鶏肉が大好きです!
目が覚めた。
パチリと音がしそうな勢いで瞼が上がる。
とんでもなく良い目覚めに、逆に頭がついていかなくて戸惑う。
窓から見えるの空は夜明け……いや、夕闇?
「……お腹すいた」
魔法実技のテストは朝一番だった。
いまが何時か分からないけど、一食か二食は食べ損ねているはず。
がっでむ。
『ぴっ』
「あ……ぴーちゃん」
枕元でまぁるくなっていたぴーちゃんが、ぴょんと胸の上に乗ってきた。
「おはよ……ふふ」
可愛い冠羽根を指で撫でると、気持ち良さそうに目を閉じてわたしの手に擦り寄ってくる。
そう言えば、前世は実家で猫を飼ってたんだよね。
丸っこくて可愛かったなぁ。
よく引っ掻かれたけども。
『ぴっ!?ぴぴっ!』
自分を撫でながら猫の事を考えていたのが伝わったのか、ぴーちゃんがぷんぷん怒ってつついてきた。
あっ、いてて。
「ごめんってー。浮気じゃないよー」
『ぷぴー……』
ううう、うちの子ってば怒っても可愛い……!
それはさておき、何か食べる物あったっけ。
いや……前世と違って、その辺にポテチとか買い置きないわ。
公爵家ぞ、ここ。
ちらりとベッドサイドテーブルの上の小さなベルを見遣る。
コレをチリンと鳴らせば、たちまちメイドさんが現れるに違いない、けど。
朝にしても夜にしても、人を呼びつけるには申し訳ない時間な気がする。
そもそも“ベルで呼び出す”って言う行為自体がねー。
なんかねー。
生粋の令嬢なら、躊躇なく鳴らすんだろうけど……。
──いやまて。
わたしだって令嬢の端くれ、端くれって言うか公爵令嬢。
ベルのひとつやふたつ、鳴らしたってバチは当たらないのでは。
そっとベルに手を伸ばす。
「……鳴らして、なんて言うっての」
起きました、お腹空きましたって?
こんな時間に?
だから何だって言われたら泣いちゃう!
うわーん!
お腹減ったよーっ!
「ポテチ……ホットケーキ……おでん……」
『ぴ?』
「……この際、ぴーちゃんでも良いか……」
『!?ぴぃ──っ!』
ぴーちゃんのほっぺたをはむはむすると、まんまるの目を落ちそうなほど見開いて、すんごい勢いで部屋の隅に逃げた。
やだなぁー、冗談なのに。
でも……鶏肉って、美味しいよね……。
『食欲が出てきましたか?良い兆候です』
「そうなんですよぉー、お腹減っちゃって……え」
え?え?え?
『黄金の不死鳥からの力の供給も上手くいったみたいですね。良かった』
なんだか知ってる気配。
でも、知らない声。
ギギギ……と声のする方に顔を向ける。
「──!?」
わたしは咄嗟に口を押さえて悲鳴を飲み込む。
ベッド脇に天女が立っていた。
『ふふ。お早うございます。お加減はいかがでしょう?顔色はだいぶ良くなりましたね』
「あ、えと……すごく、元気デス……」
でも、いま元気じゃなくなりました……。
だって、だって。
式神と話しちゃったよ────っ!
『始めまして、ルルさま。わたくしは天后と申します。ルルさまのお身体に治癒を施しておりました。以後、お見知りおきを』
「あ、ご丁寧にどうも。ルルティア・ロックフェルドと申します。公爵令嬢やってます」
って、思わずまた話してしまった……!
でもでも仕方ないんだ……!
挨拶されたら挨拶を返す、これ社会人の常識なのだ……!
──あ、そうだ。
わたし前世は社会人だったわ。
こんな時になんだけど。
『ぴっ!ぴっ!』
『あらあら。ふふ。いくらお腹が空いても、召喚獣を食べるのはおすすめしませんわ』
どうやら、ぴーちゃんはわたしに食べられかけたと訴えている模様。
『美味しくありませんから』
……味の問題なんだ。
『でも……なぜ使用人をお呼びになりませんの?そのための鈴でございましょう?』
天后がたおやかな白い指でベルを指差し、不思議そうに首を傾げる。
もうこれだけ話してるんだし、わたしは開き直って肩をすくめた。
「えっと、お腹すいたって……呼びつけるのも申し訳ないかなと。えへへ」
『まぁ……』
わたしはベッドに座り、そっと足を床に付けてみる。
よし、ちゃんと足に力が入るぞ。
「天后──さんのおかげで大丈夫そうです。ありがとうございました!」
『いえ、あの?どちらへ?お休みになって?』
「ひとっ走り厨房まで行ってきます。サンドウィッチとか作るの得意なんで!」
『いやいやいやいや』
『ぴいぴいぴいぴい』
歩き出したわたしの腕を、天后が掴みぴーちゃんがしがみつく。
『鈴を鳴らしましょういますぐ鳴らしましょう、ええわたくしが鳴らします……!』
かくしてベルは鳴らされ、やはりと言うか、次の瞬間にはメイドさんがドアをノックしたのだった。
式神の天后さんとうっかりガッツリ話した日から、今日で二日目。
「……あの、お義兄さま」
「ん?」
「もう、わたし元気になったと……」
お義兄さまの式神と、ぴーちゃんのおかげでお肌もツヤツヤになりました……。
読んでいた書類をテーブルに置いて、お義兄さまがわたしのおでこに手を当てる。
「……確かに魔力はだいぶ上手く“回ってる”ね」
魔力が?回ってる?
「でも、思い出してルル。君は数日前まで自分の魔力を感じる事すら出来なかったんだ。それが──いや、急激な変化に身体が慣れるまでは、いい子だから大人しくしておいで」
そう言ってわたしの横の髪を、そっと耳にかけてくれる。
うぐ……っ!
指先まで色っぽいってズルい……!
剣を扱う大きな手は分厚くて、気をしっかり持っていないと擦り寄ってしまいそう。
でも、でもですヨ!?
「で、でも、騎士団のお仕事をここでするのは……お義兄さまのご迷惑になるんじゃないかって」
「そんな事はない。ルルが急に具合が悪くなってないかと気を揉むより、ここで仕事をする方が安心だし合理的だろう?」
「ソウデスカ……」
合理的かも知れないけど、違うそうじゃない……!
「ほら、横になって。私の事は気にせず休みなさい」
「(休めるか────っ)ハイ……」
だ、誰かお義兄さまの過保護を止めてええぇ!?




