デッカイ事はいいコトです。
「ルル、意識を自分の中の魔力に集中してごらん」
「は、はいっ」
はい、とは言ったものの。
自分の中の魔力に集中するって……なんぞ?
って言うか、ドコらへんにあるの!?わたしの魔力って!
ドコにあるかも分からないモノに、どう集中しろと!?
で、でもお義兄さまの休日の貴重なお時間を頂いてるんだもの。
何とか取っ掛かりだけでも掴んで、中間テストに活かさなきゃ……!
そう思って、小一時間。
まったくもって出来る気がしないいいぃ!
うっ、うっ、やっぱりわたしに魔力なんか無いんだぁ……!
「焦らなくて良い。目を閉じて。……ルルはどんな動物が好きかな?」
「え……ええと……小さくてふわふわしてて……可愛くて……?」
──あれ……なんだかオヘソのした辺りが、あったかいような……。
「うん。その子は何色?」
「色……色は……黄色くて……キラキラしてて……」
小声で、囁くようなお義兄さまの優しい声に導かれて、“何か”のイメージが湧いてくる。
その根源となる“わたしの魔力”の存在がほんの少し存在を主張し始めた。
たぶん。
「その黄色いふわふわの子は、飛ぶのかな?それとも走る?」
「その子は……飛ぶ……飛ぶの……高く……」
身体が熱くなって、心臓が痛いくらい胸を打つ。
若干の息苦しさを感じて浅く開けた唇から、荒い息が漏れる。
どこかでゴロゴロ……と雷鳴が聞こえる。
空気が重くなって湿り気を帯びるが、初めての感覚に夢中になっているわたしは気にも留めなかった。
「はぁ……あかんなぁ」
お義兄さまの呟きも、この時のわたしには聞こえず。
身体の中の“何か”から、“何か”が生まれる──そんな予感。
ゆらりゆらりと揺れる身体が大きく傾いで、そのまま後ろに倒れていく。
「!ルル!」
咄嗟に駆け寄ったお義兄さまの手がわたしに触れた瞬間。
ガシャ────ンッ!
公爵家の広大な庭に雷が鳴り響き──落ちた。
と、同時にわたしの中に生まれつつあった“何か”は、その気配もろとも霧散してしまったのだった……。
結局わたしは週末こんこんと眠り続け、目が覚めたのは日曜日の夕方。
あああ……もう明日は魔法実技の本番デスって、奥さま……ハハハ……。
お見舞いに来てくれたシャルも、心配そうに眉を顰めている。
「姉上、明日休む?」
「やなこったパンナコッタ……」
「でもさ……」
わたしは首だけ横に向け、シャルを見つめた。
「実技を欠席したら……ホラ見たことかと言う輩が必ず出てくる。わたしだけじゃない。ここぞとロックフェルド公爵家を悪しざまに攻撃する。そんなの……」
シャルと目を合わせ、拳をコツンと合わせる。
「「絶許」」
中間テストの魔法実技初日の朝は、わたしの心とは裏腹に雲ひとつない快晴。
シャルにはああ言ったものの、憂鬱なのは変わらない。
お義兄さまとの訓練、アレ途中でちょっといい感じになったと思うのよ?
身体が熱くなって……なんて言うか……上手く言葉にできないけど、“予感”がしたのに……。
肩をガックーンと落として馬車に乗り込む。
「ルル」
「お義兄さま!?もう騎士団に向かわれたと……」
慌てて馬車から顔を出す。
お義兄さまは窓枠に置いたわたしの指先を掬い上げ、きゅっと握った。
「ルル。私との訓練で君はなにかを掴んだ。それは間違いない。自信を持って良い……私が保証する」
「お義兄さま……」
「気休めで言っているのではないよ。私には分かるんだ。──君はやり遂げる」
お義兄さまの言葉に、訓練の時の感覚がチリっと意識の深いところを刺激した。
「楽しんでおいで、可愛いルル」
「かわっ!?」
にっこり笑ったお義兄さまは、御者に馬車を出すよう指示を出し、そっと馬車から離れた。
か、可愛いって!
お義兄さまがっ!可愛いって……!
えええええぇーっ!
