陰陽師と召喚魔法!?
「……」
中間テストの筆記が終わった週末。
わたしはとある扉の前で、ノックをするため手を上げ……下げ、また上げて──下げる。
う、うううう、さっきからナニやってんのわたし!
目の前の重厚感満載の扉を見上げ、コクリと喉を鳴らす。
扉を見るだけで気圧されてどうするんだ!
勇気!勇気を下さい!アンパ〇マ──ン!
「ルル?」
「あ」
扉が内側から開き、顔を出したのは、お義兄さま。
そう、ここはお兄様の自室です……。
「どうしたんだい?また座り込んで……ほら、立ちなさい」
「は、はひ」
お義兄さまはわたしの手を握ると、さして力をこめる風でなく、ひょいと立たせてくれた。
ち、力持ち。
いや、魔法騎士としても名高いお義兄さまだもの、このくらいお茶の子さいさいなんだわ!
さすがです!
そのまま自然に部屋の中に入れてくれて、ソファへ誘導される。
ぽすんとわたしがソファに落ち着くと、ご自身用に置かれていたのだろうポットに手を添え──ポットから湯気が立ち昇った。
「!」
なんて事ないように行われたソレに、わたしは目を丸くした。
「お、お義兄さま!なんて繊細な魔法制御……!」
「うん?ああ、たいした事ではないよ」
照れくさそうにしてらっしゃるけども!
どんなに魔力の強い者でも、その制御が出来なければ“ポットを温める”なんて繊細な事は出来ない。
例えばいま同じ事を魔法制御の下手な者がしたら。
……ポットは焦げ落ちてしまっただろう。
手の中でほこほこと温かいティーカップの湯気を顎で受けつつ、ため息を漏らす。
わたしには到底無理だ……。
「で……私に相談事かな?学校の事?それとも公爵家での事だろうか」
向かいに座るお義兄さまは二十歳と言う若さで、騎士団の一個大隊を任されるほどの方だ。
わたしみたいな小娘の悩みに付き合わせても良いものだろうか。
「えっと、その……」
言い淀むと、ソファのわたしの両側に陣取る白虎と大きな亀──玄武(やっと会えた)が励ますように、擦り寄ってきた。
う、嬉しいんだけど、見えてない体は継続中だから目を合わせられないっ。
な、なんか申し訳ない気分になるわ……。
しかしそんな式神たちの気遣いに、よしっ!と心を決める。
「お義兄さま、せっかくのお休みにごめんなさい。あの、ちょっとご相談したい事があって」
「可愛い妹の話ならいつでも聞くとも。もしや、週末まで待ってくれていたのかい?」
「う、えっと」
「……ルルは気遣いの出来る優しい子だね」
よしよしと頭を撫でられて、思わず顔が熱くなる。
あ、あわ……。
「それで?わたしの可愛い妹を悩ませるのはどんな事だろう」
ハッ!いかん!
お義兄さまのなでなでに、魂抜けてた!
「……わたしの魔力について、なのです」
「魔力?」
「はい。週明けから、中間テストの魔法実技が始まるんです」
「ああ、シャルからも聞いているが……」
「わたしが……中等部の頃、周囲になんと呼ばれていたかもお聞きになりました?」
「え?いや」
わたしは俯いて、ティーカップを見つめる。
そこには自信の無さ気な目をした少女が映っていた。
「“顔だけ令嬢”──そう一部で言う者もおりました」
「……」
お義兄さまの顔から表情が抜け落ちる。
び、美男子の真顔、怖いいい!
「……誰が、そのような戯言を……」
お義兄さま、おおお落ち着いて!?
青筋がとんでもない事になってます!
「ある意味、本当の事でした……勉強の成績は良くもなく悪くもなく“ほどほど”で、特段身体能力が高いわけでも無く、身分は男爵家」
まぁ、学力については力をセーブしてたからアレだけどネ!
見た目ばかりが人の噂に登っていたとは確か。
お義兄さまはゴホンとひとつ咳払い。
「……魔力について、という事だったが」
「はい……その、お義兄さまから見て……わたしの魔力はどのように見えますか……?」
「どう言う事だ?いや、まずは……幼少期の魔力判定ではどのように言われた?」
ううーん、どんどん話しづらい方向に。
でも自分から聞いたんだから、言わないわけにはいかないよね。
めっちゃ黒歴史だが……!
「『分からない』と」
「なんだって?」
いや、言いたい事は分かります、分かりますよ!
権威と由緒ある聖教会が行う魔力判定で“分からない”ってなんだ!?って思うよね!
当時のわたしもそう思ったわー。
うわーん。
本来、七歳頃に行われる初めての魔力判定でおおよその属性が分かる。
もっとも、五歳くらいには無意識に魔法を使っていたりするもので。
『ああ、この子は火魔法が得意になりそうだな』とか、なんとなーく予想は出来るのだ。
ちなみにわたしの“観察眼”は、まぁいわゆる転生チートみたいなもんだと思ってたからなぁ。
小さい頃から周囲には黙っていた。
だから、教会の魔力判定の日『……分かりません』と言われた時もそんなにショックではなかった。
『そっかー。やっぱ転生者だからカナー?』程度。
魔力のな人も一定数いる世界だし。
そう言う人達は、別のジャンルに特化した才能を持っていたりする。
めちゃくちゃ頭が良い、とか歌が上手いとか。
「──そのどれでもなかったので、両親には泣かれました。ふふ」
特にお義母さまはガッカリしてたなー。
「子のあるべき姿をそのまま受け入れるのが、親と言うものだ。ルル……そのような仕打ちに慣れてはいけない」
「……」
うっかり視界が滲んで、慌てて瞬きをする。
「ルル、目を瞑って」
「え。あ、はい」
優しく言われて目を閉じれば、頭に乗せられた手から、じわと温かい“何か”を感じる。
なんだろう……これは……お義兄さまの、魔力……?
ぽかぽかしていて、とても優しい“触り心地”がする。
「ふむ……」
お義兄さまの声にそっと目を開ける。
「私からはどう見えるか、と言ったね。──ルルの魔力は、とても優しくて温かいよ」
「……それは……わたし、わたしにも、魔力がある、という事です、か」
「そうだ。……泣かないで」
言われて、自分が泣いていると気づいた。
ころり、ころりと零れ落ちる涙をお義兄さまが指で拭ってくれる。
気にしてないって思ってたのに。
魔力なんて、無ければ無いで構わないって思ってたのに。
「ただ……なんと言うか……まだ魔力がはっきりと形を成していない感じがする」
「?」
どゆこと?
魔力はあるけど、はっきりしていない?
んんん?
「そうだな。ルルの魔力は『何になろうかな?』って考え中なんだ、きっと」
そ、そんな事あるの!?
「魔力は均一的なものじゃないからね。覚醒する時期だって人それぞれだよ。火魔法が得意だと思っていた団員が、唐突に風魔法に覚醒したりね」
「まあ!」
うわー、魔法師団のお義兄さまのお話、説得力あるぅー!
お義兄さまはにっこり笑って、ぽんぽんと頭を撫でてくれてた。
白虎と玄武も『大丈夫!』『頑張れー!』って言ってくれてる気がする。
見えない振りしてるから、お礼言えないけどありがとね!
「つまり、ルルは可能性の塊ってわけだ。たとえ実技で良い点が取れなくても気にすることはない……だが」
腕を組んで何やら考えていたお義兄さまが、うんと頷く。
「ルル。召喚魔法を学んでみないかい?」
と、言うわけで。
わたくし、公爵令嬢ルルティア・ロックフェルド。
陰陽師から召喚魔法を学ぶことになりました!
マジで────っ!?




