貴族っぽい、とは。
白や薄茶を基調にした広い部屋は、見るからに『女の子が憧れるお姫様のお部屋』って感じの設えで。
猫足の机ひとつ取っても高価だと分かる。
あええ……わたし、この机で予習復習テスト勉強とかするの……!?
「ルルティアお嬢様、お召し替えを。テラスでセレスさまがお待ちでございます」
「──はい」
っても、いま着てるのが手持ちの中で一番上等なんですけどー?
さてどうしたものかと思っていたら、メイドさんは躊躇うことなく壁面のドアに手をかけた。
あ、もうひとつ部屋が……え。
「さあ、ルルティアお嬢様!今日のご気分はいかがでしょう!?ご気分に合わせたドレスをお選びします!」
「えっ」
「美しい銀色のお髪に合わせてピンクなどは!?ピンクはここからここまで!微妙に違うお色を取り揃えております」
「えっ、えっ」
「「「さあさ!お支度いたしましょう!」」」
「あああああ」
アディール家の自室サイズの衣装部屋に目を丸くしていたら、キリッとした感じだと思っていたメイドさんたちが豹変したよ!?
あっという間に一張羅を脱がされ、何着ものドレスが目の前にズラリと並ぶ。
えー、ええー、そもそも家の中でわざわざドレスに着替えるって何事ですかネ!?
え?食事の時にも着替えるの?マ?
公爵家ではこれが普通なのかな?と納得しかけて、メイドさんたちのキラキラした熱意の籠もった目に気づく。
そう言えば……公爵家の女主人は早くに亡くなって、セレスさまはひとりっ子。
──つまり、わたしは久しぶりの“女の子”なわけだ。
公爵家のメイドともなれば教養高く、ドレスの着付けやヘアアレンジなどにも長けているはず。
でも、それを披露する機会がロックフェルド公爵家ではほぼ無い。
これまでは。
分かった……分かりましたよ……。
着せ替え人形になるよ、あたしゃ……。
……それにしても。
「あの、この衣装部屋のドレスって……」
「はい!もちろんセレスさまがお嬢様のために手配された物でございます!」
「ドレスだけではございませんっ。さまざまな場面に対応できるよう、準備しております!これなどは東の国の“ニンジャ”の衣服だとか!」
「なぜニンジャ」
なんか頭が痛くなってきた。
半ばヤケクソで大人しく淡いピンク色のドレスを着て、姿見の前に置かれたスツールに座る。
メイドさんの手によって、せいぜいハーフアップにする程度だった髪が緩く巻かれてリボンで留められる。
うわー、皆さん器用!
さすが公爵家のメイドは違う!
男爵家でメイドと言えば、主に掃除やちょっとしたお客様対応が主な仕事で、わたしの身支度については乳母が手伝ってくれるくらい。
それだって、ほとんどは自分でしてたからなぁ……。
いやー、公爵家と比べる事がそもそもおかしいんだけど。
軽く化粧まで施され、出来上がったのは『ザ☆美少女』!
ほんとに、今世のわたし顔がイイ!
中身が残念でスイマセン……。
ちょっぴり凹んで窓の外に視線を向けると、それは綺麗な庭園が見えた。
イングリッシュガーデンっぽくて素敵……!
「わ……綺麗」
思わず呟くと、メイドさんたちが嬉しそうに微笑む。
「それは良うございました。『ルルが安心出来る場所を作りたい』と、セレスさまが庭師に作らせたのです」
「──わたしのために?」
「はい」
んん!?
わたしのために、庭……庭園を作らせた!?
「ルルティアお嬢様のお部屋からも、美しいお庭が見れるように設計されております」
「ほ、ほぁ」
こ、これが公爵家クオリティ……!
スケールが違いすぎる……!
先頭にメイド長。
次にわたし。
後ろに二人のメイドさん。
そんな一行でテラスに向かう途中なう。
場所を教えてくれたら、一人で行けますけど?とか言っちゃいけない。
わたし空気の読める、やれば出来る子なんで。
一階に繋がる階段を降りながら、さっきのメイドさんとの会話に出てきた言葉──“ニンジャ”──を反芻する。
東の国、ニンジャ。
まあ……“忍者”だろうなぁ。
あの衣装部屋はセレスさまが手配して下さったもの。
そして、忘れちゃいけない。
わたしは確かに聞いたのだ。
セレスさまの口から零れた──
“あかん……めっちゃかわええ……!”
関西弁をさぁ!
あの時、咄嗟に聞こえなかった体で「え?」とか聞き返したりして。
セレスさまもめちゃくちゃ不自然に会話を切って「じゃっ!」って行っちゃたけども。
あれ、絶対に関西弁だったよね!?
ネイティブの皆さまからしたら、『あれは神戸!』『これは京都!』とかいろいろあるんだろうけどね!?
その辺のアレコレは、ちょっと置いておくとして!
何にしても……関西弁と言い、忍者と言い……セレスさまって──日本人なのでは……!?
え、転生?転生者なの?セレスさまも?