「よっしゃ、姉上の気がそれた。さすあに」
「「それな」」
赤くなって両頬を押さえて悶えるわたしは、シャルたちが小声で頷き合っている事にも気づかなかった。
学園指定の運動着に着替えた生徒たちが、広々とした屋外鍛錬場に集合する。
他のクラスとの合同テストになるそうだ。
「ね、ルル、バミ。うちは殿下のクラスと組むみたいよ」
「あ、ほんとね」
「殿下のクラスは優秀な生徒が多いらしいわ……まあ、優秀なのは人格の話じゃないけど」
「あら……」
ディーの口ぶりから、殿下のクラスをちらりと見れば……ひとりの令嬢と目が合いそうになった。
目を合わせたが最後、「ちょっと!なにガン付けてんのヨ!」って面倒な事になりそうだったので視線を流して避けた。
あっぶな。
こう言う時の勘って当たるのよねー。
悪い方に。
くわばら、くわばわ。
「では皆さん、担任に自分の魔法属性を申告して、該当の列に並んで下さい。あとは各列の担当教師に従うように」
なるほど。
合同テストではあるものの、実際のテストはクラスごとに行うらしい。
うちの担任、ノクトス先生は今日も優しく生徒に指示を出してくれている。
ディーは土属性の魔法を自在に操り、バミは見事な火魔法を操り、喝采を浴びた。
バミはもう、自分の炎だからね……そりゃね……。
列はどんどん進み、いよいよわたしの番になった。
「はい、ロックフェルドさん。ではあなたの属性、もしくは今日行う魔法を教えてください」
「わたしは──」
「“顔だけ令嬢”が魔法ですって?見ものだこと」
不意に聞こえてきた不名誉なあだ名に、カチンと固まってしまう。
事態を察して、テストを終えた生徒の列からディーとバミが駆け寄ってきてわたしの横についてくれたおかげで、どうにか再起動する。
いかんいかん、しっかりしなきゃ!
それにしても、いったい誰が……。
珍しく眉間に皺を寄せたノクトス先生の視線の先を追えば……さっき目が合いそうになった令嬢だった。
うわぁー……嫌な予感的中ぅ……。
めっちゃ睨まれてるけど、なんかしたっけ……?話したこともないと思うんだけどなぁ。
まあ、ほっとくかー。
わたしは令嬢に構わずノクトス先生に向き直り、今日行う魔法の申告をしようとしたら。
「君は魔法より、人としてのあり方を勉強し直すべきですね」
「……っ」
いつも優しいノクトス先生からズバリと切って捨てられ、令嬢はぐっと唇を噛み締めさらに何か言い募ろうとした、ら。
「やめたまえ。うちのクラスの品位をこれ以上貶めないで欲しい」
クラスの列から歩み出て、令嬢をピシャリと止めたのは──誰あろう、アドレアス皇太子殿下だった。
「で、殿下!わ、わたくしは、ただ……!」
「我が皇国には魔力を持たぬ、だが才能に溢れる人々が大勢いる。その技は皇国の誉れと私は考える。君の意見は違うようだが」
うわ、うわっ、殿下ってば辛辣っ。
でもあの、わたしはそっと申告してサクッと今日という日を終えたいだけなんですぅ……!
けど、ここまで教師と殿下に庇われて、何も言わないってわけには……あああ。
「殿下、ノクトス先生。わたしが至らないばかりに申し訳ございません……でも、お気持ちはとても嬉しく、この後のテストも頑張れそうです(訳→早くテスト終わらせたいなー。ここらで手打ちにしよっ)」
「……君がそう言うなら」
「そうですね……ではテストを再開しましょう」
よっし。
わたしは殿下に礼をとり、ノクトス先生には会釈をして、改めて申告をする。
「わたし、召喚魔法を行いたいと思います」
目を閉じて、深呼吸をする。
自分の内側に意識を集中する。
“ルル。私との訓練で君はなにかを掴んだ。それは間違いない。自信を持って良い……私が保証する”
わたしが掴んだもの。
それが何か、正直はっきりと形は見えていない。
“私には分かるんだ。──君はやり遂げる”
でも、お義兄さまの言葉が力をくれる。
小さくて、ふわふわしてて、黄色いの。
キラキラ光って、高く、高く飛べるんだから。
熱くなる身体──でも、今度はしっかり足に力を入れる。
無意識に前に伸ばした両腕を、そのまま何かを受け止めるように天に向けて差し伸べる。
召喚魔法を使う時の詠唱も知ってはいたけど。
いま、それを使うのは“何かが違う”と本能が告げてくる。
だから、心のままに。
「────おいで」
高い鳴き声が聞こえた気がして、ゆっくり目を開ける。
どこまでも青い空の一点が金色に光り、太陽の光、昼間は見えない星の光を取り込み大きく成長していく。
その場の誰も、ひと言も発しない。
いや、発せない。
光はやがて大きな鳥の姿を形作り始めた。
その大きさは学園の敷地をすべて影にするほど。
このままでは、黄金の鳥がすべてを押しつぶしてしまうのでは──?
その恐怖がさざ波のように電波し、混乱が生じかけた時。
ルルの全身から溢れた銀の光がどこまでも広がり、黄金の鳥すらも覆い尽くした。
その光に触れ、黄金の鳥が小さく変化し……最終的にルルの手のひらに乗るほどとなった。
「お義兄さまに言ったの。わたしの子は、小さくて可愛くてふわふわ……」
「ぴ」
ルルが頬を寄せると、ふわふわの小さな鳥は嬉しそうに擦り寄った。
事態が収まったと知り、へなへなと地面にへたり込む者や泣き出す者もいた。
それ以上にルルを畏怖を込めて見つめる人々。
「──光属性……」
誰かがポツリと呟いた。




