──と、同時に部屋の扉が開き、メイド長を先頭にメイドさんたちが現れ、あっという間に囲まれる。
「お嬢様、お帰りなさいませ!」
「「「お帰りなさいませ!」」」
「さあ、寝間着にお召変えを!早く身体を休めて頂くのです!」
「「「はい!」」」
「ひああああ」
運動着を脱がされ、お湯で身体を清められ。
肌触りの良い寝間着を頭から被せられ。
気がつけば小さくなったぴーちゃんと、ふっかふかの布団の中だった。
お、おおう……相変わらずうちのメイドさんは有能です……。
コンコン。
ノックの音に思わず身体を起こしそうになる、のをぐっと我慢する。
いけない、いけない「ノックにはメイドさんが対応」するんだった。
「はい」
「私だ」
メイドさんがすっと扉を開け、お義兄さま達を通す。
他のメイドさん達はお茶をサクッと用意して、瞬きの間にお辞儀とともに退出していった。
「お義兄さま、わたし……魔法がを使う事が出来ました」
「うん」
「教わった通りに、魔力を意識して、それで」
「うん」
「ぴーちゃんが、来てくれて」
お義兄さまが頬に優しく触れる。
そして知らぬ間に溢れていた涙をそっと拭ってくれる。
「ルル、頑張ったね」
胸がキリリと痛み、漏れそうになる嗚咽を堪える。
「この子と飛んだ空はどうだった?」
「……と,ても青くて、綺麗でした」
お義兄さまに微笑まれて、涙が次から次に零れ落ちる。
「“出来ない”と思っていた自分に打ち勝った、君を誇りに思うよ」
「ありがとう、ございます……っ」
震える声で、精一杯の応えを返す。
どこかで自分に諦めていた、これまでのわたし。
何をやっても無駄だと踏み出せなかった、かつてのわたしに言ってあげたい。
ほんのちょっとの勇気で、変われるんだよって。
誰かに頼る事は、恥ずかしい事じゃないんだよって。
「……良くお休みのようですな」
茶器をトレイに乗せつつ、ブルーがベッドの中で小さな寝息を立てるルルに優しいまなざしを向ける。
「──天后」
セレスは治癒の力を持つ式神を呼ぶ。
それに応えて、たおやかな女性の姿をした式神が柔らかい光を放ち宙に立つ。
自分が呼ばれた理由を心得ているように、ベッドで眠るルルの元へ舞い降りる。
手をかざすと、仄かな光とともに疲弊したルルの心身を癒していく。
それに頷き、セレスは朱雀に向き直る。
「報告を」
「巨大な召喚獣を小さくした、と」
「ええ、その時ルルの身体から銀の光が溢れ出て……この子を覆い尽くして。その……」
「なんや?」
「私……」
珍しく言い淀むバミに、セレスとブルーの視線が集まる。
やがて意を決したバミが口を開く。
「──ルルから“光”を感じたわ」
部屋の空気がキンッと凍る。
式神が感じた“光”……セレスは一瞬目を瞑った。
この世界の魔法には沢山の属性がある。
火・風・土・水をはじめ、雷や氷など数多くの属性が存在するが、極稀にそれらすべてを凌駕する属性が生まれる事がある。
『闇』と『光』だ。
一世代にひとり現れるかどうか、と言う確率のため、伝説のように語られる属性。
これからの事を考えて、セレスは自然と厳しい表情になる。
だが、すやすやと眠るルルを見つめると、ふっと苦笑を零す。
「……とんでもない子やなぁ」