だとしたら、剣と魔法のこの世界に使い魔、いや式神がいるのも頷ける、かも知れない。
……む……頷けるかな。
わたしはテラスのテーブルでアフタヌーンティのトレイを挟んで談笑するセレスさま、いやお義兄さまとシャルの元に歩みを進める。
こちらに気づいた二人がすっと立ち上がる。
二人の称賛を隠しもしない表情に、ちょっと気分が上がってしまう。
「……お手をどうぞ。お姫様」
差し出された大きな手に、そっと手を預ける。
シャルが引いてくれた椅子に座ると、執事が紅茶をサーブしてくれた。
小鳥のさえずりがどこからか聞こえてくる。
うわ……ヤバい。
なんかいま、めっちゃ貴族っぽくない!?
「ねえ、姉上。いま僕たちめちゃくちゃ貴族っぽくない?」
シャルレッド、お前もか……!
「ははっ!シャルは間違いなく貴族だろうに」
「んー、でもこんな優雅な感じでお茶飲むとかは……あったっけ?姉上」
「ないかも」
「だよね」
そりゃね、末席とは言え貴族だったわけで。
一通りの礼儀作法は学んでますよ?
でもねぇ……お茶飲むためにドレスに着替えたりは……うん。
「私も普段は執務室か稽古場で飲む方が多いな。今日はちょっと貴族を気取ってみたい気分だったんだ」
そう言って柔らかく微笑む。
わ、わあ、王侯貴族の頂点に立つ人がなにか言ってますヨ!?
王侯貴族ジョークなの!?
「それで……この庭だけど。ルルの部屋からも見えたかい?」
セレスさまの……お義兄さまのちょっと長めの髪が風に揺れて、ふわりと舞う。
琥珀色の瞳はちょっと心配そうな色。
わたしは内側から激しく胸を叩く心臓の鼓動を知らぬ顔で、笑顔を向けた。
「はい。部屋からはお庭の全景が見えて……とても素敵でした!」
いや、これはホント。
ぜひとも探索してみたいぞ!
イングリッシュガーデン!
「そ、そうか。うん、それは、その、良かった」
なぜだかカタコトになってしまったお義兄さまは、ぐびーっと一気に紅茶を飲んだ。
「良かったら、その」
「姉上。兄上に庭を見せてもらったら?」
「え」
さらっとセレスさまの言葉を遮ったシャルが、ニヤニヤと悪い顔で笑う。
む。
この子がこんな笑い方をする時は、たいてい碌
なことを考えてない証拠。
「……そうね。じゃあ、シャルも一緒に」
「僕はパス。アフタヌーンティーのクッキーとスコーンが僕を呼んでるんで。じゃ、兄上よろしくー」
「う、うむ」
咳払いをひとつして立ち上がったセレスさまのエスコートで、立ち上がる。
「もう……あんまり食べ過ぎちゃダメよ?」
「はいはい。いってらっしゃーい。いっただきまーす」
……やっぱりこの子の教育間違ったかしら。
「シャルはいい子だな」
「はい。ああ見えて……とても優しい子です」
お義兄さまの腕に手を添え、庭園を歩く。
間近で見たそれは、イングリッシュガーデンよりちょっと整えられていて、ドレスでも歩きやすい。
区画ごとに植えられている植物が違うから、どの季節でも楽しめるに違いない。
やがて薔薇のアーチをくぐると、開けた場所に出た。
噴水を中心に、左右に可愛い花壇が──
「ルルがどんな花が好きか分からなかったから、メイドたちの意見も聞いて作ったんだが……どうかな」
「──トッテモ、カワイイデス」
花壇の前に白い巨大な虎が寝転んでなければね……!
これって、どうするのが正解なの!?
見えてないって方向でいいの!?
あっ、あっ、目が合いそう!
うわ──ん!
「ルル?」
「ふぐ……っ、お、お義兄さま、あの建物は?」
苦し紛れに指差したのは、本邸の脇にある体育館みたいな建物。
「ああ、あれは騎士たちの訓練場だ。小さく見えるが、中は空間魔法で拡充してある」
「まあ。お義兄さまもあちらで訓練に参加されているんですか?」
そう尋ねると、お義兄さまはちょっとびっくりしたように軽く目を瞠った。
「なぜ──ああ、稽古場でお茶を飲むと言ったからか。うん、参加する事もある。もう一つの魔法用の訓練場を使う事の方が多いが」
「魔法用の……」
「そう。私は魔法騎士でもあるからね」
問・【この時のわたしの心境を答えよ】
解・【ですよね──っ!】
もうね、ここまでヒントが転がってるんだもん!
歴史好きの前世・日本人としては、状況証拠から答えに行き着いちゃうんですよ……!
朱い鳥──朱雀。
白い虎──白虎。
飛ぶ蛇──騰蛇。
きっと、亀──玄武もどこかにいる。
あとね、あとね、式神と同じ気配のあの人。
“ブルーさん”
ブルー……青。
青龍でしょおおぉ!?
それを使役してるって、それって……!
「ん?」
そんなカッコかわいい顔で小首を傾げてもダメです、お義兄さま!
アナタ、いったいどこの陰陽師なんですぅ!?




